目の前にある形にならないものを書いていたら小説になっていた
劇団ひとりさんが手がけた初めての小説となる『陰日向に咲く』は、発売直後から新聞や雑誌の書評欄を賑わせた。辛口で知られる書評家や山田詠美さんなどベテラン作家たちからも一様に高評価を受け、世間が゛思わぬところに隠れていた才能の出現″に盛り上がるなか、その当人はといえば、意外にも淡々としたもの。
「まさか、こんなに皆さんに読んでいただける本になるとは。自分でも正直驚いています。じつは当初は小説を書くつもりなんてまったくなく、企画本っぽいものを作ろうと考えていたんです。そこでネタとして書いていたものが、角度を変えて見てみたら小説になっていた、という感じなんですよね。もしその段階でいいフォーマットが思いついていたとしたら、間違いなく企画本を出していたはず。そう考えると、不思議な巡り合わせで生まれた作品ですよね。本来ならば、最初からゴールを決めて、そこに向かって書き進めていくというのが理想だとは思うんです。でも僕の場合、ネタ作りもそうなんですけれど、゛こういうものを作りたい″っていって構築していくのが苦手。いつも目の前にあるのは、すごくふんわりとしたもので、その漠然とした形をゴールも見えないままにパソコンのキーボードで打ち始めるんです。で、徐々にゴールらしきものが見えてきたときになって、そこに自分が予想もしていなかったような着地点が待ち受けていることに気がつく。これも、そんなふうにして自然と小説の形になった作品なんですよね」
完璧な人間なんていないと思う。ダメな部分があるからおもしろい
単なる偶然の産物か、はたまた天才のなせる技か。とにかくそうしてでき上がった小説は、どうにも情けない落ちこぼれたちの姿を描いた5つの短編連作集。登場人物たちの哀しいまでのダメっぷりと、それでも腐らずめげず、真っ直ぐに生きようとする純粋さには、笑ってしまいながらも思わず心を掴まれる瞬間がある。
「何の脈絡もなしに、突然、頭の中にいろんなセリフが浮かんでくることがあるんです。それが、すごくおもしろかったり語呂がよかったりするセリフだと、どういうキャラクターがそのセリフをしゃべったら、そのおもしろさが生きてくるのかって考える。そんなふうにしてでき上がっていったのが、この登場人物たち。かっこよくて非の打ち所のないようなキャラクターを書いて、おもしろいものができるなら、多分、そうしたんだと思うんです。でも、何でもできる完璧な人間なんて見たこともないし、そんな奴だったら、物語の成立しようもないですよね。情けなかったり悩んだり、ダメな部分があるから人っておもしろいんじゃないのかな」
彼のひとりコントに登場するクセのあるキャラクターたちも同様。人を描く視点やセリフからは、劇団ひとりさんの落ちこぼれキャラたちへの深い愛情がのぞく。
「本もネタもそうですけれど、いいキャラクターに対しては自然と愛情が湧いてくるものなんですよね。この小説は連作という形で、登場人物たちがどこかで繋がるようになっていますけれど、もともとはそんなつもりなかったんです。でも、書いていくうちにキャラクターたちに愛着が湧いてきて、一作書いたところで終わりにするのが、淋しくなってしまった。1本目に書いたのがアイドルオタクなんですけれど、次を書きながら、どこかでもう一度あいつに出てきてほしいと思い、再び登場させました。そうしたら、すべての作品を繋げたくなってきて。いろんな場面に伏線を張ったりする作業は、まるでパズルを作るみたいで楽しかったな」
大の映画好きとしても知られ、映画に関する番組も持っている彼。この小説の映画化のオファーが殺到しているそうですが?
「映画化は興味ありますね。ただ、映像になるなんてもちろん予想せずに書いたので、うまく話がつながるのか気になりますが。次を書くときは、最初から映像化を念頭に入れます(笑)。しかも、僕が監督になったりして……あ、それすごくいいかも(笑)。」
もしやこのまま映画監督デビュー!? この人の才能は、まだ止まるところを知らない。 |