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世界を見据えた女優・寺島しのぶが語る“成熟の野心” [FRaU]

2018年05月09日(水) 11時00分配信

Photo:Akina Okada 

“稀代の悪女” か、時代に抗った “新しい女” か――。2018年 4月にBunkamuraシアターコクーンで上演された舞台「ヘッダ・ガブラー」は、“近代演劇の父” とされるヘンリック・イプセンの戯曲。寺島しのぶさん演じるヘッダは、高名な将軍の娘で、美貌と才気に恵まれて、欲しいものすべてを手に入れたかに見えるが、心の内では、言いようのない焦燥感、不安や不満を抱えていた。


古今東西の舞台女優が “一度は演じてみたい!” と切望する、近代演劇を代表する女性像。寺島さんの2018年は、唐十郎さんの舞台「秘密の花園」で幕を開けたが、「秘密〜」の千秋楽からわずか2ヵ月で、まったく違う時代の、風土の空気をまとうことになる。

わかりにくい人物ほど 演じてみたくなる

Photo:Akina Okada 

わかりにくい人物ほど 演じてみたくなる

――戯曲が生まれて130年経った今でも、世界中でこの作品が上演されています。その理由は、どんなところにあると思いますか?

寺島:恵まれた環境に育って、何不自由なく育ったように見える女性でも、常に不満や焦燥感を抱いている。それは、イプセンが生きた19世紀のノルウェーに限ったことではなく、21世紀の日本でも、現実にあることだと思うんです。

私が演じるヘッダは、いつも自由奔放に見えながら、本当は臆病で、常にフラストレーションを抱えていて、他人が生き甲斐に目を輝かせると、それを徹底的に邪魔するような厄介な女性(笑)。“悪魔的” とか “破壊的” なヒロインとも言われています。

こうして言葉で説明すると、彼女の人生は、すごく悲劇的に聞こえてしまうんだけど、私にはそれは喜劇にも見える。世の中のすべての出来事は、喜劇と悲劇がぐちゃぐちゃに混ざり合っている部分があって、それは、自分の人生を生きているときも思うことです。その、簡単に幸不幸で分けられない人生の面白みが、この戯曲の中にはあるような気がします。130年前の戯曲とはいえ、古臭さは全く感じなくて、むしろ、世の中の構造が実はそんなに変わってないことに驚かされます。
――イプセンはノルウェーの作家ですが、生まれ育った風土が、作風に影響しているようなところは感じますか?

寺島:それはすごくあります。やはり、寒いんでしょうね(笑)。室内劇だからか、ものすごく狭い世界の中に、いろんな感情が集約されている。すこぐ細かい感情のヒダにフォーカスしているようなところがあります。傍から見たら、「なんでそんなこと、バカバカしい」って思ってしまうようなことに、必死でしがみついていたり(笑)。イプセンが、どういう気持ちでこれを書いたのかはわかりませんけど、ノルウェーの風土の中だからこそ生まれた閉塞感や陰鬱さはすごく切実で、ヘッダの感情を想像すると、ヒリヒリします。
――舞台俳優が一度は演じてみたい役として、男性ならマクベスやハムレットを挙げる人が多いと思います。女性では、まず浮かぶのはテネシー・ウイリアムズの「欲望という名の電車」のブランチでしょうか。

寺島:実は私は、ブランチにはそんなに惹かれないんですね。以前、ブランチの妹のステラを演じたことがあるので、どうしてもステラの気持ちになってしまうからかな(笑)。ブランチは、人生を転落していく理由がとても明白ですよね。死んだ夫が同性愛者だったり、少年を誘惑したことで街にいられなくなったり。精神が冒されて当然の過去を抱えている。比較するとヘッダの闇は、誰の心にも生まれうる闇なんです。だから、むしろわかりにくい。私は女優として、わかりにくい人物ほど演じてみたくなる、そういうタイプなんです。
――テネシー・ウイリアムズはアメリカ人、イプセンはヨーロッパ人です。短絡的かもしれませんが、ヨーロッパの作家が描く人物像の方が、難解ですよね。映画も、大まかに言えばアメリカ映画の方が単純明快を好む傾向がありますし。

寺島:そうですね。だから私は、人物造詣に関しては、どうしてもヨーロッパの作家が書いた戯曲の方に惹かれてしまうのかもしれない。フランス人の夫を持ってから、ヨーロッパ人の方が、感性は日本に近いんだとあらためて認識するようになりました。シニカルなもの、アイロニックなものを愛することも、私は、谷崎潤一郎の陰影礼賛に通じるものを感じますし、フランス映画の、物語の結末に、その先を想像させる余地を残したりするところも好きです。

彼と結婚してから、「ああ、私はヨーロッパ的なものが好きなんだ」とよく思います。たとえば、パートナーと一緒に難解な映画を観たとしますよね。そのあと、「あーでもない」「こーでもない」と、描かれていなかったことを想像しながら、意見を交わし合うことって、すごく人間を豊かにしてくれると思うんです。

PROFILE

寺島しのぶ Shinobu Terajima
1972年生まれ。京都市出身。青山学院大学在学中の1992年、文学座に入団。2003年公開の映画「赤目四十八瀧心中未遂事件」で第27回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、「ヴァイブレータ」で東京国際映画祭女優賞を受賞。2007年、フランス人アートディレクターと結婚。2012年に一男をもうける。

2010年「キャタピラー」で世界三大映画祭の一つベルリン国際映画祭最優秀女優賞(銀熊賞)受賞。主演映画「オー・ルーシー!」は、4月28日ユーロスペース、テアトル新宿ほかにてロードショー。2019年2月には、パリのコリーヌ劇場で舞台「海辺のカフカ」が上演予定。

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