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女優・風吹ジュン × 文筆家・松浦弥太郎が語る【50代からのシンプルな暮らし】 [おとなスタイル]

2016年12月06日(火) 09時00分配信

15年来の友人である風吹さんと松浦さん。

本物を見極める、研ぎ澄まされたセンスの持ち主であるおふたりが考えるシンプルとは?
捨てること、減らすことだけではないシンプルライフの価値を語っていただきました。

ふたりが考える“シンプルな暮らし”とは?

センス問答1ものの減らし方


風吹ジュンさん
「ただ断捨離に躍起になるのではなくて、豊かさはなくしたくない」

松浦弥太郎さん
「ただものを減らすって、実はすごく寂しいことなのではないかと思うんです」

シンプルとは豊かさを大事にすること

風吹 松浦さんとは、実は息子を通じての知り合いでして(笑)。

松浦 そうなんですよね(笑)。

風吹 息子が中学生の頃に、学校の課題がきっかけで松浦さんと知り合い、以来、人生の師匠として松浦さんをご尊敬申し上げるようになったんです。写真に興味のあった息子は、松浦さんの取材について行くなんてこともありましたね。それで私もお目にかかるようになって。

松浦 師匠なんてとんでもないですが、彼は本当にいい友達ですよ。歳はもちろん随分違うんだけど、なんかそんな気がしないんですよね。

風吹 そう言っていただけると、本当にありがたいです。うちではもう『師匠!』とみんなで尊敬しています(笑)。ところで、その松浦さんと、今日は「シンプルに生きる」というテーマでお話しさせていただくのですが、松浦さんも私も、シンプルからは遠い気がするんですよね(笑)。

松浦 シンプルじゃないですね(笑)。でも今、ものを減らそう減らそうという方向に、世の中がなっていますが、ただものを減らすって、実はすごく寂しいことなのではないかと思うんです。世の中には、今買わなくていいけれども、いつか買えたらいいなあと思う素晴らしいものがいっぱいある。ものを減らしたり、買い控えることで、そうしたものにまで興味を失うのは残念な気がします。

風吹 寂しい感じがしますよね。ただ断捨離に躍起になるのではなくて、豊かさはなくしたくない。

松浦 そうなんですよ。たぶん僕や風吹さんが大事にしているシンプルさって、物質的なものではないんだと思うんです。風吹さんもアートや本が好きだから、いろいろなところに出かけて、いろいろなものを見て、部屋にあったらいいだろうなぁと思うものに出会って、時には買って帰ったりもしますよね。

風吹 そうですね。

松浦 そういうものって学びがあるし、クオリティもあるから、自分を豊かにしてくれる。そういう喜びは失くしたくないですよね。僕は、シンプルな暮らしとは、自分を豊かにしてくれるものを大事にすることだと思っているんです。ただひたすらものを減らすのではなく、逆に評判や流行りで飛びつくのでもなく、自分を豊かにしてくれるものを置いておきたい。そういうものに出会うと「シンプルな暮らしってどういうこと?」「豊かさって何?」と、逆にものが問いかけてくる気がするんです。

風吹 私はシンプルに答えを出すときの決め手は「好き」か「嫌い」かです。切り落とすものと残すものの最終的な判断はそこだけ。洋服なんかは、一度すべて袋に分別してみるんです。そうすると、袋ごとそのままゴミになる場合もあるくらい、自分の今の暮らしの中での要不要がスッキリ見えてくる。自分の方向性が見えてくる気がするんですね。

松浦 なるほど、スッキリしますね。

風吹 でも、その一方で、20代の頃からずっとあって、確実に捨てないものもあります。それには、後から出てきたものがどんなに頑張っても敵かなわないクオリティや、こだわりや、思い出がある。そうすると、中間って自然になくなっていくんですね。残って着こなせるものは、やっぱり魂が入っているからなんですよね。その意味で、松浦さんの豊かなものへのこだわりにも共感できるんです。松浦 心を豊かにするものは、大事にしておきたいですよね。

ふたりが考える“50代からの選び方”とは?

センス問答2シンプルな暮らし


風吹ジュンさん
「私はシンプルに答えを出すときの決め手は“好き”か“嫌い”かです」

松浦弥太郎さん
「僕は、シンプルな暮らしとは、自分を豊かにしてくれるものを大事にすることだと思っているんです」

50歳は再発見のとき。自分返りで自由になる

風吹 でも、何がシンプルかって、やはりここ数年の松浦さんの生き方のような気が私はしています(笑)。10年かかって作り上げた『暮しの手帖』という場からサッと旅立って、また次へ進んで答えを出している。その正直さこそシンプルかなと。

松浦 そうですね。だから、さっき風吹さんがおっしゃったように、シンプルに生きるって、ものにしても行動にしても、結局は好きか嫌いか、自分がしたいかしたくないかという基準で決めることなんでしょうね。僕は今、50歳なんです。これまでは時間っていくらでもあるように思えていたんですけど、この歳になって初めて、人生には限りがあるんだなと意識しました。そして、限りがあるのならば、これから先は、もっと自分に正直に、それこそ好きか嫌いかというところで、自分の人生を作っていったほうが、絶対いいと考えたんですよね。

風吹 それって、すごく勇気のいることでもありますよね。

松浦 ほとんどの人に反対されました。でも最終的に自分で意思決定をするときの決め手は、どちらの道がワクワクドキドキするか、ということ。そう考えたら新しい道のほうだと思った。何の保証もされていませんが、新しい出会いで変わっていくであろう自分のことに興味が持てたんですね。これからは、ちょっとわがままを言って生きていこうと。

風吹 そうやって、余分なものを削り落としていくっていうことね。

松浦 そうですね。削り落としていく。昔から好奇心旺盛だし、ものが好きなので、何にでも手を出しては、何でも手に入れてきたわけです。それが一回りして、自分にとって何が必要で何が不必要か、自分のスケールがわかったんじゃないでしょうか。

風吹 そうかもしれないですね。でも、そういった何にでも興味を持って、大切に過ごした時間も無駄にはなっていないですよね。

松浦 そう。無駄にはなっていない。

風吹 そこがあったから、今の答えに行き着いたという。

松浦 もちろん、そうです。

風吹 やはり、ちゃんと自分で体験して積み重ねていかないと、本当のものは見えてこない気がしますね。

松浦 風吹さんも、やはり年月とともに何かが見えてきましたか。

風吹 私は50代に入って、すごく自由になって楽になったんですね。40代は、やはり家族や生活を守ることを第一に生きていたので、働き方ひとつとっても、好きな仕事よりは、好かれる仕事を優先してきましたから。そこには役者としての挑戦はなかった。なのでそこからが大変でした。これからどうする? って(笑)。

松浦 そうだったんですね。

風吹 だから50代は自分の再発見でしたね。子どもが成長してくれて、それこそ松浦さんと出会ってくれたお陰で(笑)、ひとりの人間としてまた自分と向き合う時間が持てた。そのときに改めて、私は何がしたいの? 何が好きなの? と問いかけ直すことができたんですね。そして、お茶を探しに歩いたり、旅に出たりと、本当に自分の好きなことを探す時間を作れたんです。

松浦 それは大事な時間でしたね。

風吹 それも、一回りしてきたからこそ、持てたものなんでしょうね。

松浦 歳を重ねると、若い頃より鼻が利いてくるから、失敗しなくなるでしょう? 無邪気さみたいなものが減っていく気がするんです。でも、その一方で、矛盾しているようなんですけど、生活全般において、子どもっぽくなっている気がしませんか。今までは人からの見られ方とかを気にして、一人前の振りをしていたんですけど、50を越してから、すごく自分らしくなっているように感じるんです。それが「自由になった」っていうことなのかもしれませんね。

風吹 自分返りするんじゃないかしら。若い頃のほうが「こう見られちゃいけない」っていう気負いがあるでしょう? 肩肘張らないと生きていけないような気がして。そう言えば、私も娘に「大人げない」って言われたのは50代かもしれない(笑)。

松浦 それは最高の褒め言葉じゃないですか(笑)。

風吹 いやいや(笑)。でも、確かに自分返りするのかもしれませんね。
■Profile

風吹ジュンさん
ふぶき じゅん
1952年富山県生まれ。’75年ドラマ『寺内貫太郎一家2』で女優デビュー。’91年映画『無能の人』で日本アカデミー賞優秀助演女優賞ほか多数受賞。NHK連続テレビ小説『あさが来た』、TBS系『家族ノカタチ』など出演作多数。『団塊スタイル』(Eテレ 毎週金曜午後8時~)では、司会を務めている。

松浦弥太郎さん
まつうら やたろう
1965年東京都生まれ。文筆家。『COWBOOKS』代表。18歳で渡米、執筆活動を始める。’06年より2015年3月まで『暮しの手帖』編集長を務める。現在はクックパッド(株)にて新メディア「くらしのきほん」を運営。『くちぶえサンドイッチ』『今日もていねいに。』『日々の100』など著書多数。

『おとなスタイル』Vol.4 2016秋号より
(撮影/若木信吾)

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