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人生の楽しみは、おいしいものと……そう、おしゃべり！
友だちと、仕事仲間と、初めて会った人と、家族と、みんなでわいわい、向きあったひとりとじっくり、私たちは会話をして生きていくのです。
50代、心にゆとりのあるおとなの女だからこそ、豊かで、実りのある会話の時間を楽しまなくちゃ。
話し下手、聴き下手を返上して、みずみずしく、生き生きと、恋するように会話をしよう。人気ラジオ番組『ラジオ深夜便』の名インタビュアー、佐野剛平さんに、会話美人になる基本を教えていただきました。

眠れない深夜に、200万人の聴取者が耳を傾ける。
『ラジオ深夜便』の心地よいトークの秘密

「ラジオが好き」と言う人がいると、ちょっと見る目が変わってしまう。落ち着いた声と話し方で、政治経済、文化やアート、全国津々浦々の小さな情報までが届けられる、ラジオは知的なメディアだからです。
中でも、ＮＨＫラジオ第1の『ラジオ深夜便』は、日本のラジオ放送の“良心”と言えるような番組。
「変わった番組でねぇ。普通は放送する側としては、『どうぞ最後まで聴いてください』というじゃないですか。それを『無理をせず、いつでもおやすみください』なんて、アナウンサーがコメントしているんです」
こう話すのは佐野剛平さん。

『ラジオ深夜便』で、早朝4時から流れる『明日へのことば』というインタビューコーナーを担当するメンバーのひとりです。
元アナウンサーの佐野さんは、一度聴くと忘れられない、やさしい声の持ち主。穏やかな話し方も魅力的です。そればかりでなく、インタビューの名手でもあります。
『明日へのことば』では有名無名を問わず、さまざまなジャンルの人たちに彼は話を聴きますが、どんな人も実に気持ちよさそうに話をしている。それに佐野さんは、「そう！そこを知りたかったの」とリスナーの欲求のツボをつくのもうまい！
「聴き方、話し方のコツというのはたくさんあります。でも結局のところ、ひとつに行き着くかもしれないと思う。それは、かっこつけないこと。僕はそこに基本をおいて、インタビューしてきました」

佐野さんのこの言葉は、『ラジオ深夜便』の成り立ちに関係しているかもしれません。
深夜のラジオ放送をしていなかったＮＨＫが、実験的に昼夜連続67時間の放送を試みたのは、1989年のこと。ニュース、映画音楽、名作落語などを流したこの連続放送に対して、聴取者からお便りが殺到したそうです。そのほとんどが中高年層からのもので、“眠れぬ夜にラジオのスイッチを入れても、けたたましい若者向けの番組ばかりでした。ぜひ、これからも大人の深夜番組を続けてください”といった内容が、大変多かったのです。
こうした要望に応えるべく、1990年にスタートしたのが『ラジオ深夜便』なのです。

「つまり深夜や早朝に目が覚めてしまったり、ひとり眠れずにいる人たちが、ラジオに耳を傾け、聴いてくださるわけです。それならば、ひとりひとりのところへ届けるような気持ちで番組を作ろう、と」

言葉を伝える、話を伝えるということは、「気持ちを伝えること」と佐野さんは言います。人に気持ちを伝えるには、「自分がかっこをつけないことが大前提」とも。

「僕はどんな人が相手でも、常に敬うんです。たとえ僕より年下だったとしても、その人のやってきたことや、生き方に対して、いつも『すごいなぁ』と素直に尊敬する。そして『それ、僕は知らないんで、教えてください』と素直に聴く。そんなふうにインタビューをしています。
でもこれね、ラジオの放送に限ったことではないんですよ。いつものみなさんの日常会話でも同じ。相手を敬って話をすれば、会話のランクが上がります。会話って、気持ちを伝えること、気持ちを受け取ること。うまく会話ができるようになると、人生は何倍も楽しくなるんです」

 

ラジオ深夜便
NHKラジオ第1にて
毎日23:15～5:00、祝日23:10～５:00（NHK‐FM毎日1:00～5:00）生放送。
アンカーはNHK 現役・OBアナウンサー。静かで優しいトーク、さまざまな時代・ジャンルの曲、インタビューなどを流す、隠れた人気番組。

 

■Profile
佐野剛平
さの ごうへい
新潟県栃尾生まれ。1965年学習院大学経済学部卒業。元NHKアナウンサー、エグゼクティブプロデューサー。現在は『ラジオ深夜便』のディレクターで、『列島インタビュー（1:00台）』、『明日へのことば』（４:00台）の担当メンバーのひとり。取材交渉からインタビュー、構成、編集までを手がける。学習院生涯学習センターで長年続けている『話し方セミナー』も人気。

 

『おとなスタイル』Vol.5 2016秋号より
（撮影／大河内禎）