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映画監督・西川美和と『永い言い訳』 [FRaU]
2016年11月17日(木) 19時00分配信
映画監督・西川美和さんの最新作『永い言い訳』。デビュー作『蛇イチゴ』から、『ゆれる』『ディア・ドクター』『夢売るふたり』など一貫して自身でオリジナル脚本を手がけてきた彼女が、今回は初めて映画に先行して原作小説を書き下ろした。
主人公の衣笠幸夫は小説家。人気作家・津村啓としてテレビ番組などにも出演している。結婚して20年になる美容師の妻・夏子がいながら、妻の旅行中に若い編集者と情事を重ねていた。
そこに突然、妻の訃報が届く。夏子の死をまっすぐに悲しむことができない幸夫の前に現れたのは、夏子とともに事故で亡くなった親友・ゆきの夫・陽一だった。陽一とゆきの間には、2人の子供がいた。妻を亡くした幸夫が、母を亡くした子供たちと出会い、“誰か“と生きることのうれしさとむずかしさを実感していく――。
映画では、幸夫は、本木雅弘さんが演じている。この主人公、今までの作品の中でもっとも西川さん自身に近いキャラクターなのだそうだ。
そこに突然、妻の訃報が届く。夏子の死をまっすぐに悲しむことができない幸夫の前に現れたのは、夏子とともに事故で亡くなった親友・ゆきの夫・陽一だった。陽一とゆきの間には、2人の子供がいた。妻を亡くした幸夫が、母を亡くした子供たちと出会い、“誰か“と生きることのうれしさとむずかしさを実感していく――。
映画では、幸夫は、本木雅弘さんが演じている。この主人公、今までの作品の中でもっとも西川さん自身に近いキャラクターなのだそうだ。
「私は小説家ではないですけれど、いずれ映画にすることを目標にしながら、机について物語を作っています。私の場合は、映画が完成したら、テレビ番組で露出させていただく機会もあって、そういうとき私のことを目にした方は、『映画って、きらびやかな世界なんだな』と思われるかもしれない。『ゼロからものを書いたり、大勢の人をまとめて映画を作ったりするのだから、それなりの人間なんじゃないか』と思われるかもしれない。
だけれど、実はまぁ、何てことない、というか……(笑)。逆に言うと、自分の書いたものや、自分の作るものが人間の生活に必要なのかという葛藤は常にあります。たとえば食べ物を作ったり、それを運んだり、幸夫の奥さんのように髪を切ったり。そういう“実業“とされるものと比べて、アートだとか文学だとか映画なんていうものは、得体が知れないし、下手したら、不快な気分で人を帰らせることすらある。
ものを作っている人間として、もてはやされることがある反面、自分自身の仕事に引け目を感じることがあるんです。幸夫と私の共通点は、“虚業に就いている人間“っていうその設定ですよね。その引け目や葛藤が、自分が持っている内心の危うさに近い。そこが、今回一番自分を投影した部分ですね。
もうひとつ、私が自分を投影させたのが、“子供がいないまま、中年期を迎えてしまったおとな“という設定です。
20代から30代の前半までは、好き勝手生きていて、自分の選択で結婚もしなかったし、子供もいないけれど、『これでいいんだ』と思っていた。その選択の結果が、間違っているかどうかはさておき、子供がいないままに中年にさしかかって、“産み育てて、未来を迎える“という世界の外側に放り出された感じがどんどんしてくるんですね。
さらに、子供達という存在と自分とを、どういう距離感で置いていいかわからない。自分の存在価値、存在意義みたいなものが、宙に浮いてくる感覚があって……。そうやって圧倒的に人生経験が少ないことを逆手にとって、子供のいない中年の目線から描ける物語を書いてみようと思ったんです」
だけれど、実はまぁ、何てことない、というか……(笑)。逆に言うと、自分の書いたものや、自分の作るものが人間の生活に必要なのかという葛藤は常にあります。たとえば食べ物を作ったり、それを運んだり、幸夫の奥さんのように髪を切ったり。そういう“実業“とされるものと比べて、アートだとか文学だとか映画なんていうものは、得体が知れないし、下手したら、不快な気分で人を帰らせることすらある。
ものを作っている人間として、もてはやされることがある反面、自分自身の仕事に引け目を感じることがあるんです。幸夫と私の共通点は、“虚業に就いている人間“っていうその設定ですよね。その引け目や葛藤が、自分が持っている内心の危うさに近い。そこが、今回一番自分を投影した部分ですね。
もうひとつ、私が自分を投影させたのが、“子供がいないまま、中年期を迎えてしまったおとな“という設定です。
20代から30代の前半までは、好き勝手生きていて、自分の選択で結婚もしなかったし、子供もいないけれど、『これでいいんだ』と思っていた。その選択の結果が、間違っているかどうかはさておき、子供がいないままに中年にさしかかって、“産み育てて、未来を迎える“という世界の外側に放り出された感じがどんどんしてくるんですね。
さらに、子供達という存在と自分とを、どういう距離感で置いていいかわからない。自分の存在価値、存在意義みたいなものが、宙に浮いてくる感覚があって……。そうやって圧倒的に人生経験が少ないことを逆手にとって、子供のいない中年の目線から描ける物語を書いてみようと思ったんです」
待つ人もなく、一人で執筆するのは本当に虚しい
“書く“ことで食べていけたら――。将来の仕事について、西川さんがそう考え始めたのは、中学生のときだ。文章を書くことも好きだったし、国語の時間に作文を褒められることが多かったので、「もしかしたら書くことを仕事にできるのかな」と漠然と思っていた。就職に際しては、出版社と映画会社の両方を受験した。
「勉強ができなかったので、出版社は筆記試験で落ちることが多かったです(苦笑)。でも、早い時期に、是枝(裕和)監督とお会いすることができて、7月には、『よかったら、映画の準備をしているから』と声をかけていただいた。会社には落ちたんだけれど、『フリーでよければ』と。そこが、『書く』ではなく、『撮る』ことを本業にする、分岐点になったと思います」
是枝監督の『ワンダフルライフ』('99年)で助監督を務めたことが、映画監督としての西川さんのキャリアのスタートとなった。
とはいえ、“撮る“ことで食べていくのは、並大抵ではない。西川さんは、監督助手をしながら自分で脚本を書くようになった2000年ごろから、仕事場を、東京の自宅と広島の実家の居間、その2つに置いてきた。『永い言い訳』を書き始めたのも、広島の実家である。
「小説家の場合は、編集者が追い立ててくれるんでしょうけど、一人で机についていると、生きていく言い訳が見つからなくなっていくんです。『あ、会社行かなきゃ』とか、『打ち合わせだから』とか、ちゃんとした社会とつながる理由があって行動できるって、素晴らしいことだなぁと思います。本当に虚しいですね(笑)」
※FRaU 2016年11月号より一部抜粋
「勉強ができなかったので、出版社は筆記試験で落ちることが多かったです(苦笑)。でも、早い時期に、是枝(裕和)監督とお会いすることができて、7月には、『よかったら、映画の準備をしているから』と声をかけていただいた。会社には落ちたんだけれど、『フリーでよければ』と。そこが、『書く』ではなく、『撮る』ことを本業にする、分岐点になったと思います」
是枝監督の『ワンダフルライフ』('99年)で助監督を務めたことが、映画監督としての西川さんのキャリアのスタートとなった。
とはいえ、“撮る“ことで食べていくのは、並大抵ではない。西川さんは、監督助手をしながら自分で脚本を書くようになった2000年ごろから、仕事場を、東京の自宅と広島の実家の居間、その2つに置いてきた。『永い言い訳』を書き始めたのも、広島の実家である。
「小説家の場合は、編集者が追い立ててくれるんでしょうけど、一人で机についていると、生きていく言い訳が見つからなくなっていくんです。『あ、会社行かなきゃ』とか、『打ち合わせだから』とか、ちゃんとした社会とつながる理由があって行動できるって、素晴らしいことだなぁと思います。本当に虚しいですね(笑)」
※FRaU 2016年11月号より一部抜粋
PROFILE
西川美和
1974年生まれ。広島県出身。早稲田大学第一文学部卒。大学在学中に是枝裕和監督の映画『ワンダフルライフ』にスタッフとして参加。フリーランスの助監督を経て、'02年『蛇イチゴ』で監督デビュー。長編2作目となる『ゆれる』(' 06年)がロングランヒット。'09年『ディア・ドクター』、'12年『夢売るふたり』とオリジナルストーリーでの話題作を提供。
1974年生まれ。広島県出身。早稲田大学第一文学部卒。大学在学中に是枝裕和監督の映画『ワンダフルライフ』にスタッフとして参加。フリーランスの助監督を経て、'02年『蛇イチゴ』で監督デビュー。長編2作目となる『ゆれる』(' 06年)がロングランヒット。'09年『ディア・ドクター』、'12年『夢売るふたり』とオリジナルストーリーでの話題作を提供。
INFORMATION
『永い言い訳』
人気作家の津村啓こと衣笠幸夫(本木雅弘)は、妻の夏子(深津絵里)が旅先で事故に遭い、親友とともに亡くなった知らせを受ける。妻が亡くなった夜、不倫相手と密会していた幸夫は、世間に対し、悲劇の主人公を装うことしかできなかった。そんなある日、妻の親友の遺族であるトラック運転手の陽一(竹原ピストル)とその子供達に出会った幸夫は、ふとした思いつきから、子供達の世話を買って出る。
人気作家の津村啓こと衣笠幸夫(本木雅弘)は、妻の夏子(深津絵里)が旅先で事故に遭い、親友とともに亡くなった知らせを受ける。妻が亡くなった夜、不倫相手と密会していた幸夫は、世間に対し、悲劇の主人公を装うことしかできなかった。そんなある日、妻の親友の遺族であるトラック運転手の陽一(竹原ピストル)とその子供達に出会った幸夫は、ふとした思いつきから、子供達の世話を買って出る。