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フランス人が人を家に招いて、「もてなさない」理由 [おとなスタイル]

2018年02月14日(水) 10時00分配信

たった3皿でおもてなし。

人をよく家に招くフランス人。毎回それは気合を入れて準備をするのかと思いきや、用意するのはどんな場合でも前菜・メイン・デザートのたった3皿。最新刊『フランス人は3皿でもてなす フランス流 始末で温かい暮らし』より、実は手抜き上手なフランス人たちから学ぶ、“がんばらないもてなし”を考えます。

「ここは料理と見栄の発表会?」

日本の「おもてなし」といえば、セレブな人たちが、おしゃれなインテリアの家で、素敵な器を使ったテーブルコーディネートで、手のかかったご馳走をふるまうようなイメージです。言葉は悪いですが、それは、自分がこれだけのものを持っているという“発表会”です。
いずれにしても日本の「おもてなし」は、相手に“与える”ものです。
それにひきかえフランス人は人を家に呼ぶことは、「Recevoir(ルスボワール)」という動詞でフランス語では表します。英語でいう「Receive(レシーブ)」、と同じ。つまり“受け取る”のです。
人が家に来ることは、相手におもてなしを“与える”のではなく、自分が相手の大切な時間を“受け取っている” “いただいている”感覚です。
フランス人と日本人では、人を自分の家に招く感覚がまるで違います。
フランスでは、家に呼ばれたら、こちらも呼び返す習慣があります。「じゃあ、今度はうちに来て」となるべく早い時期に。そうやってお互いの家で食事をしながら、ゆっくりお喋りをすると、温かみのある人間関係が生まれます。それをフランス人はとても大切にするものです。

この違いがわからなくて、私も昔、失敗をしたことがあります。フランス料理を習い始めたばかりの頃です。フランス人を家に招いて、精一杯のご馳走でもてなしたつもりが、相手に言われてしまいました。「あなたをうちに呼べないわ」って。「こんなにおいしいお料理を出されたら、うちには呼べない」と言われて、私は愚かなことに、そのときは誉められたと思ってしまったのですが違いました。
「うちに呼べない」=心から仲良くはなれない、ということ。
フランス人は見栄を張ったり、自分をよく見せようとする“発表会”を求めているのではなく、本当にもっと仲良くなりたいから、うちに来てくれるんです。私がするべきことは、自分が頑張るのではなく、相手を“受け取る”ことだったのです。
フランス流がんばらない招待ルール

がんばらなくていいってだけで気が楽に。

フランス流がんばらない招待ルール

食べる、飲む、会話を楽しむ――。これはフランス人が、人生においてもっとも大切にしていること。だからこそ、フランス人は人をよく家に招きます。その際のルールみたいなものがあるので、ご紹介しましょう。

1、初めて来る人には、食べ物を持ってきてもらわない
逆を言えば、初めて行く家に食べ物は持っていきません。呼んでくれた人がせっかく自分のためにメニューを組み立ててくれているのに、そのメニューとちぐはぐな食べ物を持っていくのは失礼(迷惑)だから。基本的にフランス人の家へ行くのに、手みやげは不要です。持っていったとしても、小さな花束程度です。

2、料理をがんばりすぎない
招く側が用意する料理は、前菜、メイン、デザートの3皿。本当にどんな場合でも3皿だけでいいんです。日本のように、食卓にたくさんの料理を並べることはなし。きちんとしたいときには、メインに時間のかかる煮込み料理を作ることもありますが、フランス人は人を呼ぶことを大げさに考えないんです。料理が得意ではない人は、前菜が缶詰のフォアグラだったり、メインが冷凍食品だったということもあって、そんな“おもてなし”でも全然OKです。文句を言う人は誰もいないし、陰で悪口を言ったりもしない。だからとても気楽です。

人生を彩る大切なコミュニケーション時間と考えれば、日本人もゲストを家に呼ぶハードルを下げたいものです。そのほかにフランス人らしい暗黙のルールは、

3、呼ばれたら、必ず呼び返す

4、カップルで参加する

5、12時過ぎまで続いたらパーティは成功

といったものがあります。

招かれたら、パートナーと一緒に出向くのがフランスでは一般的です。奥さんが誰かの家に呼ばれたら、旦那さんと行くのが普通です。これは私の実感ですが、男女が混ざったほうが会話は面白くなる! 女性ばかりでストレス発散をすると、どうしても「うちの子が……」みたいな日常的な話とか愚痴が出て、ネガティブなムードになりがちです。でもそこに男性が入ると、哲学的な話だったり、語学習得法であるとか、旅先での出来事とか、自然と広がりのある話題になります。
「人と楽しく過ごせる」ことが、フランス人にとっては本当に大事なことなんですね。そこには見栄や建て前や遠慮の入る余地がないのです。

気持ちがラクになるシックな手抜き

去年呼ばれたフランス人のお宅で、すごく印象に残る食事会を経験しました。
前菜は一応、フォアグラが出てきたのですが、よくスーパーで売っているような缶詰で、それに葉っぱをちぎっただけのサラダが添えてある。お料理してないんですよね。ところがお皿は、うちで言えば一番上等の銀縁のウェッジウッドのような、とてもエレガントなものなのです。白いテーブルクロスをかけた食卓で使うような、格上のお皿です。
カトラリーは銀製のクラシックなもの。そしてグラスが、とっても美しいクリスタルで、ひとりひとり形が違うんです。そばには背の低いお水用のゴブレットが置いてある。なんて可愛いテーブルコーディネート! 私は感心しきりでした。
前菜を食べ終わると、メインの煮込み料理のお鍋が運ばれてきたのですが、お客さんたちも心得たもの。前菜のお皿をパンでぬぐってきれいにして、そこにメインの鶏とキャベツの煮込みを盛り付けてもらいます。つまり、お料理のためのお皿は1枚だけなんです。でもそれがすごく上等なお皿だから、感じがいい。

人の家に呼ばれたときって「私たちが帰ったあと、お皿を洗うのが大変だろうな」と思ったりするけれど、ひとりにつきお皿1枚なら、お客さんに心配をさせなくてすみます。
グラスもそうです。シャンパン、白ワイン、赤ワイン用とテーブルにたくさんのグラスが並んでいるのは、最初は「わぁ!」と豪奢さに気分が上がりますが、そのうち、「洗うの、大変そう」って女性はどうしても思ってしまいます。それに中にはすごくたくさん飲む人もいれば、あまり飲まない人もいて、飲まない人は最初の白ワインのグラスがずっとあって、「このままで結構です」という感じでしょう? 食事が進むと次第に、グラスが乱立しているように見えてきます。
その点、そのおうちは最初から最後まで、クリスタルのグラスが1客だけでした。白を飲んで、次に赤を飲みたい人は、ゴブレットの水をグラスにちょっと入れて、ぐるぐるとまわして簡単にゆすぎ、その水を飲み干して、同じグラスに赤ワインを注いでもらう。「こういうのもいいな。むしろグラスをたくさん並べるほうがシックではないかも」と私は思ってしまいました。
あとで聞いたら、ひとつひとつ形の違うグラスは、アンティークショップで1客ずつ買い集めたのだそう。今はもう手に入らない昔のものです。だから、こっちのグラスは彫りがあったり、こっちのグラスは流線型だったり、ひとつひとつが絵になって、テーブルの華になっていたんですね。

カジュアルな食器をあれこれ持つのではなく、本当に良いものだけを使って、それで押し通す――。かっこいいです。自分のこだわりがある人はシックです。ちなみにその家のデザートは、気心の知れたお客さんたちが持ってきてくれたムース・オ・ショコラと焼き菓子。料理があまり得意ではないホステスは、ずっとお喋りをして、私たちをくつろがせてくれた。とても楽しい食事会でした。
<著者プロフィール>
ペレ信子(ぺれ・のぶこ)
1967年東京生まれ。21歳でブルゴーニュ大学に留学後フランス企業に4年間勤務し、1993年26歳でフランス人と結婚。結婚後は、夫の仕事の関係でアメリカに住んだ2年をのぞき、日本で暮らす。通訳、翻訳の仕事の傍ら、3人の子供を育てながら、2004年よりダニエル・マルタンにフランス料理を、丸山洋子にテーブルコーディネートを学ぶ。ダニエル・マルタンの依頼で著書『鍋ひとつでできるお手軽フレンチ』(サンマーク出版)の翻訳を担当。
2011年より東京・目白台にてサロンをオープン。気取らないおもてなしと、簡単な料理や器選びのコツなどを提案し、人気に。また、キッチンリフォーム会社のショールームや、器店など店舗のコーディネートをしたり、雑誌で食に関連のコメントをするなど幅広く活躍中。

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