松本千登世「ユーモアが幸せを紡ぐ」 [VOCE]

2018年09月14日(金) 20時10分配信

文/美容ジャーナリスト・エディター松本千登世

美容ジャーナリスト・エディターとしてVOCEでも出演、取材、編集、執筆と活躍中の松本千登世さん。その美しさと知性と気品が溢れる松本千登世さんのファンは美容業界だけにとどまらない。彼女の美容エッセイから、「綺麗」を、ひとつ、手に入れてください。
ユーモアが幸せを紡ぐ

講談社VOCE

ユーモアが幸せを紡ぐ

春が待ち遠しい、ある晴れた日の昼下がり。電車で移動中、窓から射し込む光が心地よく、ぼんやりと時間を過ごしていました。そのとき乗り込んできた高齢のご夫婦。奥様は杖をつき、ご主人は荷物を抱えながら、奥様を支えるようにゆっくりと……。

一席だけ空いていた私の目の前のシートに奥様に座るよう促して、ご主人はその向かいに立ちました。「隣の若者が席を譲るだろう」と期待しながら眺めていたけれど、彼は知ってか知らずか、スマホの画面に目を落とし、一向に動く気配なし。

ここは私がと勇気を出してご主人に声をかけてみました。「こちら、もしよろしければどうぞ」。

ありがとうございます、大丈夫ですと穏やかに微笑んで遠慮し、その人はこう続けました。「僕がそばにいないと、妻が寂しがりますから」。奥様は「お父さんったら」と半分照れながら、半分あきれながら一緒にあははと笑い、「はい、電車で立っているのが彼の唯一の健康法ですから。お気遣い、本当にありがとうございます」。何だろう、この幸せな気持ち。おそらく周りにいた誰もが、同じ気持ちになったはずです。

二つ三つ先の駅で私が降りようと立ち上がると、ご主人がくるりと振り向き、「ありがとうございました。お気を付けて」。奥様は傍らで何度も私に頭を下げてくれました。ご夫妻の日常はきっと、ユーモアに溢れ、笑いが絶えないに違いない。その証拠にふたりとも目尻が下がり、口角が上がり、穏やかな時間を記憶した優しい笑顔。結局、私は何の役にも立てなかったのに、席を譲ったかのような爽快感と席を譲られたかのような温かい気持ちで満たされたのです。

ユーモアのある人は、周りを幸せにするのだと改めて思いました。大変なこと、怒りたいこと、落ち込むことなどネガティブなことが起こっても笑いに変える才能が自分を幸せにするから、つねに上機嫌。上機嫌な人は不思議な磁力を持っていて、周りはすーっと惹き付けられる……。いつかそんな大人になりたい。思いやりのあるさりげないユーモアを持った大人に。
幸せに見えたい人、幸せになりたい人

講談社VOCE

幸せに見えたい人、幸せになりたい人

何気なく聞いていたFMラジオ。「幸せに見えたいのか? 幸せになりたいのか? 前者の人は、不幸。幸せを見失うよね」。

画一的な幸せの定義に自分を当てはめることほど、苦しいことはありません。美しさもきっと同じ。肌が白いほうが美しい、目が大きいほうが美しい……。そろそろ、偏った美の定義の「呪縛」から解き放たれませんか?
「男性は長い髪が好き」の嘘

講談社VOCE

「男性は長い髪が好き」の嘘

以前、「女の髪」をテーマにページを作ったときのこと。年齢職業問わず、広く男性たちに意見を求めてみました。昔から、男は女の長い髪に弱いと聞くけれど、それは本当か? そしてなぜなのか? と。

すると、共通していたのは「長ければいいってもんじゃない」ってこと。人工的に作られたストレートもこれ見よがしの巻きスタイルも、本音をいうとちょっと怖い。本当に僕たちが求めているのは、「触れたい質感」なんだよ……。

長い髪が好きなのはもちろん嘘じゃないけど、その理由を女性たちは誤解してる。触れると心地よさそうな髪は、触れると心地よさそうな肌を想像させるから。そして心身ともに健康で丁寧に暮らしている人が透けて見えるから。それが彼らの言い分だったのです。

大人の正解はここにある気がしました。そう、目指すべきは、上質な「質感」がそのまま「形」になったナチュラルさ。つまり、こだわるべきは、ヘアスタイルよりも髪の素材力に違いありません。
「いい匂い=いい女」の理由

講談社VOCE

「いい匂い=いい女」の理由

海風が運んできた汐の香りに、幼いころの夏休みを思い出したり、エレベーターで偶然すれ違った人の香りに、ふと昔好きだった人を思い出したり……。誰しも、香りをきっかけに記憶が鮮烈に甦った経験があるはずです。

特定の匂いがそれにまつわる記憶を誘発する現象は、文豪マルセル・プルースト『失われた時を求めて』における表現にちなんで「プルースト現象」と名づけられているほど、じつはポピュラーなもの。

なぜ、香りと記憶は「ワンセット」なのだろう? ずっとそう思っていました。

嗅覚と脳の密接な関係についての研究が進められる中で、その理由がわかってきたと聞きました。それは、香りを認識する部位と記憶や情動を司る部位とが近くに存在するということ。同時に嗅覚の神経が五感の中で唯一、記憶や情動を司る部位に直結しているということも……。

この事実を逆から捉えると、自分にとって心地いい匂いを嗅ぐと、脳が興奮したり穏やかになったりして、そのときの高揚感や充実感といった感情や記憶がワンセットで刻まれ、固定され、次第に蓄えられていくということ。つまり、いい匂いを嗅ぎ続ければ、そうでない場合よりも幸せな記憶や感情を思い出す機会が断然多いと言えるのではないでしょうか?

毎日毎日大好きな香りを纏っている人は、幸せな記憶や感情が多い分、幸せのオーラを放つ。周りはそのオーラを放っておかない……。香りが「引力」になるのはそのためなのかもしれません。香りへのこだわりは、すなわち、今という時を幸せにするちょっとした工夫。日々積み重ねるひと手間が、いい女を創り出すのです。

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