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人生の大先輩へのラブレター[山田香織×小泉清子] [おとなスタイル]

2017年05月21日(日) 09時00分配信

細いのにしなやかで折れない柳の木のような強さと美しさを持っている―。
明治の終わりから、大正、昭和の初めに生まれた女性たちが、ひときわ輝いて見えるのはなぜだろうか。
シスターの渡辺和子、元首相・三木武夫夫人の三木睦子、作家の瀬戸内寂聴、元『暮しの手帖社』社主の大橋鎭子ら『日本女性の底力』(白江亜古著・講談社+α文庫)に登場する27人の女たちは、心折れるようなことがあっても何度でも起ち上がって、前へ進もうとする。
インタビューには、彼女たちの心身からにじみ出た宝物のような言葉がぎっしりと詰まっている。

勇気、考えること、凛とした生き方、それらはどこから来るのか。
彼女たちの言葉を受け取ると、後世に生まれた私たちは、なぜこんなにも励まされるのか。本の読み手となった、“今を生きる”女たちに聞いてみた。
盆栽家 山田香織×小泉清子

山田香織さん

盆栽家 山田香織×小泉清子

マイナスをプラスに転じさせる切り替え方、すごいです

「27人、お一人お一人に教えを乞う気持ちで、あっという間に読み終えました」
若き女性盆栽家・山田香織さんにとって、日本の古いしきたりや男女の格差がある時代に、敗戦を経験してなお自分で人生を切り拓いてきた大先輩たちの言葉に感じたのは、
「ご自分を縛らない、その振り幅の大きさです。みなさんの経てきた時代は、どんなにやりたいと思っても、障害がたくさんあったはず。現代に生きる私たちに比べても、夢に向かって決してまっすぐには行けなかったでしょう。そこを迂回して迂回して、なんとかしてしまう。本当に柔軟なんですよね」
このしなやかさはどこからくるのか? 山田さんは、そのヒントを小泉清子さん(鈴乃屋会長、着物デザイナー)のインタビューに見つけた。

小泉さんは、夫を戦争で亡くし、二人の子供を抱えて生きていくために、28歳で上野広小路に着物の店を開店。けれども女だから、新参者だからと、問屋は反物を売ってくれない。それならばオリジナルを作ろうと、自分で図案を描いて職人さんに直談判。毎年、大晦日やお正月には、子供を家に残し、一人大きな料亭の勝手口に立って、流行の最先端をいく芸者衆の着物を観察していたという。
「店に泥棒が入って大損害を被ったときも、やられたままでは終わりません。それならばいっそ大きな展示会を開いてやろうと奔走し、成功させてしまうんですね。まさにピンチこそチャンス。マイナスをプラスに転じる意志の強さ、逞しさをもっていらした」

一方、伝統盆栽の世界では、女性は少数派で、体力的にも不利といわれている。
「一鉢に一本の木。盆栽は男性が作り上げてきた美意識、価値観がありますから。楽しんでくださるお客様も男性が主体になってしまい、それでは広がらないなと感じていたんです。
そこで私はその領域に入ることなく、女性という立ち位置で、枝ものと草ものを寄せ植えして自然の風景をつくる “彩花盆栽” というものを提案していきたいと考えました。より若い方、女性など新しい盆栽ファンを増やしていきたいなと思ったのです」
盆栽の世界で、前例のないことを手探りで進めてきた山田さんだからこそ、小泉さんの意志の強さ、逞しさに惹かれたのだ。
「どうして小泉さんはそこまでがんばれるのか? それは本人もおっしゃっているように、目標がはっきりしているからでしょうね」

“世界に類を見ない日本の美しい四季を先人は着物に染め、愛でて、心豊かな生活を送ってきたんです。着る人も見る人も幸せな気持ちになれる。そういう日本の精神をもっと多くの人に知って、味わってもらいたい”――

「着物と盆栽は、“自然” に近いものという点でも共通しています。それを広めるのはやりがいのある仕事なのよと教えてくださっているような気がして、とても勇気づけられました。
小泉さんはきっと、人生の幕が下りるその直前まで “全うしたい夢” を持っていらっしゃると思うんです。そのあふれるような意欲、逞しさに惚れますね。私もそうありたいなって」

決してへこたれないの。生きていればもちろん、 いろんなことがあるわ。今だって、 いつもどこかで暴風が起きていますよ、 眠れない夜なんてしょっちゅうある― 小泉清子

自分の直面している課題がとても小さく感じられて

「この本に出てくる大先輩のみなさんは、共通してポジティブで、どなたからもどこか男性的な雰囲気を感じます。それでも人間、うまくいかないことだってやっぱり多くて。今回、出会えてよかったもう一つの言葉が、作家の田辺聖子さんの、おまじないのようなこの言葉でした」

“この道、通り抜けられます”

本来は、路地の奥は行き止まりではないことを教える親切な札だが、
「田辺さんは、『世の中にはこの札が必ずかかってる。もしなかったら、自分で書いた札を木の枝に引っ掛けて、それを見て前に進んだらいい』と言うんです! 自分を信じて、『私がそう言うんだから道は開ける』と思うことが大事。
意識をポジティブにもっていって、よい状態をイメージし、努力する。底辺になったとき、まさにこうして底力を出してきたのでしょう。
先輩たちはすごいものに立ち向かっていたんだと思うと、自分の抱えている課題の一つ一つが少し小さく見えてきました。この先、憧れの先輩たちの背中を見ながら進んでいくことができるのはうれしいこと。この一冊に大きな恵みをいただきました」
■Profile
山田香織
やまだかおり
盆栽家。1978年生まれ。「清香園」5代目。「彩花盆栽」教室を設立し、精力的に国内外に広く盆栽の魅力を伝える。2017年4月27日~30日「世界盆栽大会inさいたま」に出品。

小泉清子
こいずみきよこ
1918年、東京生まれ。28歳で東京・上野広小路に『鈴乃屋』を創業。現在では全国にチェーン・ストアを展開。皇族や著名人の顧客を多く持ち、NHK大河ドラマの衣裳考証も31年間担当。

 

『おとなスタイル』Vol.6 2017冬号より
撮影/大河内禎

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