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カンパニー松尾が愛する、ウォン・カーウァイ作品 [FRaU]

2017年07月23日(日) 19時00分配信

『欲望の翼』(C)1990 East Asia Films Distribution Limited and eSun.com Limited All Rights Reserved

「映画らしくない、でも、抜群にかっこいい。撮影の手法や、登場人物の関係性は、すごくAVっぽいと思った。だから自分の撮ったAVでも、さんざん真似しました。僕はAV監督だけど、かっこいいものが撮りたかったから」(AV監督 カンパニー松尾さん)

PROFILE

AV監督
カンパニー松尾さん
1965年、愛知県生まれ。AVメーカー「HMJM(ハマジム)」所属。代表作『私を女優にして下さい』『劇場版 BiS誕生の詩』など。
ウォン・カーウァイのDNAをAVに吹き込む

『花様年華』 (C) 2000, 2009 Block 2 Pictures Inc. All Rights Reserved.

ウォン・カーウァイのDNAをAVに吹き込む

「ウォン・カーウァイは普通に人気あるからね。なんで俺のところにわざわざ来てくれたの? まぁうれしいけどさ」

そう謙遜しながら語るカンパニー松尾は、アダルトビデオを撮り、編集し、自らも男優として出演するスタイルで、一部の男性から熱狂的に支持されるAV監督だ。女性には馴染みがないかもしれないが、男子たちにとっては憧れの人物である。彼はAV撮影において、前戯の間もセックスの最中も、カメラを手に持ったまま撮影する「ハメ撮り」という手法を確立したことで知られているが、功績はそれだけにとどまらない。

と、この手の話を女性向けの本誌でどこまで詳細に書けばよいのか、悩ましいところではあるが、前提を共有せずには、ウォン・カーウァイとカンパニー松尾の相互性に説得力を持たせることができないので、しばしお付き合いください。

あくまで男性が抜くことを目的とされたアダルトビデオでは、セックスシーンの前後に申し訳程度のドラマや小芝居が挿入されるのが常だが、カンパニー松尾の代表作は、いわばドキュメンタリー作品である。

テレビ東京で放送中のドキュメンタリードラマ『山田孝之のカンヌ映画祭』の監督を務める松江哲明や、銀杏BOYZの峯田和伸など、カンパニー松尾を敬愛する作家やミュージシャンは数多い。たとえば、大根仁監督は『モテキ』の中で、長澤まさみや満島ひかりといった女優たちをエロく撮るために、とにかくカメラを回し続け、自らもカメラを持って撮影するという、カンパニー松尾の「ハメ撮り」スタイルとイズムを継承したと公言している。

そして、もともとはAVの長編シリーズだったものが、2014年に異例の劇場公開されたカンパニー松尾監督作『劇場版 テレクラキャノンボール2013』は、局地的に話題騒然となり、フジテレビのバラエティ番組『めちゃ×2イケてるッ!』でもオマージュを捧げた企画が放送され、TBSではタイトルそのまま『TV版 芸人キャノンボール』という番組まで制作されている。

AVの世界に叙情とポエジーと臨場感を持ち込み、カルチャーシーンにも衝撃を与え、多くのフォロワーを生んだ男、カンパニー松尾。なにもAVをそんな真剣に……と思われるかもしれないが、ことカンパニー松尾のAV作品について語るには、このくらいの真剣さと熱量でも足りないぐらいである。

『花様年華』 (C) 2000, 2009 Block 2 Pictures Inc. All Rights Reserved.

本題に入るまでに、ずいぶんと前段が長くなってしまったが、そんなAV監督がウォン・カーウァイ作品のどこに惹かれ、どんな影響を受けたのか? ようやく核心に迫る。

ウォン・カーウァイが『いますぐ抱きしめたい』で映画監督デビューをした1988年、同じくカンパニー松尾も『あぶない放課後2』でAV監督としてデビューを果たす。

「そうなんだね。言われて気づいたよ。年齢は向こうのほうが7つ上だけど、キャリア的には同じくらいのか。初めてウォン・カーウァイの映画を観たのは、この仕事をはじめたばっかりのころだった。僕は映画が好きじゃなくて、ほとんど観ないんだけど」

映像業界で革新を起こしながらも、映画は好きじゃないと語る。その真意は?

「もともとテレビの音楽番組を制作する会社に就職して、そのあとAVの会社に入った。映像の仕事には就きたかったんだけど、それはMTVが好きで、ミュージックビデオを撮りたかったから。育ったのが田舎で映画館もなかったし、まわりに映画をたくさん観ているようなやつもいなくて、音楽ばっかり聴いていた。だから上京して映像の専門学校に入って、同級生に『どんな映画が好きなの?』とか聞かれても答えられないんだよ」

映画とは距離のあった彼だからこそ、いわゆる劇映画のフォーマットからは逸脱したウォン・カーウァイ作品にピンときたのだ。

「最初に観て思ったのは『なんだこれ、映画じゃないじゃん』って。作品を通じて、なにかテーマを言い表しているわけでもなく、際立った物語があるわけでもない。でも散文的に意味深なことを語っているような感じ。そこに惹かれたね」

カンパニー松尾の作品には、AVらしからぬ散文の字幕が入ることがよくある。前述の峯田和伸は、カンパニー松尾監督作『レディコミ志願兵出張撮影 ドキュメント オークション02』の感想を〈回されっぱなしのカメラに夜の高速道路からやっと東京の夜景が現れる。「こう、外から帰ってくるときの東京の夜景が好きだ。」松尾氏の作品には時々ドキッとする字幕が入る。たまらない。人間のやるせない心情だったり、どうにもできない孤独感がたまに風景と重なる瞬間がある。〉と綴っている。

「僕のAVも散文だもんね。映画ならではの作り込んだものにはまったく興味を持てなかった僕にとって、ウォン・カーウァイはすごく観やすくて、話がよくわからないところも含め、大好きになった」

『欲望の翼』(C)1990 East Asia Films Distribution Limited and eSun.com Limited All Rights Reserved

AVでありながら、カンパニー松尾の作品は、随所でウォン・カーウァイを感じることができる。自身も「ウォン・カーウァイもの」と呼ぶほど。なお、DVDのパッケージや宣伝文には、ウォン・カーウァイの名前は一切出てこない。しかし、本編のシーンを観ると、見紛うほどのリスペクトに溢れている。

「技法も真似したことはいっぱいあって、急にスローモーションにしたり、抱きしめているシーンで一瞬だけストップモーションをかけたり。人物の配置、広角の画の撮り方、地下鉄とか何気ない場所をかっこよく撮る手法なんかも、ずいぶん影響されました。あとは、わかりやすい洋楽のベタなヒット曲をいきなりかけたりね」

ウォン・カーウァイを一躍スターにした『恋する惑星』では、ママス&パパスの超メジャー曲『夢のカリフォルニア』が幾度となく流れ、エンディングでは、フェイ・ウォンがクランベリーズの大ヒット曲『ドリームス』をカバーしている。ウォン・カーウァイ作品にとってそうであるように、カンパニー松尾作品にとっても、音楽は非常に重要だ。その気満々でAVを鑑賞しているにもかかわらず「お、いい曲」「この曲なんだろう」と、手が止まってしまった経験は一度や二度ではない。

「なかでも僕が一番好きなのは、1990年の『欲望の翼』かな。これはすごいよ。なんのひねりもなく言うと、とにかくレスリー・チャンがめちゃめちゃにかっこいい。あのやさぐれた感じとかさ。大好きなカットがあって。自分は母親との関係がよくないのに、母親に手を出すような男はガンガンに殴る。そのあと、ビシッと鏡を見ながら髪に櫛を通すの。それを観て、男ながらに『ひゃ〜〜!』ってなったもん。ウォン・カーウァイの乙女っぽい部分が存分に出ているカットだと思う。それと〈1960年の4月16日、3時前の1分間、君は俺といた。この1分を忘れない〉っていうセリフ。そのあと本当に1分間見つめ合う。ウォン・カーウァイの作品には、こんなの映画でしか言わないよっていう粋で散文的なセリフがたくさん出てくるけど、そこにもビンビンきた」

さらに、同業者ならではの視点、カメラワークの魅力についても。

「1995年の『天使の涙』が顕著だけど、ウォン・カーウァイとコンビを組んでいたクリストファー・ドイルという撮影監督がいて、広角レンズを多用していたり、暗い画が多かったり、カメラも手持ちでバンバン動き回って、かっこいいんですよ。しかも、そういう撮り方はAVっぽい。登場人物の関係性にしても、出会って親密にはなるんだけど、結局あっさり別れていく感じはAVに近いよね。それで僕はさんざん真似するようになっていって。『チャイナ』とか『TANGO』は、わかりやすくウォン・カーウァイものだね」

『欲望の翼』(C)1990 East Asia Films Distribution Limited and eSun.com Limited All Rights Reserved

最後に、そもそもカンパニー松尾は、なぜこんなにもカルチャー濃度の高い作品を撮るようになったのか。

「一般的なAVには、監督がスタートって言ったあとの出来事しか映ってないでしょ。でも実際は、その前に挨拶をして、多少なりとも会話してますよね。そういう場面をアシスタント時代に見ていて、こっちのほうがおもしろいのにって思ったんですよ。というか、セックスをするときに『よーい、スタート』っておかしいだろって。だったら自分で監督するときには、女優さんと会うところからカメラを回して、外で一緒に食事して、ぶらぶら観光とかもして、おしゃべりして、もちろんセックスもして。だから僕のAVには景色や街がたくさん映ってる。セックスシーンさえちゃんと入っていれば、あとのシーンでは何をしてもいいだろうっていう考え方。僕はとにかく、かっこいい映像が撮りたかった。そこで参考にしたいなと思ったのが、ウォン・カーウァイだったんです」
愛し過ぎて☆オマージュ作品

(C)HMJM All rights reserved.

愛し過ぎて☆オマージュ作品

『CHINA 椎名まゆみ』

「衣装のチャイナドレス、ロケ場所の雰囲気、クリストファー・ドイルをモロに意識した画のタッチに色味、音楽で綴るイメージ映像、そしてタイトルバックのテロップにいたるまで、一貫して『花様年華』のパクリですね。撮影は歌舞伎町のラブホテル。セックスシーンはハメ撮りですが、トニー・レオン役の俳優が出ています」

(C)HMJM All rights reserved.

『世界弾丸ハメドラー TANGO
地球の裏側で愛を踊る 真奈美』

「これはわかりやすく『ブエノスアイレス』へのオマージュですね。ロケ地も同じブエノスアイレスだし、映画に出てきたイグアスの滝にも、トニー・レオンがドアマンをしていたバーにも行って撮影してます。しかも、もちろん自撮り。かっこつけている僕が堪能できます。なんて(笑)ちゃんと主役の美しい女優さんとの絡みを観てください」

(C)HMJM All rights reserved.

『世界弾丸ハメドラー
夢幻序曲 あかり』

「これも『花様年華』が元ネタで、エンディングシーンのロケ地であるカンボジアのアンコール・ワットまで行って撮影しました。もう単純にファンのロケ地巡りだよね。女優さんと観光して、一緒に食事をして、田舎のリゾートホテルに泊まって、セックスして。ウォン・カーウァイ好きの方にとっては、ロードムービーとして楽しめるかもしれません」

 

●情報は、FRaU2017年3月号発売時点のものです。

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