• > 糸井重里さん人気アプリ『ドコノコ』誕生秘話 [おとなスタイル]

糸井重里さん人気アプリ『ドコノコ』誕生秘話 [おとなスタイル]

2017年03月30日(木) 09時00分配信

みんながダレカノコをかわいがったり 心配する気持ちになれば、 不幸になる犬や猫は少なくなるかも。

13年前の夏、愛犬ブイヨンとの日々が始まった糸井重里さん。生まれたばかりの仔犬に会った瞬間、夫婦二人とも直感的に惹かれたそう。「犬を不幸にしない生活をしなければならない」と、何度も重ねた家族会議の末、糸井家の一員となったブイヨン。

ブイヨンとの生活が始まると、糸井さんに少しずつ変化が起こった。そのひとつが、よく写真を撮るようになったことだ。2006年から、自身が主宰するウェブサイト『ほぼ日刊イトイ新聞』(通称『ほぼ日』)で写真日記の連載企画が始まると、その行動にさらなる拍車がかかった。

ブイヨンから生き物すべてが、愛おしく思えるようになった。

毎日毎日、写真日記に自分や樋口さんが撮ったブイヨンの写真を公開し続けた糸井さん。
これには樋口さんも“夫婦二人だけだったら、この年齢になってこれだけ継続して毎日写真を撮ることは、絶対にない”といっている。

元気にボールで遊ぶブイヨン。お母さん(樋口さん)と散歩中のブイヨン。仕事をするお父さん(糸井さん)の傍で、あくびをするブイヨン。ソファの上で、親子で相似形になって寝る姿。毎日発信される糸井家の日常のほっこりするひとコマは大反響を呼び、フォトブックにもまとめられた。

「ふと気がつくと、犬を飼っているというよりは、僕と妻とブイヨンで“3人の家族”という感じになっていたんですね」

もうひとつ、気持ちの変化も大きかった。

「ブイヨンと暮らして、ブイヨンをかわいいと思っているうちに、だんだんよそのうちの犬や猫までかわいいと思うようになってきて。さらに他の動物、生き物についても、なんだか気になって、とても大事なものだな、愛おしいなと思うようになったんです」

そして、糸井さんが犬や猫を好きだということが世間でも広く知れ渡るようになると、こんなことも。

「ツイッターに“ここでこういう犬が迷子になったので探してほしい、という内容をリツイートしてください”というお願いが次々と来るようになったんです。最初は自分で一覧表を作って、その後どうなったのか、情報管理をしていたのですが、ものすごく大変で。それに、九州の犬のことを京都の人が心配しても、ある意味、仕方がないし。解決できないものかと考え始めました」

犬や猫を好きになるとご機嫌なことはとてもたくさん増える。でも、その裏にむずかしい問題があることも見えてくるようになったという。糸井さんは東日本大震災をきっかけに、動物愛護団体『ランコントレ・ミグノン』※1を知り、保護活動や譲渡会※2の応援をするようになって、そのことを痛感した。

ブイヨンと暮らすことから広がった出会いや想いを積み重ねてきた糸井さん。2016年6月、“犬や猫と人が親しくなるためのスマホ用アプリ”『ドコノコ』をスタートさせた。『ドコノコ』は、犬や猫の写真を通して、犬や猫と暮らしている人はもちろん、そうでない人も楽しむことができる今までにないアプリだ。糸井さんの念願だった、迷子の犬猫さがしの協力を呼びかける機能も備えている。

自分ちのコだけじゃない、ヨソノコもかわいい、気持ち。

「自分の犬や猫の写真をまとめて一度に見られるアルバムのようなツールが作れないかな、と思ったのが最初でした。たとえば、犬猫を飼っている人同士で写真を見せ合おうとするとき、スマホの大量の写真の中から1枚を探し出すのにちょっとした時間がかかる。ファイリングしておけばそういう手間はなくなります。さらに、その犬猫を住所登録して、迷子になったときに近くにいる人が捜せるような仕組みができたらいいなと思ったんです」

ただし、住所登録といっても、自分の住所は公開したくないという人もたくさんいる。
そこで『ドコノコ』が採用したのが『防災情報全国避難所ガイド』。そのアプリから提供されたデータで自分の近くにある避難所を検索し、犬や猫の居場所として登録する。すぐ近くの避難所でも、少し離れた場所でも可能。
そのほどよいアバウトさも『ドコノコ』の魅力だ。かくして、6月のダウンロード開始から、10月でダウンロードが10万を超えた『ドコノコ』。なかでもおもしろいのは、投稿した全員の写真が次々アップされる“ひろば”という画面。そこには、よそ行きの顔じゃない普段のウチノコの姿が、犬も猫もごちゃまぜになって並んでいる。

「正直、“ひろば”がこれほど魅力的だとは、最初は思っていませんでした。人んちの犬猫を見ておもしろいの? と聞かれることもありますが、人んちのコ、最高ですよ。少し格好つけたいい方をすると、そこに写っているのは犬や猫ではなく、“愛”なんですね。猫がこっちを向いている瞬間に猫とカメラとの間にあった、そのコと飼い主のやさしい生活や想いが見えるんです。いろんなヨソノコの写真が上がるこの“ひろば”にはそんな小さな愛情が溢れているんですよ。それが楽しい。

しかも、いい写真だな、かわいいなと思って毎日のように同じコを見ていると、ウチノコのような親しみが湧いてくる。これってとても大事なことだと思うんです。みんながダレカノコをかわいがったり心配する気持ちになれば、不幸になる犬や猫を少なくすることにもつながるだろうし」
※1 ランコントレ・ミグノン
動物と新しい家族に出会いの場を提供するために譲渡会を開催したり、さまざまなイベントを企画。多くの動物を保護するためのボランティアとの出会いの場も提供している。

※2 譲渡会
保護された犬や猫と新しい家族が一緒に過ごしながら相性を判断したりする、お見合いのような場所。最近は、飼うときはペットショップではなく譲渡会でと考える人も徐々に増加。

 

■Profile
糸井重里さん
いといしげさと
1948年生まれ。
群馬県出身。コピーライター、エッセイスト、作詞家など多彩な分野で活躍。’98年に開設したウェブサイト『ほぼ日刊イトイ新聞』は、インタビューやコラム、手帳などの商品も人気。著書に『ボールのようなことば』、『ブイヨンの気持ち。』などがある。

 
(撮影/山崎智世)

【関連記事】

NEWS&TOPICS一覧に戻る

ミモレ
FRaU DWbDG
  • FRaU DWbDG
  • 成熟に向かう大人の女性へ
  • ワーママ
  • Aiプレミアムクラブ会員募集中!

このページのTOPへ戻る