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2001年1月号
玄関だけキレイな女の運命

“玄関美容”は自分のキレイに対するおまじない

 玄関がキレイな家の女性は、だいたい美人……そんなことを言う人がいた。まあ、玄関は“家の顔”であるから、そこにきっちり神経を行き届かせている家の女性は、きっと身だしなみや美容にも気をつかっているってことなのだろう。

 しかも玄関は、外出する女を送り出し、帰宅した女を迎え入れるところ。玄関にはいつも香水の香りを絶やさないという人は、家を出る自分には、“あなたは匂いたつようなイイ女なのよ”と言いきかせ、家に帰った自分には、“あなたが帰ってくる場所は、こんなにも芳しいのよ”と教える。バカバカしいと言わないで。玄関というのは、外と家とをつなぐ場所。家の中でも他の場所とはすでに違う空気が漂っている。つまりそこには、“外向けの自分”へ自分を切り換える場所なのだ。しかも帰ってきた自分を不意にとらえる玄関の香りが、不快な匂いだったら、一日の疲れがどっと出て、美容にも悪いことはわかるだろう。

 そうそう、玄関には必ず鏡を置いておくこと。これは身繕いをするためだけじゃない。自分の家の鏡にも、キレイにうつりたいと願うのが女心。それをまんまと利用して、外向きの自分の顔を作り、帰ってきた瞬間までいい緊張を保ち、キレイな顔でいるためだ。花を飾り、いい絵を貼り、玄関を美容すると女はキレイになれる。美容の風水ってとこだろうか。
以前、訪ねたことがある家は、家全体のサイズに対して、玄関が妙に大きく、そして立派だった。案の定、玄関だけで帰されたが、これはそもそも、靴を脱いで上がる日本の住まい方が玄関を必要以上に重要と考えた名残なのかもしれないし、また世界一エエカッコシイと言われる日本人の精いっぱいのエエカッコなのかもしれない。いずれにしても、ブランド大好き、車はピカピカ……みたいなことを含め、玄関だけキレイに立派にする的な見栄のはり方は、日本人の国民性として今更変えようがないものなのだろう。

 あるファッションデザイナーに、あなたの作った服はどんな人に着てほしい? とインタビュアーが質問したら、その人はこう答えた。「この服にふさわしい家に住んでる女性。住む家と着る服のバランスは大事です」って。確かにそうかもしれない。汚くて狭い家から、上等そうなドレスが出てきたら、確かにヘンだ。でもねェ……と思っていたら、そのインタビュアーが意を決したように、こう言った。「じゃあ私、玄関だけでも大きくて立派な家に住んで、先生のお洋服を着させていただきたいです」と。

 たまたまその場に居合わせた私は、少しドキドキしながらも、心の中でよくぞ言ってくれましたと拍手を送ってた。家に見合った服を見栄などはらずに着るのは、確かに服を着こなす大事なルールなのかもしれないが、作った人にオマエは着るなと言われているみたいな失望感は、ファッションの名に恥じると思ったのも事実。インタビュアーの“玄関だけキレイで立派な家”は、クラス意識だけで服を作っているデザイナーへの痛烈な皮肉だったわけである。

 ただこの“玄関だけキレイで立派な家に住む”という発想は、女としてじつはとても大事。玄関とは、誰が入ってくるかわからない人における第一印象みたいなところ。そこでエエカッコシイしないで、どこでするの? と今は言いたい。つまり、自分を知ってもらう入口でわずかも見栄をはらず、でもキレイになろう、愛されようという美容意識は、それ自体がとても危険なのである。“電車の中での化粧”はその象徴。化粧は化けて装うものだから、本来はニの奥の方でするもの。スッピンのまま会社に行って、お昼休みくらいからいきなり化粧顔になるのも、本来は間違いなのだ。外は外、家の中は家の中、そういうメリハリがなくなってしまった美容は、結局のところ女をキレイにしない。玄関から一歩出たら、いつどこでも同じキレイを保っておかないと、その人のキレイの評判は生まれない。10回会って10回ともキレイじゃないと、キレイという評価は得られない。なのに今の美容は、家と外が一緒くたで、化粧の有無も行き当たりばったり。それではキレイが積み重なっていかないのである。

 自分のために「せめて玄関だけキレイにしておくの」という人がいた。どういうことかと言えば、家の中が貧しい上に、小ギレイになっていなかったら、“自分はこの程度の女”と思っちゃう。それでそのまま家の外に出ると、“その程度”を一日引っ張って生きてしまう。でも女ならば、自分の身の丈より少しは背伸びして、ランクの高い女でいたい、だから玄関だけは、いつもチリひとつなく、生花など飾ってキレイで立派にしておきたい。女は玄関で靴をはく瞬間、“外の顔”になるというから、やっぱり女のランクを決めるのは玄関でしょ? と彼女は言うのだ。そう言えば、玄関にはいつも香水の香りを絶やさないという人もいた。ここで背すじをのばし、それなりの女になるためと彼女も言っていたっけ。玄関だけキレイな家、それは家における見栄ではなく、女のキレイに魂を吹き込み、外へ送り出す変身のおまじない。部屋が汚いなら、狭いなら、せめて玄関だけはピカピカ立派にしておきたい。そしてその玄関に見合ったオシャレをする。そのくらいの見栄は向上心のうち。女とキレイの命づなである。

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