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『海よりもまだ深く』が教える「諦めること」の幸せ。 [with]

2016年05月28日(土) 17時30分配信

『海よりもまだ深く』が教える「諦めること」の幸せ。

『海町diary』の是枝裕和監督の最新作は『海よりもまだ深く』。海つながり?と思いきや、前回の4人姉妹の話から一転、今回はダメ男とその母を中心にした家族の物語です。

主人公・良多は、作家を目指して文学賞を一度獲得したものの、その後は鳴かず飛ばずで碌な稼ぎもなく、それでもぜんぜん夢を諦めず、結婚した妻は息子を連れて家を出ています。「取材がてら」と言い訳しながらの探偵業も中途半端で、金欠になれば母親のすねをかじるのが日常化しているダメ男です。こういう男を「愛すべきダメ男」という人もいるでしょうが……。

その代りというとなんですが、ダメな息子を、もちろん「ダメだなあ」と知りつつ、それなりに軽く尻を叩きつつ、愛しているお母さんがすごーく魅力的。演じている樹木希林さんの存在感は、ぼわーんと柔らかく、でもときどきチクチクする毛布のような感じで、優しいだけではないのに優しく、温かいだけではないのに温かく、軽やかでつましく、力強くて弱弱しく――本当にリアルな「年老いた母」を体現しています。

『海よりもまだ深く』5月21日(土)丸の内ピカデリー、新宿ピカデリー他にて全国ロードショー!

いろんなセリフが心に残る作品なのですが、一番心に残るのはやっぱりそのお母さんのセリフ。
「幸せってのはね、何かを諦めないと手にできないもんなのよ」。
夢をずるずると諦めない良多に言うそのセリフは、別に「諦め」を奨励しているわけではありませんが、絶対手に入らない何かを欲しがすぎて「手に入らない」と嘆くこと――例えば「佐々木希」になりたいと願っても「佐々木希」そのものには決してなれないわけで――は、やっぱり不幸の始まりだと言っている言葉です。
最初から諦めてしまうのはいいとは思いませんが、手を尽くして頑張って(まあ良多はそんなに頑張っているようには見えませんが……)、それでもどうにもならない時は、いいとこで「諦める」のも悪いことじゃありません。だって「諦める」は「満足」の裏返し。「諦められない人」はつまり「満足できない人」で、この世でこれほど幸せになれない人は、他にいないんですから。(文:渥美 志保)

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