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ワンオク東京ドーム公演を古市憲寿がレポ。見たのは「切実さ」と「孤独」 [with]
2018年05月22日(火) 20時00分配信
ONE OK ROCK JAPAN TOURを社会学者 古市憲寿がレポート!
3月31日の京セラドーム大阪公演を皮切りに、先日の福岡ヤフオク!ドーム公演まで計8日間のドームツアーを終えた日本を代表するロックバンドONE OK ROCK。その興奮の模様を、鋭い観察眼で時代を切り取る、社会学者の古市憲寿氏による文章でお届けする。
SET LIST
2018.4.4.Wed/2018.4.5.Thu@TOKYO DOME
01 Taking O ff
02 未完成交響曲
03 キミシダイ列車
04 Cry out
05 The Way Back
06 Bedroom Warfare
07 Clock Strikes
08 One Way Ticket
09 内秘心書
10 Wherever you are
11 L ast Dance
12 [INST]
13 Deeper Deeper
14 I w as King
15 Take what you want
16 The Beginning
17 Skyfall
18 Mighty Long Fall
19 Nobody's Home
-ENCORE-
20 Change
21 完全感覚Dreamer
22 We are
02 未完成交響曲
03 キミシダイ列車
04 Cry out
05 The Way Back
06 Bedroom Warfare
07 Clock Strikes
08 One Way Ticket
09 内秘心書
10 Wherever you are
11 L ast Dance
12 [INST]
13 Deeper Deeper
14 I w as King
15 Take what you want
16 The Beginning
17 Skyfall
18 Mighty Long Fall
19 Nobody's Home
-ENCORE-
20 Change
21 完全感覚Dreamer
22 We are
下を向きながら歌うような少年だった
「俺は人生を5 回やり直したとしても、ONE OK ROCK 以外の道は絶対に選ばないと思う」- Taka
取材・文/古市憲寿
「ぶっちぎってる。あんなに心が動くバンドはいない。声やビジュアルが格好いいのはもちろん、エモーショナルな部分にしびれる。ライブでは毎回、ぶっ倒れそうになりながら、ぎりぎりまで歌う。それでいてチャーミングで愛くるしい。その振れ幅にぐっとくる」
ONE OK ROCKを聴き始めて10年以上になるという友人は、彼らのことをそう評する。めったに他人のことを褒めない彼が、そこまで心酔するバンドには前から興味があった。
地上波のテレビにはほとんど出ないにもかかわらず、着々とファンを増やし、2017年に発売されたアルバム『Ambitions』はこの時代に40万枚を超える売り上げを記録している。国外での活躍もめざましく、2017年のSpotifyランキングによれば、ONEOK ROCKは「海外で最も再生された国内アーティスト」だった。 だけどその分、勝手な苦手意識も持っていた。洋楽をほとんど聴かない僕のような人間にとって、ONE OK ROCKは難しすぎるのではないか、と。正直これまでは、NTTドコモのCMソングにもなった「Wherever you are」くらいしかきちんと聴いたことがなかった。
4月4日の東京ドーム公演を観に行けることになった時も、ちょっと不安だった。『with』でライブレポートを書くことはあらかじめ決まっていたのだが、全くライブが理解できなくて、一文字も書けなかったらどうしようと(そのほうがこのページに写真が増えて、読者にとっては嬉しかったかも知れないけど)。
杞憂(きゆう)だった。
1曲目の「Taking Off」(2016 年)、イントロが鳴り始めると、ドームは観客の歓声に包まれる。暗闇の中からボーカルのTakaが姿を現し、第一声を発する。その瞬間から、彼が「本物」だということはすぐにわかった。
突き抜けるような高音なのに、抑揚のある力強い歌声。ロングトーンでも失われない声量。要は、声がめちゃくちゃ良くて、びっくりするくらい歌が上手い。他の歌手たちが、ともすればお遊戯に見えてしまうくらい、圧倒的なレベルだと思った。 その後、たたみかけるように「未完成交響曲」(2010年)「キミシダイ列車」(2011年)という比較的初期の楽曲が披露される。
この2曲には共通して「死」という言葉が登場する。「未完成交響曲」では〝もしも僕が明日死んでも何かココに残せるよな〞、「キミシダイ列車」では〝「もういいや このまま死んだって」…って思うほどバカに生きてるから〞といった具合だ。
どちらのフレーズも表現としてものすごく目新しいわけではない。だけどそれがTakaによって歌われることで、一気に「本当」の言葉になる。直感的に彼らが「本当」にそう思っているのだろうと納得してしまうのだ。友人の言っていた「エモーショナル」という言葉の意味もわかる気がした。
1曲目の「Taking Off」(2016 年)、イントロが鳴り始めると、ドームは観客の歓声に包まれる。暗闇の中からボーカルのTakaが姿を現し、第一声を発する。その瞬間から、彼が「本物」だということはすぐにわかった。
突き抜けるような高音なのに、抑揚のある力強い歌声。ロングトーンでも失われない声量。要は、声がめちゃくちゃ良くて、びっくりするくらい歌が上手い。他の歌手たちが、ともすればお遊戯に見えてしまうくらい、圧倒的なレベルだと思った。 その後、たたみかけるように「未完成交響曲」(2010年)「キミシダイ列車」(2011年)という比較的初期の楽曲が披露される。
この2曲には共通して「死」という言葉が登場する。「未完成交響曲」では〝もしも僕が明日死んでも何かココに残せるよな〞、「キミシダイ列車」では〝「もういいや このまま死んだって」…って思うほどバカに生きてるから〞といった具合だ。
どちらのフレーズも表現としてものすごく目新しいわけではない。だけどそれがTakaによって歌われることで、一気に「本当」の言葉になる。直感的に彼らが「本当」にそう思っているのだろうと納得してしまうのだ。友人の言っていた「エモーショナル」という言葉の意味もわかる気がした。
「死」を意識して生きることと「永遠」は紙一重である。どちらも、日常とは一線を画した超越的な何かを志向しているからだ。「ClockStrikes」(2013年)では、「永遠」を信じ続けて欲しい、「I won’t go away(僕は逃げない)」「Believe it till the end(最後まで信じ続けてよ)」とたたみかける。
どの曲もまるで、彼らの生き様に対する声明文であり、ファンに対する誓約のようだ。
すごいのは、これだけ暑苦しいことを歌っているのに、彼らに泥臭さが一切ないこと。ONE OK ROCK以外にも、命を削るように創作活動を続けるミュージシャンはたくさんいる。だけど彼らは往々にして、ちょっと格好悪かったり、野暮ったかったりする。
一方のONE OK ROCKは、どこまでもスタイリッシュだ。メンバーのたたずまいのせいもあるが、彼らがただ暑苦しいだけのバンドにならなかった秘密は、その歴史にあるのかも知れない。
どの曲もまるで、彼らの生き様に対する声明文であり、ファンに対する誓約のようだ。
すごいのは、これだけ暑苦しいことを歌っているのに、彼らに泥臭さが一切ないこと。ONE OK ROCK以外にも、命を削るように創作活動を続けるミュージシャンはたくさんいる。だけど彼らは往々にして、ちょっと格好悪かったり、野暮ったかったりする。
一方のONE OK ROCKは、どこまでもスタイリッシュだ。メンバーのたたずまいのせいもあるが、彼らがただ暑苦しいだけのバンドにならなかった秘密は、その歴史にあるのかも知れない。
セットチェンジの間、彼らの来歴を振り返るVTRが流された。始まりは2005年。彼らがバンドを結成した年だ。キャパシティ数百人のライブハウスで演奏をする画質の悪い映像から始まったVTR。それから毎年、ライブの規模と質が上がってきたのがわかる。
2006年には新宿LOFT で初のワンマンライブ、2009年には新体制になって全国22ヵ所を回るツアーを開催、2010年には初の武道館ライブ、2012年には横浜アリーナ公演と海外を含むツアーを実現……。
VTRが終わり、メンバーが会場後方に設けられたサブステージから現れる。リラックスした雰囲気の中語られたのは、ONE OK ROCKというバンドの物語だった。それはまだバンドにTakaが加わる前、ギターのToruがボーカルを兼ねていた頃から始まる。現行メンバーはToruの他には、ベースのRyotaしかいない。
自分のボーカルに対して「俺、なんか違うな」と気付いたToruは、「ボーカルを探す旅」に出かけた。そこで出会ったのがTakaだった。
だけど当時のTakaは、今のTakaではなかった。別のバンドの一員だった彼は、ステージの上でずっと下を向きながら歌うような少年だったという。
しかし歌のうまさは圧倒的だった。Toruは「最高のボーカル」を見つけたと確信し、Takaのバイト先まで押しかけ、「関西の圧」で口説いた。
Takaの勧誘には成功したものの、メンバー同士がすぐに打ち解けたわけではない。Ryotaは冗談めかして「俺は当時のTakaがすごい怖かった」「一年くらい一言も話せなかった」と語る。その後「天使」のような常識人、ドラムのTomoyaが加入して、現在のメンバーが揃うことになった。
にわかに信じられないのは、Takaに「ずっと下を向きながら歌っていた」時代があったことだ。東京ドームの空気を一瞬で変えてしまうTakaに、確信に満ちた表情で会場を煽るTakaに、本当にそんな時代があったのだろうか。
確かに当時のTakaは、大変な状況にあった。当時のインタビューでも「俺、すべてを失ったんです」と述べている。その「すべてを失った」Takaが出会ったのが、ToruとRyotaであり、それがONE OK ROCKになった。
2006年には新宿LOFT で初のワンマンライブ、2009年には新体制になって全国22ヵ所を回るツアーを開催、2010年には初の武道館ライブ、2012年には横浜アリーナ公演と海外を含むツアーを実現……。
VTRが終わり、メンバーが会場後方に設けられたサブステージから現れる。リラックスした雰囲気の中語られたのは、ONE OK ROCKというバンドの物語だった。それはまだバンドにTakaが加わる前、ギターのToruがボーカルを兼ねていた頃から始まる。現行メンバーはToruの他には、ベースのRyotaしかいない。
自分のボーカルに対して「俺、なんか違うな」と気付いたToruは、「ボーカルを探す旅」に出かけた。そこで出会ったのがTakaだった。
だけど当時のTakaは、今のTakaではなかった。別のバンドの一員だった彼は、ステージの上でずっと下を向きながら歌うような少年だったという。
しかし歌のうまさは圧倒的だった。Toruは「最高のボーカル」を見つけたと確信し、Takaのバイト先まで押しかけ、「関西の圧」で口説いた。
Takaの勧誘には成功したものの、メンバー同士がすぐに打ち解けたわけではない。Ryotaは冗談めかして「俺は当時のTakaがすごい怖かった」「一年くらい一言も話せなかった」と語る。その後「天使」のような常識人、ドラムのTomoyaが加入して、現在のメンバーが揃うことになった。
にわかに信じられないのは、Takaに「ずっと下を向きながら歌っていた」時代があったことだ。東京ドームの空気を一瞬で変えてしまうTakaに、確信に満ちた表情で会場を煽るTakaに、本当にそんな時代があったのだろうか。
確かに当時のTakaは、大変な状況にあった。当時のインタビューでも「俺、すべてを失ったんです」と述べている。その「すべてを失った」Takaが出会ったのが、ToruとRyotaであり、それがONE OK ROCKになった。
メジャーデビューシングル「内秘心書」(2007年)や、大人気曲「Wherever you are」(2010年)が披露された後、再びのセットチェンジのためにTaka一人だけがサブステージに残された。
そしてギターを手にして歌われたのが「Last Dance」(2015年)という曲だ。
ライブでは、どうしてもTakaの圧倒的な存在感に目が行きがちである。しかし、Takaというアーティストには、絶対にメンバーの存在が欠かせない。そのことを再確認させるような、繊細なステージだった。
Takaは、うつむきがちに、フレーズを嚙みしめるように言葉を絞り出す。さっきまで数万人を煽っていたカリスマの寂しくて不安そうな表情。なんて悲しそうな顔をする人なのだろうと思った。
Takaの根っこには圧倒的な孤独がある。そしてそれはONE OK ROCKという居場所によってのみ癒やされる。文字通り、彼にとってONE OK ROCKは「すべて」なのだ。
メインステージで4 人に戻ったTakaは、さっきまでのTakaだった。もちろんもう下なんて向かない。「I was King」(2016年)などの曲で会場を一体にしていく。
本編最後は確執のあった両親への感謝を歌った「Nobody’s Home」(2010年)。Takaの心根の優しさがわかる一曲だ。音楽で一時期は家族まで失いそうになった彼は、音楽によって生涯の仲間を得て、両親との和解も果たした。
Takaは最後のMCでこんなことを言っていた。「俺たちにはONE OK ROCKしかありません」「俺は人生を5回やり直したとしても、ONE OK ROCK以外の道は絶対に選ばないと思う」中々言える言葉ではない。
彼らが「本物」に見えるのは、プロデュース能力や小手先のテクニックによるものではなく、彼ら自身が誰よりも「本気」だから。その姿に、人は問答無用に心を打たれるのだろう。
ONE OK ROCKのメンバーに共通しているのは、10代で大きな人生の決断をしていること。その代償に大きな何かを失っていること。その孤独を今でも背負っていること。そして、その孤独を埋める圧倒的な存在がONE OK ROCKであること。
音楽に対する切実さと孤独の共存が、彼らの魅力の源だと思った。
そしてギターを手にして歌われたのが「Last Dance」(2015年)という曲だ。
ライブでは、どうしてもTakaの圧倒的な存在感に目が行きがちである。しかし、Takaというアーティストには、絶対にメンバーの存在が欠かせない。そのことを再確認させるような、繊細なステージだった。
Takaは、うつむきがちに、フレーズを嚙みしめるように言葉を絞り出す。さっきまで数万人を煽っていたカリスマの寂しくて不安そうな表情。なんて悲しそうな顔をする人なのだろうと思った。
Takaの根っこには圧倒的な孤独がある。そしてそれはONE OK ROCKという居場所によってのみ癒やされる。文字通り、彼にとってONE OK ROCKは「すべて」なのだ。
メインステージで4 人に戻ったTakaは、さっきまでのTakaだった。もちろんもう下なんて向かない。「I was King」(2016年)などの曲で会場を一体にしていく。
本編最後は確執のあった両親への感謝を歌った「Nobody’s Home」(2010年)。Takaの心根の優しさがわかる一曲だ。音楽で一時期は家族まで失いそうになった彼は、音楽によって生涯の仲間を得て、両親との和解も果たした。
Takaは最後のMCでこんなことを言っていた。「俺たちにはONE OK ROCKしかありません」「俺は人生を5回やり直したとしても、ONE OK ROCK以外の道は絶対に選ばないと思う」中々言える言葉ではない。
彼らが「本物」に見えるのは、プロデュース能力や小手先のテクニックによるものではなく、彼ら自身が誰よりも「本気」だから。その姿に、人は問答無用に心を打たれるのだろう。
ONE OK ROCKのメンバーに共通しているのは、10代で大きな人生の決断をしていること。その代償に大きな何かを失っていること。その孤独を今でも背負っていること。そして、その孤独を埋める圧倒的な存在がONE OK ROCKであること。
音楽に対する切実さと孤独の共存が、彼らの魅力の源だと思った。
►PROFILE FURUICHI NORITOSHI
'85 年東京都生まれ。社会学者。若者の生態を的確に抽出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)などで注目される。近著の『保育園義務教育化』(小学館)では、女性が置かれた理不尽な状況を描き、その解決策を示す。