至福のひとときを叶える、名建築に泊まる旅 [FRaU]

2018年09月08日(土) 10時40分配信

有名建築家たちが手掛ける緻密に計算し尽くされたホテルや旅館をご紹介。洗練されたひとときが過ごせる、唯一無二のラグジュアリーな空間を堪能して。
歴史とモダンの調和に魅せられて。

渡辺明が設計した2008年竣工の宿泊棟。「手わざ」をキーワードに日本建築の手法を随所に取り入れた、現代的かつ壮麗な建築だ。

歴史とモダンの調和に魅せられて。

静岡県沼津市の景勝地、千本松原に佇む「沼津倶楽部」。広大な敷地の入り口にある昔ながらの長屋門をくぐれば、もうそこは別世界。明治期に建てられた数寄屋造りの和館を通り過ぎ、上品に整えられた庭を抜けると、ようやく、建築家・渡辺明が設計した宿泊棟に辿り着く。

吹き抜けの宿泊棟ラウンジからの眺望。建具を開けることで外部とひとつながりの広々とした空間に。

富士の湧き水が注ぎ込む池を囲むように立ち、どの客室からもその水盤を眺めることができる造りのこの棟は、日本建築の手法を随所に取り入れながら、現代的な美しいフォルムで魅了する。館内に足を踏み入れれば、息を飲むほど高い天井に、足元には一枚一枚に刻印が押された「蘇州瓦」が敷き詰められている。自然と背筋がすっと伸びるような、それでいてどこか懐かしいような居心地の良さがある。

数寄屋造りの様式を用いた落ち着きのあるラウンジ。テーブルやソファのデザインは川上元美が手がけた。

富士川の砂と土が層になった壁や、屋根に使われた無垢の杉材。そして、デザイナーの海藤春樹と川上元美がそれぞれ手がけた照明に、テーブルとソファ。建築家の見事な計算と技を隅々にまで感じ、それゆえに無駄のないシンプルなデザイン美に改めて驚かされる。すべての調和によって、極上の安らぎの空間が生み出されているのだ、と。日常から少し離れ、巨匠が築いた建築に思いを馳せ、ゆったりと贅沢な時間を過ごしてみたい。

沼津倶楽部
静岡県沼津市千本郷林1907

渡辺明 Akira Watanabe(1938~2010)
長野県生まれ。竹中工務店に勤務したのち、1980年、渡辺明設計事務所設立。2002年、集合住宅「W・HOUSE」で日本建築学会賞作品賞受賞。ほか代表作に「二期倶楽部」(17年閉館)など。「沼津倶楽部」は渡辺の遺作である。
自然のなかに佇む、北欧×和モダンな山荘。

山小屋の雰囲気を残し、木の温もりと洗練されたデザインが美しい外観。

自然のなかに佇む、北欧×和モダンな山荘。

東北と北陸の3県にまたがる雄大な自然に恵まれた会津・裏磐梯。その森のなかに佇むHOTELLI aaltoは、会津の伝統工芸である漆器の「金継ぎ」のように、再生の想いを込め、建築家3人が築40年の山荘をリユース。

なめらかな木の質感と北欧家具、窓に広がる山々に心癒やされるデラックスルーム。30ヵ国以上で愛されるシーリー社のベッドも魅力。

インテリアには上質な北欧家具がしつらえられ、木調で統一された建物に美しく調和する。初めて訪れたとは思えない心地良さを感じるのは、内装にふんだんに使われた杉が醸す爽やかな香りのためだろうか。自然光がたっぷりと差し込む窓から眺める樹々の景色に、開放感ある高い天井。建物の中にいながらまるで森林浴をしているようだ。ゲストルームは離れを含めて13室。各部屋は異なる趣をもち、選ぶのも楽しみの一つ。ここには、厳しい冬を部屋で楽しく過ごす北欧の文化を汲んだ、リラックスした時間が流れている。

HOTELLI aalto
福島県耶麻郡北塩原村大字檜原字大府平1073-153

益子義弘 Yoshihiro Masuko(1940~)、河合俊和 Toshikazu Kawai、大竹慎太郎 Shintaro Otake(1968~)
益子は東京都生まれ。1976年永田昌民とM&N設計室を設立。現在、益子アトリエ主宰。岐阜県生まれの河合は、伝統工芸職人としても活躍。大竹は福島県生まれ。
美しい庭園をもつ「和の宿」の先駆け。

土地に自生する樹々の間に池を配した庭園が、和風建築と見事に調和する。

美しい庭園をもつ「和の宿」の先駆け。

戸倉温泉にある明治36年創業の老舗、笹屋ホテル。その別棟として昭和9年にオープンしたのが豊年虫だ。設計者は、近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライトの最後の高弟といわれる、遠藤新。日本人であればどこか懐かしい温もりを感じる、数寄屋風の木造2階建てのこの建物は、実はオープンした当時、極めて斬新な宿だったという。

それぞれに異なる意匠をもつ客室の一つ。座敷の向こう側には庭が広がり、「居る」ことが最大の楽しみとなる、くつろぎの空間だ。

現在では当たり前なのだが、鍵付きのドアを取り付け、客室と客室の間に壁を造り、「個室」であることを強調。日本建築の伝統にホテルの手法を取り入れ、のちに近代旅館の建築モデルとなった。意匠が凝らされた全8室を設け、座敷に続く広縁からは庭の景色を望むことができる。部屋から庭が一枚絵のようにつながり、自然と建物と人が一体となる空間が計算された、まさに「名建築」の宿だ。

笹屋ホテル・豊年虫
長野県千曲市千曲之湯戸倉温泉(笹屋ホテル内)

遠藤新 Arata Endo(1889~1951)
福島県生まれ。フランク・ロイド・ライトの愛弟子として、東京帝国ホテル(1923年竣工)建設に従事。ホテル、学校、教会、邸宅など数々の建築を手がけた。
海上に浮かぶガラスのお城

ガラス張りのウォーターバルコニー。

海上に浮かぶガラスのお城

日本の建築界をリードし続ける隈研吾が設計した全4室のスモールラグジュアリーリゾート。相模湾を見下ろす高台に立ち、ガラスでつくられたアート作品のよう。

全室オーシャンビューで海の景色が楽しめる。

水が循環する「縁側」など、日本の伝統建築をアップデートする建築家の意匠には驚くばかりだ。海の上にステイしているようなラグジュリアスなひとときが味わえる。

ATAMI 海峯楼
静岡県熱海市春日町8-33

隈研吾 Kengo Kuma(1954~)
神奈川県生まれ。隈研吾建築都市設計事務所、KUMA&ASSOCIATES EUROPE代表。国内外で数々の建築設計を手がけ、芸術選奨文部科学大臣賞など受賞歴多数。
日本のモダニズム建築の頂点!

巨大な柱群が上層階を支え、建物が宙に浮いているよう。1964年竣工。

日本のモダニズム建築の頂点!

鳥取県米子市にある皆生かいけ 温泉の温泉街でひときわ目を引くのが、この老舗旅館。上層部分が空中に浮かんでいるように見える、複雑怪奇な造りをした建造物だ。

貴賓室のベッドルーム。

中に足を踏み入れれば、打ち放しコンクリートの巨大な柱が迫力をもって出迎えてくれる。名だたる建築家から「戦後日本建築の傑作」と評される、建築好きにはたまらない宿だろう。

東光園
鳥取県米子市皆生温泉3-17-7

菊竹清訓 Kiyonori Kikutake(1928~2011)
福岡県生まれ。1950年代後半、建築運動「メタボリズム」に参加。数々の国際博覧会の会場設計に携わった、日本の現代建築界における最重要人物の一人。
アート×建築の深遠に触れる

天井高8メートルを誇るスイートルームからの眺望。

アート×建築の深遠に触れる

「瀬戸内リトリート 青凪」は瀬戸内国際芸術祭の中心地、直島にある地中美術館をはじめとする “安藤建築” 群の一つ。

屋外プール「THE BLUE」。室内プール、スパなど施設も豊富。

スモールラグジュアリー・ホテルと銘打ち、洗練された館内にはアート作品が随所に展示され、全7室には十分すぎるほど設備も充実。開業以来わずか3年というスピードで今年、ミシュランの最高評価を獲得した。

瀬戸内リトリート 青凪
愛媛県松山市柳谷町794-1

安藤忠雄 Tadao Ando(1941~)
大阪府生まれ。独学で建築を学び、1969年に安藤忠雄建築研究所設立。代表作に地中美術館、表参道ヒルズ、プンタ・デラ・ドガーナなど多数。東京大学特別栄誉教授。
おとぎ話に登場しそうな温泉館

黒と白のコントラストと有機的な形の屋根が目を引く外観。

おとぎ話に登場しそうな温泉館

世界屈指の炭酸泉である長湯温泉を「ラムネの湯」と紹介したのは文豪、大佛次郎。その後、数十年の時を経て2005年に「ラムネ温泉館」が誕生。焼き杉と漆喰が生む黒×白のコントラストに、手びねりの銅板を張った屋根の頭からは松の木が顔を出し、絵本から飛び出したかのような愛らしさ。異空間に迷い込んだ温泉気分もまた楽しい。

ラムネ温泉館
大分県竹田市直入町大字長湯7676-2

藤森照信 Terunobu Fujimori(1946~)
長野県生まれ。全国各地で近代建築の調査・研究を行い、赤瀬川原平らと「東京建築探偵団・路上観察学会」を結成。日本文化デザイン賞、日本建築学会賞など受賞歴多数。

 

●情報は、FRaU2018年7月号発売時点のものです。

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