でも逆に、こんな話もある。とあるサービス業では、「よろしくお願いいたします」と言った応募者は採用しない。もう新たに教えることがあんまりなくて“つまらない”からだそうである。「いらっしゃいませ。こんにちは」みたいに、あいさつが完全にマニュアル化しているようなサービス業では、むしろ何にも染まっていない人間を、独自のおもてなし論でイチから染めていくのが、信条だからという。決まったあいさつによって、規格にはまった人間がいっぱい作られていくのも何だかコワイが……。
ただ、あなたも気づいていたはずだ。みんな同じあいさつをするチェーン店では、みんな同じ人間に見えること。制服が同じだからじゃない。“ことば”が同じだと、みんな同じ人間に見えてしまうのだ。だからこそ、“します”と言うか、“いたします”と言うかで、人生まで変わってしまうということなのである。
でもここで言いたいのは、“いたします”と言える女になろうということじゃない。“ことば”しだいで、“なりたい女”にもなれるし、キレイにもなれると言いたいのだ。
松嶋菜々子に憧れている女性がいた。髪型はもちろん、ファッションもとことん真似た。本人はなりきっていたが、残念ながらその人から松嶋菜々子をイメージすることはできなかったという。ところが、ある日突然、“雰囲気”が似てくる。外見はともかく、何となくあの清潔でさわやかな空気が、彼女のまわりに漂ってきた。しゃべり方、発声の仕方が似てきたからである。声の質はだいぶ違うのだが、言葉を吐くときの呼吸の仕方がとてもよく似ていた。それだけでも、“雰囲気”は似てしまうのだ。
“雰囲気”は目に見えないくせに、女の評価をハッキリ決める。そして雰囲気を決めるのはその人の第一声。“おとなしそう”“勝ち気そう”“やさしそう”“頭が良さそう”……そういう印象のすべて、評価のすべては、“こんにちは”のたったひと言を、どう発声し、どう息を混ぜ、どう語尾をまとめるのかで決まってしまうのである。
だから“なりたい女”になるなんて簡単。なりたいタイプが“やさしそうな女”なら、メイクを変えるより、髪型を変えるより、言葉をやさしく言えばいい。語尾のひとつひとつに、やさしさを込めればいい。いわゆる敬語を使わなくても、語尾を短くハショらず、語尾に必ず何かをくっつけて、なるべく長くすればいい。“明るい感じ”を出したいなら、語尾を元気よく言えばいい。“知的な女”になりたいなら、語尾をていねいに静かに言えばいい。とても簡単。語尾だけで、女はなりたい女になれるのだから。
試しに“失礼します”を“失礼いたします”と言いかえてみよう。するとあなたは、5歳分くらい一気に成長したように見えるのである。 |

ただ言葉を長くするより、 ずっとやさしく見えるコツ
言葉を省略せずに、なるべく長めに言うようにすると、ていねいに聞こえ“やさしそうな女性”に見えると言ったが、じゃあ長くするとは、具体的にどういうことだろう。
たとえば、オフィスで外まわりのスタッフが帰ってきた時のひと言にも、長さは6種類もある。「お疲れ!」「お疲れさま」「お疲れさまです」「お疲れさまでした」「お疲れさまでございます」「お疲れさまでございました」
まあ、日常的なあいさつに最後の2つはないにしても、その前の4つの長さを巧みに使い分けた上で、それぞれをなるべく長く言うこともできることを伝えておきたい。つまり、ただブツンと「お疲れ」と言うより、「おっ疲れー」とゆっくり長く言った方が、多少ともやさしい女に見えるってこと。
ただ“本当にやさしい女”はたぶんこう言う。「お疲れさま。疲れたでしょうー?」“お疲れさま”は、誰でも言える決まり文句だけれども、さらに相手の疲れを本気でねぎらう気がある人は「疲れたでしょー?」と加える。それでこそ、いちばん良い、いちばんやさしいひと言となる。
つまり、ただただ長くするよりも、相手個人に向けてのねぎらいをつけ加えることが、言葉で美しい女性になるコツ。だからたとえば、“お帰りなさい”より“お帰りあそばせ”より“お帰り、寒かったでしょうー?”と言ってあげる。それが正しい長さなのである。
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