京都ツウの通う、美味しい名店リスト [FRaU]

2017年07月27日(木) 11時50分配信

「私が愛する京都の魅力は、とても本質的なものです。確かな素材を使い、丁寧に料理をし、美しくしつらえ、お客さまに喜んで頂くためにもてなす。人ときちんと向きあって会話をする。自分を取りまくすべてに感謝の心を忘れない。薄れゆく日本人本来の姿が、この街の営みにはきちんと根付いていると思うのです」(如月太夫さん)
PROFILE

Photo:Yoshiki Okamoto

PROFILE

如月太夫(きさらぎたゆう)さん
京都の花街・島原で「正五位」の官位を与えられた最高位の妓女。女歌舞伎で活躍した女性が「太夫」(舞太夫など)と呼ばれたものが始まりといわれ、優れた技能、教養を持つ最高位の遊女の名として定着。300年以上の歴史を持ち、公家文化を継承するあらゆる芸事(舞踊、箏、胡弓、茶道、書道、香道、華道、和歌に至る)を極め、美貌と教養を兼ね備えた名実共に最高位の女性。右の衿を返し、中から赤色をのぞかせるのは正五位の当色、緋(赤色)を纏う高貴さの証。前で結ばれた五角形の帯は、「心」の字を表している。
作り手の信念を感じる京都の美食めぐり

赤身とサシのバランスに絶対の自信を誇る、信州和牛の特選ロースのステーキ Photo:Yoshiki Okamoto

作り手の信念を感じる京都の美食めぐり

「京でお肉といえば、ココが一番」と如月太夫さんも太鼓判を押すのが、烏丸御池の「肉家 桜真」。和牛を一頭買いする精肉卸店直営とあり、肉のレベル(信州和牛A4ランク以上)、鮮度は言わずもがな。

「お肉に関しては絶大な信頼を寄せていますので、いつもお任せ。毎朝仕入れるその日一番のものを出してくれます。そして、ぜひよばれて頂きたいのがお野菜。おかしな表現かもしれませんが、ここのお野菜は素直な味がするんです。カブひとつにしても、『カブだよ! 大きくなったよ!』と言ってるみたいな、ね(笑)」

炭焼きマスターの天野秀樹さん。 Photo:Yoshiki Okamoto

肉は素材の旨味を生かし、シンプルに炭火焼き。「炭を操れなければ旨い肉は焼けない」と、焼き場を取り仕切る天野秀樹さん。炭の繊細な温度の違いを把握し、高温と低温の場所を捉えながら炭の余熱でじっくりと熱を通す手さばきは職人技。「大切に扱ってあげると、肉はどんどん美味しくなる。徹底した品質管理は、肉への敬意なんです」と、天野さん。

「口の中で、肉の脂が水のようにすぅっと軽やかに溶けていくんです。お酒でいうなら大吟醸の味わい。それでいて、牛肉の味わいと香りがきちんと残る。桜真さんのお肉が美味しいのは、最高級というだけではないんです。食材すべてにストーリーがあり、お店の方の信念が伝わってくるから、美味しさに説得力がある」と、今日も変わらぬ旨さに満面の笑みの如月太夫さん。

豪華な生け花が迎える重厚な玄関。 Photo:Yoshiki Okamoto

肉家 桜真
住所:京都府京都市中京区室町通押し小路下る御池之町309
彼女がご贔屓にするお店には、美味しいだけではない共通する“何か”がある。それは、料理の奥に見え隠れする、店主の人柄や信念。そんな思いに至ったのは、素敵な夫婦が営む一軒のトラットリアを訪れた時だった。比叡山を眼前にのぞむ宝ヶ池の住宅地にひっそり佇むオーナーシェフ中村元さんの「トラットリアヴィンサント」。

「あたたかいご夫婦の人柄がお店に溢れていて、まるでご自宅に遊びに来たような感覚になるんです。私も親しい人としか訪れない、少し特別な1軒。食いしん坊な私の我が儘も全部聞いてくれますし(笑)」。道中、如月太夫さんはそんな話をしてくれていた。

日替わりで盛り合わせるボリュームたっぷりのヴィンサント特製サラダ。 Photo:Yoshiki Okamoto

まず頼むべきは、如月太夫さんも必ず注文するという「ヴィンサント特製サラダ(要予約)」。テーブルに置かれた白い大きなプレートに思わず歓喜の声が漏れる。「本日の内容は、帆立、車海老のソテーに、スモークサーモン。マグロのタルタル。紅ズワイガニのマリネ、本マグロのタタキ……」。奥さまの丁寧な説明を聞かなければ気づかないほど、下に見え隠れする魚介たちを覆い隠さんばかりに高々と盛られた色とりどりの野菜に目が釘付け。

「いろんな種類の野菜をたくさん食べてほしいと思って作っていたら、こんな感じになってしまいました(笑)」と、照れくさそうに笑いながら中村シェフが続ける。

「ひと皿のなかに、ここ周辺で採れる冬の野菜が全部詰まっているんです。農家の多い大原周辺は、猿や鹿のホームで、むしろ人間の方がアウェイという環境。そのせいか、この辺りの野菜は野生味があって味が濃いんです」

親しい農家から届く大山周辺で穫れた地もの野菜。 Photo:Yoshiki Okamoto

全国から取り寄せる珍しい野菜に加え、22年前の開業当初より近くの農家の方々と交流し、「地産地消」という言葉が定着する遥か前から地の野菜を使い続けているそう。

店内には優しい自然光が注ぐ。 Photo:Yoshiki Okamoto

トラットリアヴィンサント
住所:京都市左京区上高野諸木町52

焼きそばは、熱々の鉄板から直に食す。 Photo:Yoshiki Okamoto

紅に染まった西の空を眺め、再び京都市街の中心部へ車を走らせた。

焼きそば専門店「おやじ」。清水五条駅近くにあるその店は、マスコミにもしばしば登場する有名店だが、如月太夫さんにとってここは、芸の道を志した15の頃、先輩に連れられて訪れて以来、ずっと通い続けている文字通り馴染みの一軒だ。現在は3代目となるお母さんが店を切り盛りしているが、当時はまだ先代が腕を振るっていたそう。注文は黄色い紙に客が自分で書いて渡すスタイル。ベースとなる「1ヶ入」には、そば玉、イカ、ちくわ、キャベツが含まれてて、壁に下がる品書き札を頼りに、自分好みに焼きそばをカスタマイズできる。

豪快なコテさばきで手早く麺を仕上げるお母さん。 Photo:Yoshiki Okamoto

如月太夫さんも慣れた手つきで注文をお母さんに渡すと、さっそく鉄板に麺が投じられる。鉄板の前に貼り出す細長いカウンター席は、まるで舞台のかぶりつきさながら。豪快なコテさばきで、麺も客もテキパキとさばきながら、「ソースはどないする?」とお母さん。「ちょい辛でお願いします」の言葉をかき消すようにジュ〜ッと勢い良く音を上げてソースが投入されると、あっという間に麺に絡み、その香ばしさが食欲に追い討ちをかける。

如「今日も美味しいおすわぁ」
母「おおきに。こだわってるからねぇ」
如「後半、カリカリになった油かすのクリスピー感がまた美味しおすの」
母「お焦げはお焦げで美味しいからねぇ」

言葉は少なくても、カウンター越しに交わされるテンポの良い対話は、実に心地よく、温かい。

品書き札の横には、注文の仕方を説明した張り紙もあり、初心者でも安心。 Photo:Yoshiki Okamoto

おやじ
住所:京都府京都市東山区北御門町259

えび、とり、かきが入った釜飯ミックス Photo:Yoshiki Okamoto

とっぷりと日も暮れ、軒先に灯を灯した木屋町通をそぞろ歩き、今宵最後の1軒、四条河原町の「月村」へ。昭和20年に創業し、京都で初めて一合炊きの釜めしを考案したお店だ。

「いつも、ふっと思い立ったときによさせてもらうんですが、いつ来てもぶれない馴染みの味に心が休まるんです」と如月太夫さん。お造り、白子、ふぐの唐揚げをちょいちょいつまみながら、釜めしが炊きあがるのを待つ。清水焼の小振りな釜を専用コンロにかけ、蓋をせずに中の様子を見ながら「むっくら」と絶妙の炊き加減に仕上げるのが月村流。寡黙なご主人は、真剣な眼差しで黙々と料理を作り、その背中を隣で見守る奥さま。阿吽の呼吸で器を差し出し、ご主人の一手、二手先を読んでいるかのよう。夫婦の無言の掛け合いは、惚れ惚れするほど。

3代目店主の佐藤光三郎さん(右)と、女将の亜樹子さん(左)。 Photo:Yoshiki Okamoto

「ね、素敵なご夫婦でしょ。美しい奥様がいつも隣にて、時おりふと微笑みかけるご主人の笑顔がとても優しいんです。多くを語らなくても、ご主人の所作からは毎日同じことを繰り返すことの大変さと、それを守ってきた信念が伝わってきますし、奥様は陰となり日向となってご主人を支えている。まさに、私の理想の夫婦なんです」

そんな如月太夫さんの言葉に、「いえいえ、私たちは2人で一人前ですから」と、腰を低く微笑む女将さん。

「芸事もお料理も、ひとつのことをやり続けるということは、本当に大変。お出汁ひとつにしても、素材、産地、天候に応じて、水や火加減など、毎日少しずつ何かを変えているはず。『変わらぬ味』、『伝統の味』と言うけれど、『変わらないこと』を守るということは、毎日変わり続けること」

そうやって日々修練を重ねてきた人々の自信と歴史が、京都という街を作ってきたのだろう。

引き戸を開けると、美味しい釜飯が待っている。 Photo:Yoshiki Okamoto

月村
住所:京都府京都市下京区西木屋町四条下ル船頭町

吉田山の森のなかに静かに佇む「茂庵」。 Photo:Yoshiki Okamoto

翌朝は少し早起きをして、吉田山山頂にあるカフェ「茂庵」へ。ちょっとした散策気分を味わいながら緩やかな勾配を進むと、「茂庵」が現れる。

「茂庵」は大正時代に創られた茶の湯のための場で、現在はカフェとして営業している。西の窓からは京都市街地を一望し、東の窓には如意ヶ嶽の「大」の文字がぴったり収まって見える。ここはまさに「市中の山居」(=日常の中に非日常の空間を取り込み、その空間と時間を楽しむという茶の湯の考え)。ただただぼおっと過ごすひとときに、心がほどけてゆくよう。

本日のケーキ。この季節はいちごのシフォンケーキ。 Photo:Yoshiki Okamoto

「短い人生のなかで、いかにいいモノ、良き人に出会えるか。それがその人の財産になる。今回ご紹介したお店の方々のように、光栄にも私はたくさんの素晴らしい出会いに恵まれてきました。みなさん、笑顔が本当に素敵なの」

気軽にお茶に親しめる毎月の月釜も催されている。 Photo:Yoshiki Okamoto

如月太夫さんと共にお店を巡るたび、京都の街に息づく日本の心が沁々と伝わってくる。人と人が顔を合わせ、きちんと対話するという日本本来の姿が、この街には残っている。

茂庵
住所:京都府京都市左京区吉田神楽岡町8「吉田山山頂」
●情報は、FRaU2017年3月号発売時点のものです。

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