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琉球料理の名店、その「おもてなし」とは [おとなスタイル]

2016年11月15日(火) 09時00分配信

山本彩香さん

「私はトンボとチェ・ゲバラが好きなんです。前進し続け、決して屈しない。かっこいいよねえ」と話す山本彩香さん。77歳で、惜しまれつつも閉店をした「琉球料理乃山本彩香」オーナー。様々なジャンルのプロフェショナルたちを魅了させた、琉球料理のおもてなし、とは。
料理と言葉は残さなければいけない

国際交流基金の派遣事業でヨーロッパを

料理と言葉は残さなければいけない

ミヌダルはどなたにも喜ばれるお料理です。琉球料理でお祝いのときに出される前菜のひとつで、黒ごまをたっぷりのせた豚肉の蒸し物。蒸すことで豚の余分な脂を落とし、時間をかけてよく摺った黒ごまの良質な栄養分をプラスする。おいしいだけでなく、からだにいいことを大前提とする、琉球料理の特長をよくあらわす一品です。

ミヌダルは一般的に、豚肉を両側から黒ごまではさんで蒸します。そうすると、肉が薄くてもリッチに見えるんですね。でも、その作り方だと、下の黒ごまがこぼれやすくて、みっともない。崎間カマトが辻で出していたミヌダルは、厚い豚肉を使って、上側だけに黒ごまをたっぷり載せて蒸す作り方。私はこれを、さらにおいしい豚肉で作るなど改良して、より風味豊かな料理にしています。

 

3軒目の店「琉球料理乃山本彩香」を77歳でみなさんに惜しまれつつ閉めてからも、私は料理講習をしたり、新聞やラジオで琉球料理の素晴らしさを伝えてきました。

2011年には国際交流基金の派遣事業でヨーロッパをまわりました。持っていった450個の豆腐ようが大人気で早々になくなり、講習会を開いた先々で、教えた料理のレシピを残していってほしいと言われた。だからドイツのレストランと、ストックホルムのホテルにも、私の……というか崎間カマトのですね、ミヌダルのレシピが残っているんですよ。

(右)ロスの沖縄県人会前会長の当銘さん(写真右)と、料理人の勝也さん(写真左)

今年の3月にはロサンゼルスとサンフランシスコの沖縄県人会の方々に呼んでいただいて、料理教室をやりました。3世、4世になると日本語のわからない人も多いので、英語で通訳をしてもらって、ミヌダル、ラフテー、フーイリチーなどの作り方を教えたんです。沖縄の家庭料理としておなじみのフーイリチーは、卵と車麩の炒めものです。

「どうしても、びちゃびちゃになってしまって、上手に作れないので教えてほしい」

と県人会の方々からリクエストがありました。
もどした麩の水気をしっかり絞り、強火で水気を飛ばすように手早く炒めることで、卵も麩もふわっと、おいしくできるんですよ、と実演して見せました。

左)素材はおもに現地のものを使用。 (右)今回、ロスとサンフランシスコ在住の沖縄3世、4世の方々からの「“真の琉球料理”を知りたい」という熱いリクエストに応えて渡米した山本さん。料理の“おもてなし”を伝える

このお麩の料理もそうですが、今は炒め物をなんでも“チャンプルー”と呼んで、フーチャンプルーとか、ソーメンチャンプルーとか間違った言葉が使われています。嘆かわしいことです。麩の炒め物はフーイリチー、ソーメンの炒め物はソーミンタシヤーが正しい。

チャンプールーというのは、豆腐の入った炒め物のことです。なんでその中に、三枚肉まで入れるようなことをするのか。場合によってはポーク(缶詰のランチョンミート)まで入れているじゃないですか。

そんな混ぜこぜをすれば、素材のうまみを活かす、本来のおいしさがなくなってしまう。昔ながらの琉球料理は、ほんのわずかな塩だけで味つけしたりする、繊細で澄んだ味わいの料理なんです。

 

言葉の乱れのことに話を戻しますが、チャンプールーは“チャンプー”を伸ばして、“ルー”も伸ばして、チャンプールーと平坦に発音する。本土の人たちは“チャンプルゥ”と語尾を下げますが、それも間違い。料理と共に、古くから伝わる沖縄の言葉もしっかり残さなければいけません。料理も言葉も、人や風土の根幹にある大切なもの。若者やよその土地の人が、軽々しく変えてしまうなんて、もってのほかだと私は思うんです。

その一方で、古いものを守るだけでなく、進化し続けないと生き残れないとも思います。

私はトンボとチェ・ゲバラが好きなんです。

トンボは決して後退することをしない生き物なんだそうです。向かい風の中で止まっているように見えるのは、前進しているからなんですって。革命家のゲバラも、決して屈せず信念を貫き通した男。かっこいいよねぇ。

琉球料理も前に進まなければ。それは何にでも肉を入れたり、味つけを濃くすることではないです。たとえば私のゆし豆腐は、とろろとアーサを加えるんです。見た目にきれいだし、口触りもふわっとするし、さらに栄養がいいでしょ。

琉球料理のおもてなしは心です。

相手を喜ばせ、相手の健康を願う心。それを一生涯伝え続けることを私はこれからもしていきます。

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