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松本千登世「隙がないのに、「奥にある隙」が見える人」 [VOCE]

2018年09月22日(土) 11時50分配信

講談社VOCE

美容ジャーナリスト・エディターとしてVOCEでも出演、取材、編集、執筆と活躍中の松本千登世さん。その美しさと知性と気品が溢れる松本千登世さんのファンは美容業界だけにとどまらない。彼女の美容エッセイから、「綺麗」を、ひとつ、手に入れてください。
隙がないのに、「奥にある隙」が見える人

講談社VOCE

隙がないのに、「奥にある隙」が見える人

ある女優の方へのインタビュー。笑顔がキュートで、人懐こい印象。日常についてあれこれ屈託なく語ってくれるはずと、心地よい緊張感を持ってそのときを待ちました。

圧倒的なオーラを放ちながら現れたその人は、私の挨拶に、満面の笑みを浮かべ、高い声で応えてくれる……と思いきや、とても大人っぽい表情で「初めまして」と低く静かな声。私が勝手に思い描いていた印象とはまるで違う女性でした。

まっすぐ見つめられる、それに応えるように目を合わせると、さらりと視線を逸らされる。質問に、誠実に的確に答えてくれるのだけれど、決して必要以上のことには触れず、静かな笑みを浮かべるだけ。

「お休みの日は、どう過ごすのですか?」「家で料理をしていることが多いですね」、「お家にいらっしゃるのがお好きなんですか?」「いえ、車の運転も大好きで、思い立ったらふらりと温泉に行ったりもします」……。私はまるで、恋をしてしまったかのように、その人が毎日を誰とどう過ごしているのか、知りたくなりました。

料理は誰のために作るのか? 温泉はいったい誰と行くのか? 余計なお世話だけれど、気になって仕方がなかったのです。そして、そのときこの人はどんな洋服を着て、どんな仕草をするのか、もっと知りたい、もっと触れたいと、想像が次なる想像を呼ぶ。これこそが神秘性。神秘性こそがセクシーの正体、そう痛感させられました。

あるフランス女性の「もし、聞かれたくないことを聞かれたら、にっこり笑って『なぜ知りたいの?』と聞き返しなさい。それがあなたのもっともセクシーな笑顔よ」という言葉を思い出しました。

表面は隙がないように装うこと、でも奥に隙があるかもしれないと想像させること。そのためには、しゃべりすぎないこと。すると、奥に何があるの? 教えて教えて……と気になる。そんな女はやっぱり、極上なのです。
忙しい毎日と捉えるか、濃密な人生と捉えるか

講談社VOCE

忙しい毎日と捉えるか、濃密な人生と捉えるか

その人は、女優としてトップの地位を守りながら、結婚し、出産し、子育てに追われる日々。しかも、毎朝お嬢さまのお弁当を作り、ときにご主人の出張の準備を手伝う。「大変ですね」と思わず言うと、静かに笑いながら、その人はこう続けました。

「いえいえ、人生がどんどん濃密になっているだけ。これって快感なんですよ、結構」。

濃密? 快感? 想像もしませんでした。今、仕事を持つ女性は結婚や出産、子育てをハンディと捉える向きがあり、結婚はまだしも、出産や子育ては、聞けば本当に大変そう。日本の環境は、そんな女性たちにとってはまだまだ「優しくない」のが現実です。特殊な職業である人はなおのこと。自分の人生の薄っぺらさを思い、少し後ろめたい気持ちになりました。

私の周りにいる魅力的な女性は、結婚しているか否か、子どもがいるか否かに関わらず、どんなライフスタイルでも24時間では足りないと思うほどに忙しい毎日を過ごしています。

でもよく考えてみれば、忙しいのじゃなく、濃密なのじゃないか? 「いつの間に?」と思うほどに本を読み、映画を観て、たくさんの会話をしている。私なら朝から晩まですべての時間を費やさないとできないくらいの仕事量をこなしているのに、週末は趣味の時間に費やしている。もちろん、いつファッションして、いつ美容しているのか聞きたいくらいに、見た目はおしゃれで綺麗。

女は濃密なほど美しい、そんな真実に改めて気付かされました。

忙しい毎日と不平不満を言うのじゃなく、濃密な人生と自画自賛する。ベクトルを180度変えるのも、いい女への第一歩だと思うのです。
本物に触れ続ければ本物に、偽物に触れ続ければ偽物に

講談社VOCE

本物に触れ続ければ本物に、偽物に触れ続ければ偽物に

学生時代の話。近くに住む憧れの大人の女性、1歳半の女の子の子育て中だった彼女の家に、私たちは頻繁に遊びに行き、よくお茶をご馳走になったもの。もちろん、その子も一緒にテーブルに。同じケーキを並べて……。ふと思いました。

あれっ? 子ども用のお皿は? だってこれ、ロイヤルコペンハーゲンだよね? 女の子とはいえ、やんちゃな盛り、割っちゃうんじゃないの? 正直、はらはらどきどき。

たまらずある日、問うてみました。高いお皿なのに、子どもが使っても大丈夫なの? って……。すると、彼女はふわりと笑みを浮かべて、こう言いました。

「『すごく綺麗でしょう? ママが大切にしてるお皿なのよ』と伝えると、ちゃんとわかるみたい。それにね、『本物』に触れると、たとえ子どもでも不思議とぞんざいに扱ったりしないもの。プラスティックの子ども用は確かに壊れないけど、その分、投げてもぶつけてもいいって乱暴な行動をする……。ものに優しく触れて大切にする心が育つなら、その過程にお皿が壊れても仕方ないかな、って」。

衝撃を受けました。私は18歳、彼女は9歳上の27歳。当時の私にとって、彼女はとてつもなく大人だったけれど、今はあの若さで、と思います。美人でおしゃれで会話が楽しい、いつかこうなりたいと思っていたその人は、母として威厳を持って、でもときに対等に、子どもに向き合い、さまざまな場面で子育ての「正義」を見せてくれました。

そして今。「女の子」はじつに上質な大人になりました。外見は言わずもがな。何より食べ方、笑い方、歩き方……。すべての仕草が美しいのです。小さなころから本物に触れ、愛でる心を持つと、こうも上質な女になるのか? あの言葉の意味を今なお、噛みしめています。

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