• > 松本千登世「口紅は、女の姿勢までも変える」 [VOCE]

松本千登世「口紅は、女の姿勢までも変える」 [VOCE]

2018年11月11日(日) 21時10分配信

文/美容ジャーナリスト・エディター松本千登世

美容ジャーナリスト・エディターとしてVOCEでも出演、取材、編集、執筆と活躍中の松本千登世さん。その美しさと知性と気品が溢れる松本千登世さんのファンは美容業界だけにとどまらない。彼女の美容エッセイから、「綺麗」を、ひとつ、手に入れてください。
口紅は、女の姿勢までも変える

講談社VOCE

口紅は、女の姿勢までも変える

あるセレクトショップの女性スタッフがこんな話をしてくれました。

普段、カジュアルなスタイルが多い彼女が、女度をアップさせるためにと、エレガントなジバンシイのコートを思い切って購入。それは、価格的にもテイスト的にもかなり大胆な決断だったといいます。しかし、実際身につけてみると……?

「まず、ハンドバッグが欲しい、と思ったんです。私が持っているショルダーバッグでは、このコートの肩のシルエットを壊してしまうから。次に、綺麗なピンヒールが欲しくなった。ぺたんこの靴でもハードなブーツでも、このコートに失礼だと思って、ね。すると、メイクが気になりヘアスタイルが気になり、指先が、肌が、とどんどん気になってきたの。てっぺんから爪先まで、いい女になりたい、そう思ったんです」。

女にとってのハンドバッグの意味も、ピンヒールの価値も、細胞が理解して本能が反応した気がしたんです、と彼女は言いました。

今、時代の気分を言い訳に、流れがどんどん手軽に気軽にと向いています。でもこれって、女をダメにするんじゃないか? 「楽」は女をとことん緩ませる……、そう痛感させられました。

メイクにも同じことが言えるのかもしれません。たとえば、口紅。赤でもベージュでも、メイクの仕上げに口紅を念入りに塗ってみると、急に肌の粗が見えたり、髪の乱れが目立ったり、指先の荒れが気になったり。洋服のコーディネイトや着こなしを考え直したり、アクセサリーやジュエリーを足したり引いたりしないと、その口紅に見合わないということが起こります。私なんて、うまくまとめることができなくて、何度遅刻しそうになったことか。

口紅一本は、女にとってこれほどの威力を持つもの。口紅をやめると女が緩む。一方で、きちんと付き合うと女が上がる。もう一度その真実を自覚し直したいと思います。そして最高級のクリームのように、一本の口紅を真剣に選び、丁寧に纏いたい、そう思うのです。
肌はしまい込むとくすみ、見せびらかすと安っぽくなる

講談社VOCE

肌はしまい込むとくすみ、見せびらかすと安っぽくなる

取材でパリを訪れたときの話。滞在中ずっと、私たちのアテンドをしてくれたPR担当の女性。笑顔が印象的な彼女にすっかり魅せられて、私は初日から密かに「観察」していました。

その日は、Iラインのワンピースにタイツにフラットシューズと、全身黒。

翌日、取材に立ち会ってくれたときは白いシャツにベージュのストレートパンツにシンプルなベージュのパンプス。

工場見学に行った日は、メンズライクなネイビーのVネックニットにスキニーデニムを合わせてショートブーツにイン。

無駄な肉を感じさせない伸びやかなボディに映えるシンプルな洋服が本当に好ましく、私たちに対して礼を欠かないようにという慎みを持ちながらも、同時に「裏方」として誰より動きやすい格好を心がけていたのがよくわかりました。

そして夜。メインイベントのパーティで、度肝を抜かれました。その人が纏っていたのは、極上のシルクを一枚体にゆるりと巻き付けただけのようなブラックドレスで、大きく開いた背中が眩いばかりの輝きを放ち、華やかな印象。すらりと伸びた膝下は、少し日に焼けたヘルシー肌にうっすら筋肉が透けて見える。背中も膝下も、顔並みの肌だから、余計にどぎまぎさせられました。

ああ、この人のことをもっと知りたい。ファッションセンスだけじゃない、生き方そのもののセンスが際立つこの人のことを。こんな女たちを育む、フランスというカルチャーを。

肌はいざというときに使うとっておきのジュエリー。しまい込むとくすむけれど、かといって、いつでもどこでも見せびらかすのは安っぽく愚かしい。

私たちは、もう一度、肌の「価値」を思い知り、毎日丁寧に扱うこと。脱げるのに脱がない女が最上級。だからこそ、いざというときのジュエリーが「効く」のだと肝に銘じて。
「ここだけの話……」が作る、醜い顔

講談社VOCE

「ここだけの話……」が作る、醜い顔

「何かを言いふらしたいとき、どうしたらいいと思う? 『ここだけの話……』と伝えればいいんだよ。その人が『ここだけの話……』と広めてくれるから」。

ある人が皮肉を込めてこう言いました。

言われてみれば、ここだけの話、と話し始めるのは大概、よからぬ噂やくだらない悪口。その表情を見ると、おそらく眉間にシワが寄り、口角が下がっているはず。

この言葉を使うたび、顔はどんどん醜くなる、そう自分に言い聞かせる毎日です。
清く正しく美しく生きるって?

講談社VOCE

清く正しく美しく生きるって?

そろそろ仕事帰りの人たちで混み始めるかも? そんな夕方の電車の中。

たまたま私が座っていた席の隣には、ふたりの子どもを連れた若いお母さんがいました。私との間に4~5歳の女の子を座らせ、1歳になるかならないかの赤ん坊を抱き、膝には大きな荷物。ああ、子育てって大変。ぼんやりとそう思いながら、何気なく親子の様子を観察していました。

あとひとつで、降りなくちゃ、そう思った矢先のこと。「ママ、眠い」と、子ども。「えっ、次、降りる駅だよ。もう少しだけ、起きててくれる?」。

母親は、「妹」を抱いていること、大きな荷物もあること、「あなた」が眠ってしまったら、電車を降りることさえ難しくなること、周りに迷惑をかけてしまうこと、だから、起きていてほしい……と、まるで大人に語りかけるように、懇切丁寧に説明しました。

でも、当然のことながら、子どもは睡魔には勝てるわけもなく、そのままうとうと。

すると母親がひと言。「わかった、眠いときは眠いんだもんね。じゃあ、ひと駅分だけだけど、寝ていいよ。駅に着いたら、起きようね」。

親子が降りる駅は、偶然、私と同じ。子どものことだから、きっと起きられないはず。荷物くらいなら私にも持てるから大丈夫と、勝手に手伝うシミュレーションをしていました。

そして、駅。「お荷物、お持ちしましょうか? 私も降りるので」と話しかけようとしたその瞬間。

「着いたよ」という母親の小さな囁きだけで、その女の子は眠い目をこすりながらもすっくと立ち上がったのです。一切愚図ることなく、ゆっくりとまっすぐに。

結局、親子が降りていく後ろについて歩く形になった私は、その後ろ姿を見送るしかできませんでした。

この人はいつも、こんなふうに子どもに接しているのでしょう。優しい笑顔と丁寧な言葉で、穏やかに話しかける毎日。だから子どもも、きちんと理解して、きちんと行動する。それを積み重ねて、清く正しく美しい人に育っていくに違いない……。母親がそうであるように。

ほんの数分の出来事が心にじんわりと沁み渡り、全身がすっかり浄化されたのを感じました。

【関連記事】

NEWS&TOPICS一覧に戻る

ミモレ
FRaU DWbDG
  • FRaU DWbDG
  • 成熟に向かう大人の女性へ
  • ワーママ
  • Aiプレミアムクラブ会員募集中!

このページのTOPへ戻る