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よしもとばなな
  • デビューからずっと小説の世界で第一線を歩き続けてきたよしもとばななさんが、今年デビュー20周年を迎えた。その節目となる年に発表したのは優しい南国の島の物語だ。
  • あまりに奥が深すぎてまだ書けないと思ってるうちに着想から5年に
  •  よしもとばななさんの最新作『まぼろしハワイ』は、タイトルの通りハワイを舞台にした小説集。なんとこれ、取材開始から完成までに約5年という、これまでのよしもとさんの作家生活の中でもとくに歳月を要したのだという。
    「ハワイをテーマにした小説を書こうと思った時に、ある程度フラダンスのことがわからないと書けないからと思って習うことにしたんです。その時は2年くらいのつもりだったのですが、始めてみたらフラの世界があまりに深すぎて、これじゃまだ書けないなって思っているうちに年月が経ってしまった。フラを習ったことで、逆に中途半端なことでは書けなくなってしまったんです」
    そうして生まれた作品は、よしもとさん曰く「ハワイの長いプロモーションビデオみたいな」一冊。収録されている3篇は、常夏の楽園らしい美しく晴れやかな景色と、訪れる人々を優しく包み込むようなハワイ独特の空気感とが丁寧に描かれている。
    「フラをやってわかったのは、あの気候とか自然、掘っても掘っても出てくる深い歴史といった、この土地の価値ともいうべきもの。ハワイって、地球の中でも“選ばれた場所”じゃないかって思うんです。私はギリシャという国がすごく好きなのですが、ギリシャは、ハワイのように誰でもが好きな場所ではないなという気がします。たとえばそれが南国であったとしても、これがタヒチや沖縄だとしても合わない人はいる。でも、ハワイを嫌いっていう人っていないでしょう?どんな人も受け入れてくれる万人に開かれた楽園、のような気がするんです」
    この作品の中に登場する人物たちは皆、愛するものを失った喪失感を埋められずにいる。そんな彼らがハワイを訪れ、この地で出会う景色に、気候に、海に、人に少しずつ癒されていく。
    「精神的にまいったときに行ってもガツンとやられることのない、優しい場所です」
  • 私の小説を読んだ人にはどこかに入って出てきた気持ちになって欲しい
  •  よしもとさんの小説もまた優しい。悲しみを抱えて行き場所を失い、さまよっている人々、何かに深く傷つけられた人々が、何気ないような小さな奇跡をきっかけに快復してゆく。それと同時に、読んでいるこちら側も、よしもとさんの描く優しい物語に、疲弊した心が癒されていくのだ。
    「私は、後味の悪いものにお金を出したくないんです。本当に優れた作品というのは、たとえ後味の悪い結末だったとしても後味の悪い読後感はない。でも、大抵はお金を払って損したと思ってしまうので、私はそういう結末にはしたくないと思っています。いつも心がけているのは、私の小説を読んだ人が、どこか自分の日常ではない場所にちょっと入って出てきたような気持ちになってほしいということ。出てきた時には、入る前と少し気分が変わっていてほしい。それがどう変わるかは、その人次第ですけれど」
    じつは『まぼろしハワイ』には、対になる作品が存在する。まだ刊行されていないその小説もまた、ハワイをテーマにしたものだ。
    「今年、デビュー20周年になりますが、当時からずっと付いてくれている担当さんって2人しかいないんです。それで、2人にそれぞれ本を書こうと決めてこれを書いたんです。もう一冊には、こちらでは書けなかったことを書き、向こうに書けないことをこちらに書いた。互いに補い合って存在している2冊です。向こうはかなりシリアスな内容の長編だから、こちらは完全に童話にしようと思って書いたんですよ」
    そちらも大いに気になるところ。この本の出版もまた待ち遠しい。
'64年、東京都生まれ。'87年に文芸誌の新人賞を受賞。デビュー作『キッチン』は、発売後すぐに話題となり人気作家に。その後も次々とベストセラー作品を発表。その作品は海外でも翻訳出版され、高く評価されている。
愛する者を失った悲しみをハワイの地が癒してくれる
この世に残されたたった一人の肉親である父親を失った、大学生のオハナ。そして、愛する夫を失ったオハナの義理の母でフラダンサーのあざみさん。同じ男を 失った悲しみを共有する義理の母娘は、失意のなか、男の好きだったハワイを訪れる。島の空気に触れ、フラに魅せられていくうち、2人は次第に癒されてゆ く。
よしもとばなな 著
幻冬舎刊 ¥1575
撮影/谷口晴紀 取材・文/望月リサ