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行政も注目!“得意”を生かした働き場所を自分たちで作った平均年齢70歳 [おとなスタイル]

2017年12月08日(金) 10時00分配信

せめてしゅういちのメンバーのみなさん!

週に一度集まって、みんなの得意なことを生かした仕事に就けば、生きがいや自信につながる――。
行政も視察に来る、注目の高齢者就労プロジェクトをリポート。
メンバーはただいま平均年齢70歳!
この年齢で働くのがこんなに楽しいと思わなかった!

千鶴子さんのお弁当の一例。最近では、若い仲間のアイディアもプラスし、和食、洋食、サラダなどバリエーション豊富。

この年齢で働くのがこんなに楽しいと思わなかった!

メンバーの経歴はじつにさまざまだ。カフェやケータリングの料理を担当する小林千鶴子さん(70代)は、カフェから徒歩数分の場所に住むご近所さん。9年前に夫を亡くし、しばらくはひとり時間を持て余す日々。そんなとき、地元のお祭りで清子さんに出会い、思わぬ誘いを受けたという。
「私が料理好きだということを知って、清子さんが、カフェの隣のデイケア施設で出すお弁当作りを手伝ってくれないかと。お勤め経験はあったけれど、あとはずっと家事だけ。でも、家族が料理をよく褒めてくれていたのを思い出して、引き受けることにしたのです」

千鶴子さんの“家庭の味”は美味しいと評判になり、やがて近所の学校から、教職員用のお昼の弁当作りの注文が舞い込んだ。すると彼女はさらに本領を発揮していく。
「月曜日から金曜日までの週5日、毎日約10人の先生のお弁当作りを約2年間、続けました。毎日レシピを記録して、一度も同じおかずを出さないようにあれこれ工夫。旬の食材を使い、限られた予算の中でレシピを考えるのは、忙しいけれどいい脳トレになり、もう毎日が楽しくて。それに、美味しいって言ってもらうと、その気になるんですよ(笑)。ずっと家族のためにやっていた料理作りがこんな形で仕事になるなんて、思ってもみなかったけれど、今は生きがいになっています」

山渕達也さん(70代)は、森田夫妻のワークショップ参加者からメンバーになった一人。30年以上、商工会の経営指導員として勤務し、定年後に、声をかけられた。
「清子さんは“参加しませんか”というけれど、“あなたはこれをやってください”と強制することはありません。なので、自分の力を活かせるのは何だろうと考えて、長年、携わってきたことから、カフェの経理を担当することにしました。
その後、年寄りの知恵を若い人にも伝えられたらと思い、カフェに来るお母さんや子供さんたちに親子簿記の教室や、お金にまつわる個人レッスンを開催してみました。
すると、続けて参加してくれる人もいて、それが励みに。“せめて週一”なのに、多いときは週5日も神奈川県の葉山から通っています」
山渕さんの指導を受けて、不登校の生徒が経理の勉強に興味を持ち、金融系の会社を受験。みごと就職に成功したという例もあるそうだ。

若い人からも学ぶことがたくさんある

世代を超えたつながりがあるのも、ここのおもしろいところ。
2016年から地域の小学生を対象とした放課後預かりサービスをカフェで開始。隣のデイケア施設に集まる子供や若者たちも加わり、『せめて……』のおじさん・おばさんたちが、ワイワイ賑やかに触れ合う様子は、まるでひとつの大家族のようにも見える。

「ケータリングの注文が増えて、カフェのキッチン設備を新しくしたいけど、お金がなくて困っていたら、若者に“クラウドファンディング(*3)はどう?”と教えられ、試してみたらなんと、166万円以上も集まりました。若い人から学ぶこともたくさんありますね」と清子さんはいう。

『せめてしゅういち』出版部では、すでに数冊短編小説集を出版。吉村さんはこの出版部をもっと育てていきたいという。

また、吉村順子さん(60代)は現役の大学教授だが、すでにメンバーとして参加。
「私は清子さんに“出版部を作って”とお願いしました。以前から森田さんのワークショップを記録していて、書くことは好きだし、臨床心理学が専門なので話を聞くのも得意です。ここで出会う、人生の様々な経験を経てきた人たちの話を小説にしてみたい……。山渕さんと一緒に、お金に関する本を出すことも考えています」
働くことの“お金を稼ぐ”という意味は大きいけれど、それ以上に“楽しみ”や“やりがい”がこんなに大きな自信や生きがいにつながるとは……!
「私自身、このプロジェクトを始めて、自分には何もないと思っている人も必ず“何か”を持っていることを知りました。自分には普通でも、ほかの人には大きな価値がある。そのことに気づくとみな、驚くほど自由になる。あとは踏み出す少しの勇気さえあれば十分」と清子さんは笑顔で話す。

キャリアや特技があってもなくても、人は自由になれる。働き始めた20代のワクワクを60代、70代でも感じることができるのだ。
さぁ、私たちだって、先輩方に負けてはいられない……!
せめてしゅういちのメンバー

“自分には何もない、誇れるものは何もない、 と思ってる方こそが、ここでは、 自由を発見できるのかもしれません”

せめてしゅういちのメンバー

森田清子さん(60代)
もりたきよこ/イッセー尾形・ら株式会社代表取締役。夫の森田雄三氏と2013年にカフェ「楽ちん堂」をオープン。’14年、発達・精神障害の子供のデイケア施設「イクツアルポック」開設。

“ずっと家族のためにやっていた料理作りが、 こんな形で仕事になって、 今は生きがいです。美味しいって言って もらえるのがすごくうれしい。毎日が幸せ”

小林千鶴子さん(70代)
こばやしちずこ/夫に40年間作り続けていたお弁当の腕を買われ、今やデリバリー事業のホープ。二子玉川のIT企業でも千鶴子さんのお弁当は人気。

“ここでものすごくやりがいをいただいて、週5日も通っています”

山渕達也さん(70代)
やまぶちたつや/商工会の経営指導員を定年まで勤め、退職後は専門学校の契約講師として簿記や経営管理を教える日々だった。

“ここの人たちが登場するラジオ番組を作り始めました”

加藤昇太さん(60代)
かとうしょうた/ラジオ番組制作会社に現在も勤務。スタッフ参加の「昭和からのメッセージ」を制作、放送中(SBC信越放送ほか)。

“一人でご飯を食べたくないとき、誰かとおしゃべりを したいときにもここに来ます。 これからウェディングの会場セッティングや ブーケ作りを担当する予定です”

増島季美代さん(60代)
ますじまきみよ/長年、映画やドラマの美術、小道具の会社を経営。将来、『せめて……』のウェディング部門を担当の予定。

“自分のこれまでの経験を生かし、また新たなチャレンジができる”

宮永捷さん(70代)
みやながしょう/出版社を経営。『せめて……』の出版部メンバーとしてカフェのレシピ本ほか複数の本の企画が進行中。

“まだ数年、現役だけれど、私にとってここは、 定年後の生き方の準備をする場所。 その滑走路みたいな場所です”

吉村順子さん(60代)
よしむらじゅんこ/鶴見大学教授。専門は臨床心理学、教育心理学。著書に『特殊事例がひらく心の世界』(共著)ほか。
*3
クラウドファンディング
不特定多数の人がインターネットを経由して共感した組織に財源の提供や協力などを行う新しい援助システムのこと。群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語で、ソーシャルファンディングとも呼ばれる。資金不足などの解決に役立つ場合も多い。

 
『おとなスタイル』Vol.8 2017夏号より
撮影/山崎智世

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