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作家・池井戸潤さん「痛快なエンターテイメント小説にこだわる理由」 [mi-mollet]

2018年06月30日(土) 10時30分配信

撮影/横山順子

これまで『半沢直樹』『下町ロケット』『花咲舞が黙ってない』『陸王』などがドラマ化されて大ヒット。累計180万部を突破したベストセラー『空飛ぶタイヤ』は、池井戸潤さんにとって初の映画化作品となります。「映画のプロモーションって、原作者をこんなに働かせるんだね」と取材陣を笑わせながら、インタビューが始まりました。

池井戸潤 1963年、岐阜県生まれ。『果つる底なき』で江戸川乱歩賞、『鉄の骨』で吉川英治文学新人賞、『下町ロケット』で直木賞を受賞。主な作品に「半沢直樹」シリーズ、「花咲舞」シリーズ、『ルーズヴェルト・ゲーム』『七つの会議』『民王』『陸王』『アキラとあきら』などがある。
物語のために人物を動かすのではなく、人物が動いて物語になる

累計180万部を突破した池井戸潤さんの大ベストセラー『空飛ぶタイヤ』(講談社文庫、実業之日本社文庫)

物語のために人物を動かすのではなく、人物が動いて物語になる

主人公はトレーラーの脱輪事故によって、整備不良を疑われた小さな運送会社、赤松運送の社長。独自調査をするうちに大企業のリコール隠しに行き当たるという物語が描かれます。

「これまでも映画化の企画はありましたが、なかなかOKが出せなかったんです。でも『空飛ぶタイヤ』の脚本は重要なところを残しながら、エピソードの落とし方がとてもうまくできていました。原作者がウロウロしていると迷惑なので撮影現場には一度しか行っていませんが、運送会社のセットや書類、出勤帳までしっかり作られていてさすがでしたね」

池井戸さんにとって『空飛ぶタイヤ』は「プロット重視ではなく人物重視に変えた頃の小説」。「物語のために人物を動かすのではなく、人物が動いて物語になっていく。それが逆になるとダメなんですね」と語ります。小説を書く前に用意したのは年齢や肩書きを記し、経済誌などで見つけたイメージに合う人の写真を貼り付けた主要人物の一覧帳。

「いつもは登場人物の特徴をエクセルで管理しているので、最初で最後の試みでした。キャストの方の中でそのときに貼った写真とイメージが同じだったのはディーン・フジオカさんと岸部一徳さん。主人公を演じた長瀬智也さんは原作の設定よりかっこよすぎるけど、ちゃんと中小企業のおっさん社長に見えて、嘘っぽくないところがよかったですね」
企業の組織的な隠匿はなくならない 自分で考えて答えを出すしかない

映画では、高橋一生さん演じるホープ銀行の井崎一亮が、グループ会社の杜撰な経営計画などに疑問を抱く。

企業の組織的な隠匿はなくならない 自分で考えて答えを出すしかない

『空飛ぶタイヤ』が刊行されてから10年以上が経ちますが、企業の組織的な隠蔽の問題は起こり続けています。池井戸さんは、この現状をどのように捉えているのでしょうか。

「そういうことが起きると、僕の本が売れるな、と(笑)。組織的な隠蔽はなくならないでしょうね。昔と違って会社にも余裕がないし、どこも真っ白ってことはないわけです。その中にも本当にまずいことと軽微なことがあるはずなのに、報道されるのは叩きやすそうなことが多いですよね。これをそこまで話題にする? と感じることもあります」

どの組織にも理不尽や矛盾があり、とりわけ上司と部下の橋渡し役を担うことも多いミモレ世代は、人間関係の悩みに直面することも増えてきます。組織に属しているから生まれる問題にどう対処して、心を整えたらいいのかアドバイスを求めると「それは自分で考えるしかないと思いますよ」という答えが返ってきました。

「最近は、すぐ誰かに聞いてしまう人が多いですよね(笑)。自分の頭で考える人が減ったことと、偏向報道に流されてしまう人が多い現状は通底しているのではないか、と僕は思っています。日々、問題が起こる中でその度に誰かに聞いて、頼っていても現状は変わらない。自分が何をしたくて何ができるのかを、とにかく自分で考えて答えを出す。そしてそれを実行に移していけば、ノウハウになって蓄積されるわけです。とって食われるわけじゃなし、失敗してもいいじゃないか、という気持ちも必要だと思いますね」
ビジネスシーンの女性を自然に描く

撮影/横山順子

ビジネスシーンの女性を自然に描く

池井戸作品のファンは年齢層も幅広く、女性読者は4割ほどをしめているそう。“仕事”が共通言語になっているという理由だけではなく、「花咲舞」シリーズをはじめ登場する女性キャラクターの描写にリアリティがあるからこその人気なのではないでしょうか。

「企業が舞台の小説に出てくる女性って、違和感があることが多いんですよ。言葉使いも“〇〇ですわ”だったりする(笑)。僕の小説に出てくる女性は“〇〇だよね”って普通にしゃべります。あとはヘンな恋愛シーンを入れたりすることなく、純粋にビジネスシーンを書くようにしていますね。性差は超えられないと思っているので、50過ぎのおっさんが若い女性の内面を描いて地雷を踏む、なんてこともしません。女性のマネージャーに読んでもらうと、“最初のデートで下の名前を呼び捨てにする男なんてありえません”みたいな細かいチェックが返ってくる。そこを削ると、男性編集者は“何で削ったんですか?”と、不思議そうにしていますけど(笑)」
『空飛ぶタイヤ』の公開を前に「小説も映画もあくまでも娯楽として楽しんでほしい」と語る池井戸さん。
「読者の方から『仕事の役に立ちそうなセリフに付箋をつけながら読みました』と言われることもあるのですが、“この人ならこう言うよな”という感じで自然に書いているだけなので、もっと大らかに豊かな気持ちで読んでもらえたらいいなと思っています。小説は時間を使って楽しむ嗜好品。『空飛ぶタイヤ』は対組織の葛藤と人間ドラマが見どころですから、“反撃開始!”という映画のコピーは非常にうまいなと思いました。痛快なエンターテイメントとして楽しんでもらえたらうれしいですね」
『空飛ぶタイヤ』

Ⓒ2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会

『空飛ぶタイヤ』

ある日突然起きた、トレーラーの脱輪事故。整備不良を疑われた赤松運送の社長は、車両の製造元である大手自動車会社、ホープ自動車のカスタマー戦略課課長の沢田に再調査を依頼する。同じ頃、ホープ銀行の本店営業本部に所属する井崎は、グループ会社であるホープ自動車の経営計画に疑問を抱き、調査を始めるが……。

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