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松本千登世「美しい人とは、美しい生き方が目に見える人」 [VOCE]

2018年08月04日(土) 11時00分配信

文/美容ジャーナリスト・エディター 松本千登世

美容ジャーナリスト・エディターとしてVOCEでも出演、取材、編集、執筆と活躍中の松本千登世さん。その美しさと知性と気品が溢れる松本千登世さんのファンは美容業界だけにとどまらない。彼女の美容エッセイから、「綺麗」を、ひとつ、手に入れてください。
美しい人とは、美しい生き方が目に見える人

講談社VOCE

美しい人とは、美しい生き方が目に見える人

『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』という絵本を知っていますか?

大統領とは、退任したばかりの前ウルグアイ大統領、ホセ・ムヒカ氏。2012年にブラジル・リオデジャネイロで開かれた国際会議で、彼が披露した演説を題材にしたものです。

語られているのは、経済の拡大に対する彼なりの疑問や懸念を通して見えてくる、本当に大切な「本質」。もちろん、子どもたちを対象にわかりやすい言葉で書かれている物語だけれど、内容はむしろ、現代のあり方が当たり前になった大人たちの心にずっしりと重く響くものです。

大統領時代にも、豪奢な公邸ではなく、首都郊外の農場にある質素な住居に住まっていたというムヒカ氏。妻、愛犬とともにつましく暮らし、公務の合間には花や野菜を栽培。報酬のおよそ9割を社会福祉基金に寄付し、手元に残るのは、ウルグアイ人の平均収入とほぼ同じ額。「唯一の個人資産」である、古びたフォルクスワーゲン・ビートルを自ら運転して「通勤」していたといい、ヒッチハイカーをピックアップしたというエピソードは、あまりにも有名。この生き方だからでしょう。慈愛に満ち溢れた表情の奥にぶれない意志が見える、なんとも味わい深い顔。

そんな彼が放った「貧乏な人とは、少ししかものを持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ」。

核心を突いたひと言に、深く考え込んでしまいました。今の時代の、本当の豊かさって何だろう? 私にとっての豊かさって何だろう? って……。

シンプルに生きたいと改めて思いました。できるだけシンプルに。何でもかんでも抱え込むのはもうやめよう。目指すべき究極は、自分にとっての豊かさなのだから。
純粋で誠実、しなやかで軽やか、清潔感と正義感あり、という才能

講談社VOCE

純粋で誠実、しなやかで軽やか、清潔感と正義感あり、という才能

初めて赴くスタジオで撮影。住宅街の真ん中でわかりづらいと聞いていたので、地図を片手にいちいち確認しながら、その場に向かいました。思いのほかスムースで、珍しく早めに到着。ゆっくりとお茶を飲みながら皆を待ちました。

心に余裕があると仕事もはかどるのか、あっという間に撮影が終了。タクシーで帰るという皆を見送り、運動不足の私は駅までゆっくり歩くことにしました。

一度来た道、すんなり帰れると思ったら……あれっ? 見覚えのない光景。慌てて地図を広げてみたものの、自分がどこにいるかわからない。

誰かに聞かなくちゃ。視線を上げると校庭脇で話し込む男子ふたりを発見。体操服のゼッケンに目をやると「1年○組」……。こんなとき中学1年生はどんな反応をするのだろう? そう思いながら駅への道を尋ねたところ、ふたりは顔を見合わせたあと、身振り手振りを交えながら丁寧にわかりやすく説明してくれました。

お礼を告げ、指示通りに歩き出してふと振り返ると、よほど心配だったのか、私を見ていたふたりが「そうそう、そっちそっち」と大きく頷いてる。思わず甥を思い浮かべ、つい親しげに手を振ってしまった私に応えて、彼らは照れ臭そうに手を振り返し、見送ってくれました。

道に迷ってみるのも、いい。彼らのピュアな瞳を思い浮かべ、そう思いました。13歳という年齢は大人と子どもを行ったり来たり。思春期の危うさばかりが取り沙汰されがちだけれど、じつは13歳たちは感性が「むき出し」になっているだけ。純粋で誠実で、しなやかで軽やかで、清潔感があって正義感があって、人としての才能に溢れていると思い知りました。

大人が忘れてしまった何かをふたりに見たから、ぐっときたのだと思います。ピュアって強い、ピュアって美しい……。
興味の幅は、女の幅、人生の幅

講談社VOCE

興味の幅は、女の幅、人生の幅

10年ぶり? いやもっと? 関西から上京するというひとりの誘いをきっかけに、大学時代を寮でともに過ごした仲間と久しぶりに集まることに。

自他ともに認める「個性派」揃い、皆が今をどう過ごしているのか、とても興味がありました。見た目は変わっただろうか、中身は変わってないはず、それより私は認識してもらえるのかな? ぞくぞくするような、そわそわするような、不思議な高揚感に包まれながら、待ち合わせ場所へと向かいました。

実際に会うと、頭で巡らせていた感情などどこへやら。どうしてた? どうしてる? 私たちは奪い合うように話し続けました。

中のひとり。聞けば、会わない間に「もうひとつの大学」を卒業、現在は臨床心理士として活躍していると言います。学生時代、やることなすことすべてが奇想天外で、たくさんの伝説を作った人。卒業後、地元のFM局でDJを務め、人気者になった人。キャリアにすがりつくことなく妻となり、母となって、その立場を思いきり楽しんでいる人。そして今。仕事柄、その毎日には「虐待」やら「病気」やらネガティブな言葉が付きまとうけれど、彼女は「楽しいよーっ」と笑ってる。

それでそれで? と興味深々の私たちにひと言、「私の人生、ぶれっぱなしだよね」。興味がころころと移り変わり、その都度、本能に正直に行動してしまう、そんな自分をぶれていると評したのです。

いや、むしろ逆。小山薫堂さんにしろ、川村元気さんにしろ、肩書きを絞り込めないほど、活躍ぶりに境界のない人が、ぶれない人。興味が幅広いのは目的が「人を喜ばせること」と一貫してるため。その過程や方法を自分自身が楽しんでいるから、この人たちは磁石のように私たちを惹き付ける……。彼女もきっと同じなのだと思います。興味の幅は、女の幅、人生の幅。この磁力には、誰も抗えないのです。

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