松本千登世「清潔に生きる」 [VOCE]

2018年09月06日(木) 20時10分配信

文/美容ジャーナリスト・エディター松本千登世

美容ジャーナリスト・エディターとしてVOCEでも出演、取材、編集、執筆と活躍中の松本千登世さん。その美しさと知性と気品が溢れる松本千登世さんのファンは美容業界だけにとどまらない。彼女の美容エッセイから、「綺麗」を、ひとつ、手に入れてください。
清潔に生きる

講談社VOCE

清潔に生きる

仕事が思うように進まないので、気分転換を兼ねて近所のスーパーマーケットに向かいました。空いているうちにと早めに行ったつもりが、意外と混んでる。ささっと食材をカートに入れ、レジに並びました。

すると、主婦らしき女性が電話で会話をしながら、私の後ろについた。30代半ばか? パーカーにロングスカートにスニーカー、ほぼノーメイクで髪を無造作にまとめてる……。今どきのおしゃれを楽しんでいる、ごく普通の女性に見えました。

「あれからさあ、心配だから家まで送るって言われちゃって……。でもね、旦那に見つかったらさすがにやばいじゃない?」。

あくまで想像ですが、漏れ聞こえた話から、結婚している彼女には恋人らしき人がいて、それを友人に「相談」と見せかけて「自慢」している様子。私が電話の相手なら正直、困るだろうなあ。ただでさえ忙しいのに、真昼間からこんな話を聞かされたら。

ぼんやりと考えながら、つい顔を覗き込むと……? 失礼ながら、存在そのものが薄汚れて見えました。堅苦しい倫理や正義を振りかざすつもりはないけれど、見ず知らずの人が行き交う場所でこんな話をあけすけに話す姿に、しかも結婚していながら恋愛できる自分が女性として価値があると言いたげな口調に、心底、幻滅したのです。

大手化粧品会社で訪問販売員として今なお活躍する90歳以上の女性たちのインタビュー集『美婆伝』。その中のおひとり、92歳の女性は、21歳で結婚したけれど、22歳の誕生日に夫が病死。生涯結婚しないと誓って自活を決意し、のちにこの職に就いたと言います。

そして今、なぜ続けるのか? との問いに「いつまでも綺麗でいたいと思ったんです。あの世に渡ったときに夫に見失われちゃうと嫌だから」。

この言葉に触れた女性たちは誰しも目を潤ませます。曇りのない魂に、ぶれない生き方に、いや、ここまで愛し抜ける男性に出会った事実に心震えたと言って。この美しさこそが本物。清潔に生きていないと生まれない美しさ。
席を奪い合う男たちは、優しくされていない男たち

講談社VOCE

席を奪い合う男たちは、優しくされていない男たち

最近、ずっと気になっていることがあります。それは、電車で席を譲るどころか、奪い合うように座る男性たちの姿。スマホが当たり前の時代になってからは、なおのこと。きりりと決めた働き盛りから新人と思しき若者まで「レディファースト」なんて意識は微塵もなく、まっしぐらに席を陣取ってはメールやゲームに夢中。「疲れてるんだよ、あんたより俺のほうがっ」とでも言いたげな必死の形相だったりして。この姿、女性の「未来の特権」だったはずなのに。

気の置けない友人たちと集まったとき、ふと口にしてみました。すると、皆同じことを感じていたようで「男性としてのプライドはないのかな?」「疲れ切ってて格好悪いよね」「私たち女性に失礼じゃない?」と言いたい放題。そして結論は、「会社でも家庭でも女性に優しくされてないから、座りたがるのかも」。

そんなやりとりをしながら、友人がパートナーについて語った話を思い出しました。「彼は『電車で席が空いていても座らない』がポリシーみたい。自分には体力しかないから、ってことみたいだけど。でも私にとっては、結構それって『決め手』。彼は根本的に優しい人と、信じられるのよね」。

うらやましく思うと同時に、彼女が彼をそうさせているのだと確信しました。彼女は私たちの間でも評判のいい女。つねに穏やかで上機嫌、同性である私たちに「彼女のところに帰りたいね」と言わしめる魅力のある人。こういう人だからきっと、彼が男らしくいられる、そうに違いないと思ったのです。

男性に対して不平不満を言う前に、私たちが先に可愛げのある女になるほうが彼らを変える早道かもしれません。女たちが少し大人になるだけで、男たちはもっと男らしくなり、結果、女たちはもっと女らしくなれる。大げさかもしれないけれど、そんな気がするのです。
家事は、何より知的な仕事

講談社VOCE

家事は、何より知的な仕事

「料理も掃除も洗濯も、そして子育ても『家のこと』はできるだけ私がしたい、そう思っているんです。女性として生まれたからには、それが使命かな、って」。誰もが認めるいい女、モデルである彼女がさらりと言ったひと言。

もちろん、人によっていろんな考え方があるし、関係性は各々が作り上げていくものだと思う。ただ、古臭いと言われるかもしれないけれど、少なくとも私は……と前置きをしながら、穏やかにそう語る姿は、とても美しくて印象的でした。随分年下だけれど、女性としても人間としても、私が心から尊敬する人。いかにも彼女らしい言葉と、改めて彼女を好きになりました。

彼女の言葉をきっかけに、以前、ラジオでの人生相談が人気という作家・三石由起子さんが語っていた「パートナーが何も手伝ってくれない」という相談に対する答えを思い出しました。「家事は、女性ならではの『感性』と『知恵』をもってして、初めてクリエイティブなものになるんです」。だから、男性に手伝わせることばかりに心を砕かないで、女性はもっと家事を楽しんだらどう? という提案。

無意識の中で何気なく耳に入ってきた言葉に、思わずどきりとさせられました。家事のイメージががらりと変わり、突然、女性にとって最高に誇り高き仕事に思えたから。

家庭を持つ友人、特に仕事と家庭を両立している彼女たちの話を聞いていると、本当に大変そうで、パートナーの協力なしには立ち行かないことは理解できます。でも、互いが押し付け合うものになってしまっては、自分が苦しいだけ。ならば、すっかり頭を切り替えて、女性側が誇りを持ってもっと楽しむこと。できることならクリエイティブなものに昇華させ、自分流を作り上げてしまうこと……。

そう捉えられれば、少しは楽に生きられるのじゃないか、素直にそう思えました。すると、男性たちも「せめて自分ができることは」という前向きな姿勢になるのでは、そんな希望を込めて。

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