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2001年7月号
“カッコよく生きる”なんて不可能だ!! 誰もがきっと憧れていて、“いつか、いつか……”と思っているのが、カッコイイ生き方ってやつだろう。まず何をもってカッコイイと言うのか、亡くなったケネディ家の嫁、キャロリンみたいに、犬を散歩させる時の装いまで、憎たらしいほどカッコイイことを言うのか、ボランティアで他人のために働いたりする徳の高さをカッコイイと言うのか、それとも親に買ってもらったクルーザーで1年の半分は旅していて、そのへんのブランドものなんてハナクソみたいなもの?と思えるのがカッコイイのか、逆に、清貧の暮らしをしながら、生涯をオケラの生態の研究なんかに捧げちゃうのがカッコイイのか、そこに明確な定義はない。でもみんな、ともかくカッコよく生きたいと思うのだ。
 ぼれぼれするくらいカッコイイ生活をしている女性がいて、私は若い頃からその人の生き方が憧れだった。10代で留学し、外資系の会社でひとッ飛びでエラくなり、一度結婚に失敗し、花のバツイチになった後、結婚した相手は黒人のアーティスト。ティーンの頃からシャネルとかを着ていたので、良いものを上手に着ているが、ブランドが鼻につかない。暮らしも欧米風だが、日本家屋の街並みに突然輸入住宅をおっ建ててしまうようなことはしない、日本におけるちょうどいい欧米感をだしてオシャレにオシャレに住んでいる。この人の人生には野暮ったいことは何もない、同じ人間なのになぜ? でも、この人にはみんなが知らない“事情”があった。前夫との間にできた子供には生まれつき障害があって、離婚後は自分が引き取り、面倒をみながら働いたのである。そういう苦労を強いられながらも、立派に生きていること自体が、なおさらカッコイイと言うことはできるかもしれない。でもそれは、みんなが“いつか、いつか……”と狙っているカッコよさとは明らかに違う。違うけれど、じつは、それが生身の人間の生活なのだろう。表面上、いかにオシャレにカッコよく生きているように見えても、その人それぞれ、他人には理解しえない事情をはらんでいるのが、人の生活なのだろう。そう気づいた時私の中から“カッコよく生きること”への憧れはなくなった。そして、生活のどこを切り取っても、金太郎アメみたいに一様にカッコイイ人は、何かあまり泣かないし笑わないし、あまり怒ったり喜んだりもしないのじゃないかと気づくのだ。
 夏休みに長期滞在していた同じビーチに、近くの別荘に滞在しているカッコイイ夫婦が、ビーチタオルとワインと本だけもって毎日1、2時間だけやってきて、ほとんど会話もせずに本を読み、ワインを飲み、そして帰っていく。なんてカッコイイの?と初めはドキドキした。でも彼らはいつ大笑いし、大ゲンカし、そしてサメザメ泣くのだろうと心配になってきたりもした。家の中に小野リサのボサノバがいつも聴こえているような淡白な幸せが似合う男女は、確かにカッコイイが、その反面、ちょっとつまらなそうである。彼ら二人とも黒いサングラスにストローハットをかぶっていた。カッコよかったが、つまらなそうだった。
 たぶん、ナマナマしくて少し辛い現実を生きていて、軽やかに見えても涙のあとが目の下のクマの上に少し残っていたりする方が、人間は奥行きのある魅力を放てるのかもしれない。いや、むしろ、いろいろある生活、ドロドロした出来事、人にはいえない事情を重ねながらも、朝食にするパンのブランドひとつにこだわったり、それに塗るバターはそんじゃそこらでは売っていないものだと少しうれしいような、そんなわずかな心のゆとりをもつ人が、たぶん人から見ればカッコよく生きているように見えるのだろう。人間、その程度でいいのだ。完璧なまでにカッコイイ暮らしは、たぶんやってみるとつまらない。だから“いつか、いつか……”と思っているうちに、いつの間にか歳をとってしまう、それでいいのである。
生活感のない、ハシャがないカッコよさのウソ

 例の別荘の“カッコイイ夫婦”が、夫婦揃って黒の水着に黒のサングラスだったように、カッコよく生きている人は、なぜか黒の装いになりやすい。こびない、生活臭がない、ハシャがない……カッコよさの三原則を一度にクリアするのは、やっぱり黒しかないからだが、リゾートの黒ずくめは、やっぱり少し無理がある。どうしても、つまらなそうに見えてしまう。
 代官山あたりの新しいカフェで、ゴールデンレトリバーなどをつれて、きっかり11:30AMくらいに、型道りの正しい“ブランチ”をとっている若夫婦などが陥りがちなのもそうした”つまらなく見えてしまうカッコよさ”で、現実味や生活感をただひた隠しにしたハシャがないカッコよさは、休日の朝なのに、あまり気持ちよさそうじゃない。
 季節はずれのお話で申し訳ないが、私が見た“極めてカッコイイ生き方をしているに違いない人々”はクリスマスイブの夜、当然のことながらカップルオンリーのオシャレなレストランで、堂々の男二人と女一人の三人組。彼らはちょっとご近所風のラフな装いで、イブを祝ってた。型道りのイブはもうさんざんしてきて、気心の知れた男女混合でのオシャレな会話は、彼らが踏んできた場数の多さが忍ばれる楽しそうなカッコよさ。これには久々に“カッコイイ生き方”に憧れ直そうとしたものである。


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