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松本千登世「求められると人は思いもよらない力を発揮する」 [VOCE]

2018年08月02日(木) 20時30分配信

文:松本千登世

美容ジャーナリスト・エディターとしてVOCEでも出演、取材、編集、執筆と活躍中の松本千登世さん。その美しさと知性と気品が溢れる松本千登世さんのファンは美容業界だけにとどまらない。彼女の美容エッセイから、「綺麗」を、ひとつ、手に入れてください。
求められるって、生きる力

講談社VOCE

求められるって、生きる力

「老人ホームでボランティアをしてる僕の祖母が、いつも愚痴を言うんです。『老人なんか、大嫌い。何もしないで、すぐ甘えようとするんだから』って。ばあちゃん、83歳なんですけど……」。友人のご主人が、笑いながら話してくれました。

世間一般の常識では、自分が面倒を見られる立場になってもおかしくない年齢。でも、聞けばこの人はとにかく若い。心はいつも前向き、知力も体力もまだまだ上向き、どうやら見た目も、とてもこの年齢には見えないらしい。

周りの老人たちに求められるから、歳なんか取っていられない。歳を取れないから、さらに求められる……。そのスパイラルの中で生きているから、この人は実際若いのだと思います。

求められると人は思いもよらない力を発揮するもの。信じられると裏切れない、期待されるとそれ以上の結果を残したいと思う、そして頼られるうちに本当に頼もしくなる、みたいな。

だから私たちはまず、家族や友人、仕事仲間に求められるよう努力をすべきなのだと思います。すると、想像以上の力が発揮され、魅力がどんどん増していく。結果、心も見た目も若くなる……。そんな綺麗へのスパイラルが起こるに違いないのだから。
日本の魂を伝えること

講談社VOCE

日本の魂を伝えること

たまたま行った「Kyogen Lounge」。能楽師狂言方である大藏基誠さんが、日本の伝統文化のひとつである「狂言」をもっと若い人に知ってほしいとの思いから企画、プロデュースを続けているライブイベントです。

恥を忍んで白状すると、私自身、大人すぎる大人なのに、今まで伝統文化にきちんと触れてきませんでした。狂言に至っては初めての体験。尻込みする私に「とにかく見ればわかるから」と友人。その言葉に促されるままに、予備知識なく参加しました。

ラウンジスペースがあったり、着物姿のDJがいたりと、いい意味で予想を裏切る開放的な雰囲気。素人を楽しませるために笑いを交えて行われた「基本のき」の説明は、それだけでも見る価値があるほど。何より、大藏さんご自身に華と引力があるから、思わず目も心も釘付け……。そして、狂言体験。狂言ってこんなに興奮させられるものだったの!? 全身の細胞が活性化されるような感覚に包まれました。こんな大人の楽しみがあるのなら、もっと早く知りたかった、そう思ったほど。

伝統は伝統。「変わらない」のがその素晴らしさ。だから私たち日本人は、ひとりひとりが自ら触れる機会を作って「見る側」として伝えていく使命を帯びているのにと、心のどこかに引っかかっていました。

ところが、いつか大人になったら、時間に余裕ができたら、と先延ばしにしているうちに、まったく縁のないものになっていたのです。若い世代はきっとなおのこと縁遠いもの。そうなら、「演じる側」から歩み寄ってしまおう、寄り添ってしまおう、そう考えたのが大藏さん。時代の変化を嘆くのでなく、しなやかに捉えて、両者の距離を縮め、お互いに楽しめるまったく新しい方法をクリエイトしている……。その柔軟な姿勢に、改めて感動しました。

守るべき伝統。そのための革新。揺るぎない軸と時代と呼吸するしなやかさ……どこか女性のあり方にも通ずるのではないでしょうか?
「今向いているほうが、前」

講談社VOCE

「今向いているほうが、前」

今はもう、「そんなこと、言ったっけ?」と照れる年齢なのでしょうか? 日本を代表する歌人、俵万智さんのご子息がまだ小学生のころ、数々の「名言」を残していると話題になったことがありました。

「宿題を少しやっては『疲れた~』と投げ出す息子。『遊んでるときは全然疲れないのにね』とイヤミを言ったら『集中は疲れるけど、夢中は疲れないんだよ!』と言い返されました」

「電子書籍について、息子に説明をした。『便利だね! でもオレは、コロコロコミックをめくる時、顔に感じる風が好きなんだよなー』」。

子どもってアーティスト、子どもってコピーライター。むき出しの感性が生む言葉の強さや豊かさに、大の大人がどぎまぎさせられることがあります。驚かされたり、気付かされたり、反省させられたり……。そして、私自身が思わず背筋が伸びた極めつきは、こんなひと言。

「『先生ってさあ』と息子。『よく、前を見なさい! って言うよね』。まあ、あんたがよそ見ばっかりしてるからじゃない? 『でもさあ、オレにとっては、見ているほうが前なんだよね』……ん?」。

俵さんのDNAを受け継ぐ、ずば抜けたセンスのよさに脱帽しながら、思い出したことがあります。じつは以前、悩んで、後ろ向きになっている私をこんなふうに励ましてくれた友人がいたこと。

彼女は私に、「今向いているほうが、前だから」と言ってくれました。

強風が吹いているとき、自分を守るために、一瞬後ろを向くことがある。落とし物をしたり、忘れ物をしたりして、一瞬後ろを向くことがある。どちらもじつは後ろじゃなくて、前を向いているってことなんじゃない? 長い人生、そんなときがあってもいいよ。いや、むしろ、そういう人のほうが、私は魅力的だと思うなあ。

そんな彼女の言葉に触れて、早く前を向かなきゃ、早く歩き出さなきゃとプレッシャーをかけていたのは、ほかの誰でもなく自分自身だったことに気付かされました。冒頭の「少年」と彼女の言葉を重ね合わせ、ピュアな感性は人を救う、改めてそう痛感しています。

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