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小林聡美さんと語る、俳句と日本文化とは? [おとなスタイル]

2016年07月05日(火) 09時00分配信

切り取った点から、景色が広がっていく

小林聡美さんと宇多喜代子先生。

切り取った点から、景色が広がっていく

「俳句には、それぞれの人の暮らしの目線が表れる。だから句会って、興味深くて面白いんです──小林聡美さん」

草餅買うを蓬餅にしてスッキリ。

小林 今回、先生にいただいた「草餅」という題で、一句詠んでみました。私と同じ歳でもう両親を亡くしている友人がいて、その子と久しぶりに温泉に行ったんです。そのときに、家庭的で爽やかな感じもする草餅を、彼女と食べたいなあと思いまして。

宇多 この情景にはショートケーキでもいいだろうけれど、草餅に合わせるところが、小林さんならではですね。

小林 現代生活では消えかけていますが、せめて俳句のなかには日本らしいものや言葉を入れたいなと思っているんです。

宇多 この一句で、景色がぐっと広がっていきますね。この友がどういう顔をしているのかな、と連想させます。一番いいのは、静止画が動き出して物語を紡ぐような、こういう句なんです。それから、一日(いちじつ)の長として少しだけ添削するなら、最後の「草餅買う」を、傍題を使って「蓬(よもぎ)餅」としてはいかがですか。細かいことですが、一句一動詞という法則に従うとすると、「会う」という動詞がすでにあるので、下句の「買う」はなくてもいいんです。

小林 一句一動詞なんですね。

宇多 もちろん、あくまでも原則ですよ。「や」の切れがとっても効いているいい句だから、あとに動詞ではなく、ものを持ってくるのがいいんじゃないかしら。

小林 「親のなき友と会う日や蓬餅」。とてもスッキリしました!

情景がパッと浮かびます。

小林 先生のこの句、「地下街に草の色」というのが素敵ですね。地下なのに草がある、という。

宇多 地下街って無機質で季節がないから、色に惹かれて草餅を買い求める、という情景を詠みました。色や文様も、昔は自然と密接に結びついていたでしょう? 私の祖母も着物の染め替えのとき、「春の雨を降らせてちょうだい」なんて注文していましたよ。

小林 かっこいい……。

宇多 呉服屋さんはちゃんと心得ていて、細い春の雨が斜めにスッスッと降っているような文様にしてくれるんです。子ども心に、「言葉だけで色や柄を表現できるのか」と感心したものでした。

小林 すごく豊かですねえ。

宇多 俳句を通して、日本文化の底流に触れていただけたら、うれしいですね。
<小林聡美さん プロフィール>
1965年、東京都生まれ。映画やドラマ、CMへの出演のほか、『散歩』(幻冬舎文庫)、『読まされ図書館』(宝島社)などエッセイの著作も多数。映画は4月公開『あやしい彼女』、5月公開『海よりもまだ深く』に出演。

<宇多喜代子先生 プロフィール>
俳人。現代俳句協会特別顧問を務める。著書は『名句十二か月(』角川選書)『、里山歳時記 田んぼのまわりで』(日本放送出版協会)など多数。作家の故・中上健次氏との親交でも知られる。農事や歳時記に造詣が深い。

おとなスタイルVol.3  2016 春号
(撮影/関めぐみ)

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