• > 作家・小川洋子さんが明かす「小説家の舞台裏」 [おとなスタイル]

作家・小川洋子さんが明かす「小説家の舞台裏」 [おとなスタイル]

2017年08月04日(金) 10時00分配信

空想では、敵わない。現実こそがまさに“小説的”

小説家の心の中から、物語がどのようにして生まれるのか――それは、読み手にとっての永遠の謎。だが、小川洋子さんは、最新刊で少しだけその魔法の種明かしをしてくれた。短編集『不時着する流星たち』に収められた10編の神秘的な物語の末尾には、物語を発想するきっかけを与えた実在の人物の名、また、モチーフとなったものや出来事が記されているのである。

「現実との出会いを自分なりのフィクションにしていくという書き方はいつもの通りですが、それを目に見えるかたちにしてみたらどうなるだろう? と……。50代も半ばに近づいて、自分がどういう書き方をしてきたかということがだんだんわかってきた。自分のことが少しは見えるようになったということも、あるんでしょうね」

32歳で人前から消えた伝説のピアニスト、グレン・グールド。小さなアパートで世界最長の小説とその挿画を描き続けたヘンリー・ダーガー。アウトサイダー色の強いアーティストに加え、作家、学者、女優、そして「世界最長のホットドッグ」といった、人でないものまで。
’88年にデビューし、作品を書く日々の中で出会う現実は、小川さんをして時に「いくら空想を巡らせても敵かなわない」と思わせるほどに“小説的”であるという。

「『これが私の書いた小説だったらいいのに!』と思うこともしょっちゅうです。でも、そういうときは、敗北感を感じるというより、むしろ『ああ、だから書く意味があるんだな』と。私たちが生きている世界は本当に奇妙で、何もかも理屈どおりにはいかず、人が一所懸命にやればやるほど滑稽なことになってしまう。いろんな人がいて、自分も大勢の中のちっぽけなひとりなんだと思うと、いくらでも他人が許せるようになるし、それは、自分を肯定することにもなると思うんです」

現実という種から小説家が花開かせた物語は、読んだ人の胸の中でふたたび種となり、また別の花を咲かせる。
この奇妙で美しい循環こそが、芸術の醍醐味なのだろう。

「人のやる何かがその人の意図を超えるとき、素晴らしいものが生まれる。小説も同じで、作家が書いた意図通りに受け取られるのではなく、それを超えていくような作品にしていかなくてはならないんでしょうね」

“「ちっぽけなひとり」だから、自分も他者も肯定できる”

『不時着する流星たち』
「本人がまったく意識していないのに、知らぬ間に他者に対して何かの役割を果たしてしまうということがあると思う」と小川さん。誰か(何か)の孤独が別の誰かの孤独に感応するように流れていく珠玉の物語は、哀しみを超越した温かなきらめきを胸にもたらす。角川書店
“小川さんのひとり時間”といえば?

文春文庫

“小川さんのひとり時間”といえば?

『旅をする木』星野道夫
近年、自然に親しみを感じる機会が増えたという小川さんのおすすめは、冒険家が遺した随筆集。「オーロラの下で宙返りする鯨の様子を思い浮かべると、深く息が吸い込める感じがするんです」
■Profile
小川洋子さん[作家]
おがわようこ
1962年岡山県生まれ。’91年、『妊娠カレンダー』で芥川賞を受賞。『薬指の標本』『博士の愛した数式』『ブラフマンの埋葬』『ミーナの行進』『猫を抱いて象と泳ぐ』『人質の朗読会』『ことり』『琥珀のまたたき』など作品多数。

 

 

『おとなスタイル』Vol.7 2017春号より
撮影/森本洋輔

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