• > 昔暴力をふるっていた父の面倒を見ることへの葛藤 [mi-mollet]

昔暴力をふるっていた父の面倒を見ることへの葛藤 [mi-mollet]

2017年01月23日(月) 17時00分配信

Saya姉さんからの質問

Q.昔暴力をふるっていた父の面倒を見たくない

78歳になる父親が認知症を発症。時を同じくして母はがんであることが判明。父を見ることができなくなったため、介護施設に入れました。きょうだいには妹が一人いますが、私も妹も結婚して遠方に住んでいるため、やむを得ない措置です。また私は子どもがまだ大学生のため仕事をやめることはできず、地元にもほとんど帰省できていません。……と言うものの、本音は、昔家族に暴力をふるっていた父にどこかわだかまりがあり、あまり世話をしたくないのです。私たちが大人になるにつれ暴力は減りましたが、認知症を発症してからはまた手をあげるようになっていました。母の看病は心からしたいと思えるのですが、正直父には、面倒だけ見てもらおうなんて都合が良すぎる……という思いがぬぐえません。さすがにまったく放り出すつもりはありませんが、物理的にはどのように対応し、精神的にはどのように心の整理をつけたらいいのか、ご指南いただけますと嬉しいです。

 

特別ゲスト 金子稚子さんの回答

A.親子関係は死で終わりではありません。
死の先も続くものですから、
今は“今の気持ち”を大切にしてください

苦しいお気持ち、お察しいたします……。しかし、まずは物理的な対応です。今お父様が入られているのが看取りまでおこなってくれる施設ならば、そのままで良いと思いますよ。経済的に大丈夫ならば、ですが……。ここで意識してもらいたいのは、「親の介護費は親のお金から出す」を基本にしてください、ということです。お母様のがんの治療費もありますし、そうしないとSaya姉さん家族の家計が破綻してしまいます。ただ相続の問題もありますから、そのあたりは後々問題にならないよう、妹さんとよくコミュニケーションをとってクリアにしておくことが大事です。

また「仕事をやめることができず〜」と書かれていましたが、辞める必要はまったくありません。それによってSaya姉さん家族の収入が減ってしまいますし、また辞めて看病に専念すれば家も不在にしがちになるので、夫婦仲にも影響が出る可能性があります。親の介護で子供の家庭がおかしくなる、というのは、私は違うと思うのですよ。お金で解決できるならそのほうが良いと思いますので、むしろ仕事は辞めず、もっと稼ぐことを意識されてもいいと思いますよ。

お母様の看病はされたいとのことですが、気をつけてほしいのは、安易に自分の近くに呼び寄せようとしないことです。ご年配の方にとって環境が変わるのは想像以上に負担がかかりますから、慣れ親しんだ土地で暮らせる可能性を探してほしいと思うのです。介護保険を利用してそれまでの家で暮らすことを前提に、もしお母様が入院しているのが大きい病院ならおそらく相談室があると思いますので、そこで「娘の私は遠方に住んでいるのですが……」と相談されるのも良いでしょう。病院の相談室がなければ、お母様が住む地域の「地域支援包括センター」に相談してみてください。

もし治療を終えられて今はご自宅に戻ってらっしゃるのであれば、介護保険の利用ももちろんですが、社会福祉協議会に「日常生活自立支援事業」というものがありますから、そういった制度を利用されてもいいかもしれません。また地域の民民生委員に相談されるのも良いかもしれません。多少お金がかかる場合もありますが、がんは今やかなり制度が整っているし社会の理解も進んでいますので、お母様のご希望を伺いながらの対応を取れることも多いはずです。とにかく“お母様のご希望”、ここがもっとも大切であることを忘れないでくださいね。
さてお父様に対する精神的な対応ですが、私は、Saya姉さんの「世話をしたくない」という気持ちも大切にしてほしいと思います。

ここで、私があるお坊さんから聞いたお話をいたしますね。夫のDVに耐えた末、やっとの思いで離婚をした、という女性がいたそうです。ところがその夫が病気になり、余命幾ばくもないとなったとき、妻だった女性に「謝りたい」と人づてに連絡してきたのです。が、奥さんは「顔も見たくない。謝りたいなら、二度と連絡してこないで」と拒否したそうです。このように、積もった感情というのは死でチャラになる問題ではありません。お父様が高齢で認知症だからと、無理にわだかまりを押さえ込む必要はないと思いますよ。

一方である女性は、幼い頃に両親が離婚をしていたのですが、ずっと音信不通だった父親が晩年になって突然現れたそうです。彼女は父親の面倒などまったく見たくなかったのですが、福祉の専門家だったので、渋々ながら、赤の他人として割り切って看取りまでおこないました。ですが、「亡くなってからのほうが父親を身近に感じる」と言っているのです。

このように様々な方のお話を聞いていると、つくづく人間関係というのは、死で終わりではないのだな、と感じます。死の先も続いているのだ、と。ですから、亡くなった後に関係を結び直しても良いと思うのです。毎日仏壇に文句を言ったっていい。死別後はもっともっと長いものですから、Saya姉さんも今は“今の気持ち”を大事にしてほしいと思います。そして今後もし「もういいかな」と思えるようになったら、その変化も素直に受け入れてください。後悔が残ったとしても、死後にお父様に向き合えばいいのです。今焦る必要はまったくないと思いますよ。

 
【PROFILE】

金子稚子(かねこわかこ)

1967年生まれ。終活ジャーナリスト。終活ナビゲーター。一般社団法人日本医療コーディネーター協会顧問。雑誌、書籍の編集者、広告制作ディレクターの経験を生かし、死の前後に関わるあらゆる情報提供やサポートをおこなう「ライフ・ターミナル・ネットワーク」という活動を創設、代表を務めている。また、医療関係や宗教関係、葬儀関係、生命保険などの各種団体・企業や一般向けにも研修や講演活動もおこなっている。2012年に他界した流通ジャーナリストの金子哲雄氏の妻であり、著書に『金子哲雄の妻の生き方~夫を看取った500日』(小学館文庫)『死後のプロデュース』(PHP新書)『アクティブ・エンディング 大人の「終活」新作法』(河出書房新社)など。編集・執筆協力に『大人のおしゃれ手帖特別編集 親の看取り』(宝島社)がある。

【関連記事】

NEWS&TOPICS一覧に戻る

ミモレ
FRaU DWbDG
  • FRaU DWbDG
  • 成熟に向かう大人の女性へ
  • ワーママ
  • Aiプレミアムクラブ会員募集中!

このページのTOPへ戻る