絵描き下田昌克が旅する長崎 五島列島 [FRaU]

2018年09月09日(日) 16時40分配信

絵描きの下田昌克さん

かつて多くのキリシタンが弾圧から逃れ、密やかに信仰を守り続けた五島列島。島々に点在する教会はじつに個性的で、そこに暮らし、祈りを捧げ続けた人々の手触りとぬくもりが残っています。

教会に刻まれた彼らの想いをじかに見たいと、絵描きの下田昌克さんが島を巡りました。
堂崎教会の記憶をたどって恐竜男、福江島に現る

美しい煉瓦造りの堂崎教会。洋風建築だが屋根は瓦で、日本におけるキリシタン文化が垣間見える。

堂崎教会の記憶をたどって恐竜男、福江島に現る

福江島に着いて真っ先に向かったのは堂崎教会だった。1880年、禁教令が解除されたのちに設立、1908年に新築されたもので、煉瓦造りの堂々としたその佇まいは五島列島のキリシタン復活の象徴とも言われる。

教会内は資料館にもなっていて、昔のミサの写真などが展示されている。下田さんが足を止めたのは、そろいのパナマ帽をかぶって教会を訪れる信者たちの写真だった。

「こうして正装して礼拝したのですね。この帽子もすごく素敵です。このあたりで今も作られているのかな」

堂崎教会横にある堂崎民俗資料館にはかつて島民が使った暮らしの道具が。木製の簡素なマリア像も。

ならば地元の人に聞いてみようと、教会の隣にある小さなカフェ〈ベイビークー〉を訪ねてみた。

「ああ、この帽子は懐かしいわね。今じゃあまり見かけなくなったけど」と教えてくれたのは、息子さんと一緒にこのカフェを切り盛りする白濱今朝代さん。お父様がここで教会守りをしていたそうで、今朝代さんもまた今日まで堂崎教会と、ここを訪れる信者を見守っている。

三代に渡って堂崎教会の隣に暮らし、教会守りをしている堂崎家。現在は民宿とカフェを営んでいる。

「よかったら食べていって」と、アイスクリームを勧めてくれた。

「近所の島からもたくさん信者さんが通ったのよ。昔は店の前の道路もなくて海だったから、満潮時に船をここまで着けて教会へ行ったの」

教会の十字架は周辺の島々に向いて建っている。それを目指して何艘もの船が海を渡ってくる様子を想像する。男の人はスーツにパナマ帽、女性は白いワンピースを着て。

「おばあちゃん、一緒に写真を撮りましょう」と下田さん。鞄から何やら取り出してかぶる。それはキャンバス地でできた恐竜の頭骨で、顔を入れると下田さんは恐竜男になった。

福江島に着いたらまず足を運びたい〈うま亭〉。地元の人気店。

「あらまあ、食べられそうで怖いわ」

恐竜の口に今朝代さんの頭が入ってしまいそうだ。じつはこれ、下田さんが手縫いで作ったもの。6年ほど前に訪れた恐竜博に感激し、気づいたら夢中で手を動かしていたそう。

「最初は興味本位というか、恐竜の骨ってどうなっているのかと思って。家には絵画用のキャンバスがあるから、それを切って縫って闇雲に作ってみたの。角はこんな感じに生えてるのかなとか、自分の頭で確かめながら作ってたらかぶれるサイズになっちゃった。でも試しにかぶってみたら、なんか恐竜に変身したような気持ちになって面白くってね」

堂崎教会へ向かう途中、潮が引いた海で不思議な岩を見つけた。

それ以来、下田さんはさまざまな恐竜の頭骨マスクを作ってきた。それを見たときの周囲の反応(とくに子どもたち!)も面白くて、時にこうして一緒に旅することもある。

「造形の格好よさもあるけど、一番すごいと思うのは、こういうでっかい生き物が実際にいたっていうことだよね。僕なんかはそのリアリティにぐっときちゃう。長崎あたりからも恐竜の化石が出てるらしいから、今のこの風景もあながち間違ってないかもしれないね(笑)」

恐竜男は今朝代さんと肩を組んで、にっこりと写真に収まった。

福江島で40年以上愛される町の食堂「平安食堂」。ちゃんぽんならココ。

堂崎教会
長崎県五島市奥浦町堂崎2019

堂崎天主堂 キリシタン資料館 堂崎民俗資料館
長崎県五島市奥浦町2019

BABY QOO(ベイビークー)
長崎県五島市奥浦町1997

うま亭
長崎県五島市東浜町1-8-3

平安食堂
長崎県五島市東浜町1-10-15

PROFILE

下田昌克 Masakatsu Shimoda
1967年生まれ。世界を放浪中に描いたポートレートが注目を浴び、絵描きに。近年は、キャンバス生地で恐竜の作品を制作。近著に『恐竜がいた』(詩・谷川俊太郎 スイッチパブリッシング)ほか多数。

●情報は、2018年6月現在のものです。
Photo:Norio Kidera

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