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京都の美食宿「美山荘」で味わう“摘草料理” [FRaU]

2017年11月02日(木) 21時00分配信

「私が愛する京都の魅力は、とても本質的なものです。確かな素材を使い、丁寧に料理をし、美しくしつらえ、お客さまに喜んで頂くためにもてなす。人ときちんと向きあって会話をする。自分を取りまくすべてに感謝の心を忘れない。薄れゆく日本人本来の姿が、この街の営みにはきちんと根付いていると思うのです」(如月太夫さん)

PROFILE

如月太夫(きさらぎたゆう)さん
京都の花街・島原で「正五位」の官位を与えられた最高位の妓女。女歌舞伎で活躍した女性が「太夫」(舞太夫など)と呼ばれたものが始まりといわれ、優れた技能、教養を持つ最高位の遊女の名として定着。300年以上の歴史を持ち、公家文化を継承するあらゆる芸事(舞踊、箏、胡弓、茶道、書道、香道、華道、和歌に至る)を極め、美貌と教養を兼ね備えた名実共に最高位の女性。右の衿を返し、中から赤色をのぞかせるのは正五位の当色、緋(赤色)を纏う高貴さの証。前で結ばれた五角形の帯は、「心」の字を表している。
憧れの如月太夫さんと魅惑の京都へ、いざ参らん

女将の中東佐知子さん(右)と如月太夫さん(左)。お座敷に花が咲いたよう。 Photo:Yoshiki Okamoto

憧れの如月太夫さんと魅惑の京都へ、いざ参らん

底冷えが厳しい冬真っ盛りの京都の街に、早春に芽吹いた若葉のような鮮やかな萌黄色の着物で迎えてくれた如月太夫さん。淀みのない凛とした立ち姿に、柔らかな女性らしさをそこはかとなく纏った流れるような所作と優しい微笑み。彼女が現れた瞬間、周りの空気が一瞬にして華やぐ。

美山荘の母屋は峰定寺の塔頭の後に建てられたもの。 Photo:Yoshiki Okamoto

市街中心部から車で1時間ほど。目指す「美山荘」は大悲山の麓、京都の奥座敷・花脊の里にある。北上するほどに道路を覆う雪は深くなり、積雪で道幅が狭まった険しい花脊峠を越えると、視界がぱっと開ける。枯れ木には大福のような雪の花が咲き、田畑も屋根も純白の雪に覆われた美しい里山の風景を抜けたさらに先、静謐な空気に包まれた山の麓に美山荘は佇む。

館内を歩けば、四季折々の野花を描いた愛らしい絵が目を楽しませてくれる。 Photo:Yoshiki Okamoto

その歴史は古く、明治中期に宿坊としてはじまり、昭和30年代に3代目当主・中東吉次の代に料理旅館という現在の形となった。その頃、先代となる3代目によって考案されたのが、「摘草料理」だ。

旬のアマゴを油焼きし、燻した笹の葉で香りづけ。清々しい山の香りが広がる。 Photo:Yoshiki Okamoto

「美山荘は平安末期より続く、鳥羽上皇の勅願、峰定寺の宿坊が始まりといわれ、かつては御領地として高貴な方々も訪れたそうです。『君がため 春の野に出でて 若菜摘む……』と、かつての和歌に詠まれたように、野草を摘むという行為は生きるための糧としてだけでなく、暮らしの中の“遊び”も司るものだったのでしょう。そういった草を摘むという行為を料理に表現することを模索して、『摘草料理』は生まれました。茶懐石の流れをくみ、都の優雅さと山の野趣が融合した、この土地独自のお料理ですね」と、女将の中東佐知子さんが教えてくれる。

熊のラルドを使ったジビエ。熊の脂身の甘みに、芹、柚子などが見事に合わさる。 Photo:Yoshiki Okamoto

野山に生える野草や地の野菜はもちろん、近くを流れる上桂川の川魚、冬には大悲山で狩られたイノシシを使ったジビエ料理など膳を彩る旬の食材は、すべてこの土地に育まれた恵み。ふいに、「ぜひ、こちらも見てほしい」と、如月太夫さんがひと揃えの取り箸を手にした。これは、山に生えるかちぐりの木の枝を拾い、従業員のみなさんが一本一本削って手づくりしているもので、「くり箸」と呼んでいるそう。

器の上に置かれているのは手づくりの「くり箸」。 Photo:Yoshiki Okamoto

「お料理を取り分けるとき、お箸を逆さにして使う人がいらっしゃりますが、本来はマナー違反。この『くり箸』は、祝い箸のように両口箸になっていますが、それは、口に運ぶ先は人のもの。もう片方の端は神様のもの。という考えに基づいているんです。美山荘さんには、そういった神道の理念がすべての営みのなかにしっかりと根付いている。山や川の自然に囲まれ、その恩恵によって私たち日本が成り立っているという感謝の気持ちを、何よりも大切にされている。そういう点が美山荘さんの大好きなところなんです」と、如月太夫さん。

座敷の襖には、春夏秋冬の草花が絵が描かれている。 Photo:Yoshiki Okamoto

一品一品、美しく丁寧に供される料理。歴史と趣に彩られ、美しくしつらえらえた空間。それらを形にしているのは、他でもない、当主と女将が代々紡いできた感謝とおもてなしの思いなのだ。少し背筋が伸びるような凜とした佇まいのなかにも、客人を優しく包み込むあたたかさが満ちているのは、そのためだろう。

母屋から眺める、雪化粧した前庭。正面に佇む古木は、苔むした八重の山桜。 Photo:Yoshiki Okamoto

実は美山荘へ向かう道中、携帯の電波も届かない花脊峠の雪道に車がハマり、動けなくなるアクシデントに見舞われた。通りがかった親切なドライバーさんにも助けられ、なんとか美山荘さんに連絡を取り状況を説明すると、番頭さんが救助に駆けつけてくれるという。ハマった車を牽引して峠を越えると、自社の車で一行を宿まで送り届けてくれたのだ。その勇姿たるや! 臨機応変な美山荘さんの本物のホスピタリティーを実感する貴重な体験となった。
美山荘

芳名帳の記帳は、墨と筆で。 Photo:Yoshiki Okamoto

美山荘

京都府京都市左京区花脊原地町375
●情報は、FRaU2017年3月号発売時点のものです。

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