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作家 江國香織さん「主観があるから自由になれる」 [おとなスタイル]

2017年11月06日(月) 10時00分配信

主観なしの人生はありえない。それを知って、自由になった

江國香織さん。

主観なしの人生はありえない。それを知って、自由になった

今、この年齢で読めてよかった! と快哉を叫びたくなる作品である。江國香織さんの新刊『なかなか暮れない夏の夕暮れ』の登場人物は、ほとんどが50代。
経済的にも文化的にも恵まれた家庭に生まれ育ち、50歳の今も高等遊民のように優雅に暮らす主人公・稔を中心に、彼とつながる男性、女性の恋愛と日常が描かれる。ときめき。戸惑い。リアルな「おとな」世代の息遣いが伝わる一作だ。
「これまで読んできた小説の中で、50代は、いつもすごく落ち着いた書かれ方をしていたんですよね。たとえば夫婦なら『あなた、召し上がる?』『僕は結構だよ、君が』というような会話をしていたりして(笑)。でも、私を含め、周囲の人たちは誰もそんなふうには話していない。だったら、私の周りにいるような50代のことを、書いてみようと思って」

稔との恋に浮き足立つ、バツ1の女性誌編集長。若い妻との暮らしに翻弄される同級生。稔との事実婚で娘を儲けたシングルマザー。静かに暮らす女性同士のカップル。カメラマンとして奔放に世界を飛び回る稔の姉。作者曰く、「50代というエスカレーターに乗りそびれた人たち」は皆、よるべなくも自由で、愛すべき存在として描かれている。
「『皆はどうしているんだろう?』と考えずに済むようになり、正解のようなものがないんだということを知って、やっと自分の立ち位置を見つけることができる年代なんでしょうね。人との関係でも、『私を受け入れて!』『相手を受け入れなくては!』というところを通りすぎて、やっと落ち着くところに落ち着ける」

病や死。そう長くはない残り時間。老いの現実は、避けようもなく忍び寄る。影のようにつきまとう孤独を、誰も振り払いきることはできない。しかし、それらすべてをひっくるめての自由を、今を、彼らはそれぞれに謳歌する。
「孤独は当然だし、安心できるものでもある。希望よりも孤独のほうが安らかだと思うときが、私にはありますね。むしろ、夢や希望を持たなくてはいけないと思わされていた若い頃のほうが、私にはちょっと窮屈だったかな」

第二の思春期を生きる、可笑しくも清々(すがすが)しい姿。それは、「30代以前は人並み以上に不自由を感じていた」という、江國さん自身の今でもあるのだろう。
「自分の主観は主観としてあるんだけれど、それを行動規範にしてはいけないんだとずっと考えてきました。でも、それも行動規範になりうるし、本来はすべきなんだと思えるようになってから、自由に。主観なしには人生は成り立たないし、今は、すごく大事なものだと思えます」

“希望より孤独のほうが安らかなときもある”

『なかなか暮れない夏の夕暮れ』
〈なんのためにおとなになったんだよ〉〈すくなくとも、星を見るためじゃないな〉。夏の夕刻のように穏やかでせつない時間が、おとなたちの足元をゆったりと流れていく。稔の精神の自由を象徴するのが、作中、彼が没頭する読書シーン。彼が読む作品として劇中劇のように織り込まれる、北欧とジャマイカを舞台にした2編のミステリーは、何と江國さん自身の作! 思わず続きを読みたくなる小説内小説が、読者をさらに遠くに連れていく。/角川春樹事務所

“江國さんの自由”といえば?

『プラテーロとわたし』J.R.ヒメネス
自由を教わった本として江國さんが挙げたのは、スペインのノーベル文学賞詩人の作品。小さな灰色のロバ、プラテーロとの日々を綴った詩文集からは、生老病死を含め、人生のすべてを愛おしむ心が伝わる。「悲しいことも含めて世の中なんだよ、と……とても静かで平らかな気持ちになれます」理論社
■Profile
江國香織さん[作家]
えくに・かおり/1964年東京都生まれ。2004年、『号泣する準備はできていた』で第130回直木賞を受賞。『きらきらひかる』『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』『がらくた』『真昼なのに昏い部屋』『犬とハモニカ』『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』など作品多数。

 

 

『おとなスタイル』Vol.8 2017夏号より
撮影/森本洋輔

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