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『アナ雪』が流行った理由とは? 荻上チキ×トミヤマユキコ  [FRaU]

2016年10月29日(土) 16時00分配信

左:荻上チキさん、右:トミヤマユキコさん

『白雪姫』や『シンデレラ』、『美女と野獣』に『アナと雪の女王』など、ディズニーが生み出すプリンセスはいつの世も人々を魅了してきました。しかし、そこに描かれる女性像が、実は時代や社会状況に合わせて絶えず更新を繰り返してきたものだということはあまり知られていません。そこにはどんな変遷があったのでしょうか?
ディズニープリンセスの歴史に詳しい評論家の荻上チキさんに、少女マンガの研究者であるトミヤマユキコさんがお話をうかがいました。

プリンセスの変遷とリンクする“ディズニーコード“とは?

トミヤマユキコ(以下、トミ) 私は幼い頃から男の子っぽい性格だったせいか、プリンセス願望が希薄で、『白雪姫』や『シンデレラ』にいまひとつハマれないまま育ち、思春期にはディズニーから完全に離れてしまったんです。でも、大人になってから『メリダとおそろしの森』や『アナと雪の女王』に感動して、再びディズニーに戻ってきました。
荻上さんは著書『ディズニープリンセスと幸せの法則』(星海社新書)の中で、ディズニー作品に登場するプリンセス像を、時代ごとに「ディズニーコード1・0」「2・0」「3・0」と、3段階に分類していましたよね。

荻上チキ(以下、荻上) コードというのは、「王子様とお姫様が出会うと恋に落ちる」「魔女にかけられた呪いを、真実のキスで解く」といった“お約束“のことです。この変遷が、描かれるプリンセス像の変化と密接にリンクしている。

トミ 「これまでのプリンセスはもう古い!」「新しいプリンセスはこれだ!」って、ある意味では、過去のプリンセスを乗り越える“コードの更新“があるんですよね。私はこのことを知って、自分がなぜ『アナ雪』に感動したのかわかりました。しばらくディズニー映画から離れている間に、プリンセス像が大幅にアップデートされてたんだなって。

「美しくて従順で働き者」という保守的な女性像

トミ まず「1・0」にあたる初期作品群について振り返ってみたいのですが、ここに分類されるのが『白雪姫』『シンデレラ』『眠れる森の美女』という、誰もが知るディズニーの名作たち。

荻上 これらは「古典3部作」とも呼ばれていて、お姫様がとても素敵な王子様とめぐり合って、最終的に「末永く幸せに暮らしました」と締めくくられる構成です。

トミ まさにプリンセス願望の原型。
<ディズニーコード 1・0>

(c)2016 Disney

<ディズニーコード 1・0>

・プリンセスは美しく、従順で、働き者
・不幸な境遇から王子様が救ってくれる
・西洋のプリンセスが王子様と出会って恋に落ちる
出典:荻上チキ『ディズニープリンセスと幸せの法則』(星海社新書)より

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時代に合わせた変化と不動の異性愛至上主義

トミ 続く「ディズニーコード2・0」の皮切りとなった『リトル・マーメイド』が1989年なので、『眠れる森の美女』からちょうど30年。具体的にどんな変化があったんですか?

荻上 簡単に言えば、プリンセスたちが自分から積極的にアプローチをし、待ちの姿勢ではなく、明確な意志を持って冒険するようになりました。彼女たちにとって幸せは“つかみ取るもの“になっているというのが一番の違い。
もうひとつ、2・0の作品群は、それまでのお約束だった「西洋中心の、身分が高い者同士の恋愛」という世界観を塗り替えた。これも大きな特徴です。

トミ 確かに、人魚に野獣にアラビア世界ですもんね。設定からしてかなり変化しています。
<ディズニーコード 2・0>

(c)2016 Disney

<ディズニーコード 2・0>

・プリンセスは冒険し、自分で夢をつかもうとする
・不幸な境遇を変えるチャンスは、異性が与えてくれる
・身分の違いやハンディキャップを乗り越え恋をする
出典:荻上チキ『ディズニープリンセスと幸せの法則』(星海社新書)より

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『アナ雪』が達成した革新的なアップデート

荻上 この作品は、これまでのディズニーのプリンセス像をかなり革新的にアップデートしている。ひとつは明確に異性愛中心主義から距離を取っている点です。
「触るものを凍らせてしまう」という魔法の力が備わっている姉のエルサは、それを隠すため、世間から隔離された場所で暮らしています。妹のアナにすらその力は明かされません。ところがあるとき、ひょんなことからその力がバレてしまい、国民から化け物扱いされてしまう。さらにラストでは図らずもアナを凍らせてしまう…….。
ところが、最終的にこれを救ったのが“姉妹愛“だったというのが『アナ雪』の斬新な点でした。

トミ 旧来のディズニーコード的に言えば、呪いを解くのは「王子様のキス」と相場が決まってましたもんね。

荻上 そうなんですよ。しかも、エルサの魔法は誰かにかけられた「呪い」ではなく、先天的に備わる「特性」として描かれています。呪いであれば解く必要がありますが、特性というのは否定されるべきものではない。これはまさに多様な特性の共存を目指す現代的な価値観とマッチしている。それこそ、『アナ雪』が3・0の扉を開いた理由です。

トミ 互いの特性を受け入れることこそ「真実の愛」なのだという描き方は、本当にグッと来ました。
<ディズニーコード 3・0>

(c)2016 Disney

<ディズニーコード 3・0>

・プリンセスは恋より自由がほしい
・不幸な境遇を変えるチャンスは、同性を含む他者との対話から生まれる
・ありのままの自分を愛し、他者からの偏見を乗り越える
出典:荻上チキ『ディズニープリンセスと幸せの法則』(星海社新書)より

『アナと雪の女王』 MovieNEX発売中/デジタル配信中 発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン

※フラウ2016年11月号より一部抜粋

PROFILE

荻上チキ
1981年兵庫県生まれ。評論家。メディア論を中心に、政治・社会・文化まで幅広く論じる。著書に『僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか』(幻冬社新書)など。TBSラジオ『荻上チキ・Session-22』メインパーソナリティ。

トミヤマユキコ
1979年秋田県生まれ。研究者・ライター。早稲田大学などで少女マンガを中心とするサブカルチャー関連講義を行う。『ESSE』や『文學界』などで連載。著書に『パンケーキ・ノート おいしいパンケーキ案内100』(リトル・モア)がある。

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