藤原美智子「教養としてのメイク」
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スタイル世代の頃は「常にいっぱいいっぱいの、混沌期だった」という。
そこを抜け出たからこそ口にできる藤原さんのアドバイスには、
人生をよりラクに、より楽しむエッセンスが濃縮されている。
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  「LA DONNA」主宰。言わずと知れたメイク界のトップランナー。雑誌や広告のヘア&メイクを多く手掛ける他、執筆や講演への出演も多数。化粧品アドバイザー、ヘアケア&スタイリング剤のプロデュース等、ビューティコーディネーターとしても才能を発揮している。

 昔は、それなりに夢もあったけど、最近では今の平凡な毎日に飲み込まれ、すっかり落ち着いてしまった感じ。普通に仕事して普通にデートして。それはそれで楽しいんだけど、なんとなく不完全燃焼。このまま30歳を迎えて、ホントにいい? いくら考えても、なかなか答えが見つからなくて……。 「本当は、人に見せるものじゃないけど」と照れつつ、スクラップブックを公開してくれた藤原さん。
「毎年、お正月に”今年はどうしようかな”と思いながらスクラップブックを作るのね。そうすると、今、自分が興味を持っていること、惹かれているものが自然とここに集まる。そこから一年の指針を決めることが多いんです。ずっと続けてきたことなんだけど、土台ができたのは’93年。’06年まであるけど、’93年以降は、少しずつ変えていくくらいなのね。事務所を作ってからは、基本的なことはあまり変わらなくて、根本的に好きなものが、ここに集結している感じ」雑誌を中心に、ていねいに切り抜かれたビジュアル写真。ときにコラージュまで施されたスクラップには“生活を楽しむ”“無駄のない肉体”などのキーワードが、要所要所に書き込まれている。

 「とりあえず好きな写真を集めて、眺めていると自然にキャッチが浮かんでくるの。そのキャッチをメモ程度に書き留めているのね。スクラップは、ある意味、今、求めていることを“あぶり出す”作業。たとえば、“無駄のない肉体”って書いたときは、気持ちにも体にも無駄のない人になりたかったんだと思う。“生活を楽しむ”と書いたときは、混沌としていた頃で、とにかくゆとりが欲しかった。スクラップブックからは、そのときどんな状況なのか、本当はなにをしたいのか、自分が求めているものがよくわかるんです」 求めていることがあぶり出されるから、進むべき道が見えてくる。あとは、その方向に向かって動くのみ。なんと、「昔、素敵だな! と思ってここに入れたジュエリー、今、持っているのよ」と藤原さん。スクラップは、浮かんだ夢を形にする方法でもあるのかもしれない。

  内面をあぶり出すスクラップ。
色に興味が出た頃は「黒ではない女」。 「迫力のお洒落vs.可愛い女」の言葉は、 どちらの女性像も欲しかった頃。

 「私も『なんで習い事が続かないんだろう』ってコンプレックスを持っていた時期があったの。子供の頃は日本舞踊に華道、ピアノ、そろばんetc.。大人になってからはお茶、日本画、フランスの家庭料理、ラテンダンス、クラシックバレエにヨガ、陶芸……。もっともっとある(笑)。でもね、あるとき吹っ切れたの。やりたいと思ってやらないよりは、たとえ短い期間でもやったほうがいい。その世界をちょっとでも知ることができるのだから、それでいいやって。たとえば人の痛みも、味わったことがない人にはわからない、だけど少しでも味わった人にはわかるでしょう。それってすごく大事なこと」

 習うことは、感情を味わうこと。体験は、自分を深めることであり、“いろんな人の感情を深くわかることでもある”と藤原さんは言う。とはいえ、仕事もあるし、遊びにも行きたいし、続ける自信もなくって、つい先延ばしにしてしまう。
「でもね、行動に出ないなら、本当に習いたいと思っていないのよ。本気であれば、必ず、向こうからきっかけが近づいてくる。頭で考えているだけでは、流れは来ない。人生経験上、これは、絶対にそう! 私も、まだまだやりたいと思いながらやってないことがたくさんあるの。だけど、それはやらないでいいことと納得しています」

 藤原さん自身も、たとえば日本画を習いたいと思った途端、家の近くに教室を発見。偶然、友達にも誘われ、すぐに通いだした。
「ここで得たものは、すごく大きかった。テーブルを囲んで座り、ひとつの題材をデッサンするんだけど、たとえば同じ花なのに、描かれる花が全然違うのね。それはもう、呆れるほどに! 人によって、花の見え方がこんなに違うんだなって痛感したの。結局は自分の見方、受け取り方次第。現実って、ひとつのような気がするでしょう? だけど、真実は一緒でも現実は変わる。すべては自分次第。考えてみたら私も、26〜32歳頃までの心が混沌としていた時期は、和のお稽古に心酔してた。きっと“静”の世界にゆとりを求めていたからだと思う。そこから抜け出してから、エネルギーを放出する“動”の世界に惹かれるようになったの」
習い事は心が呼ぶ。始めるも続けるも、その“時機”がある。

左・日本画教室では「見るモノの受け取り方は、自分次第」を学んだ。 中央・お茶は裏千家。「研ぎ澄まされた、いっさい無駄のない動作ほど美しいという“シンプルな中の極み”を学びました」26〜27歳の頃には「ヘアメイクの仕事が向いていない気がして。一から十まですべて自分の手で完成させる陶芸家になりたいと思ったことも」。 右・念願のクラシックバレエは、身体が柔軟になり、気持ちも楽になった頃に。スペインロケで本場の踊りに感動し、帰国後すぐに入門したフラメンコは「“血”で踊る、感情を自由に発散するものと実感」。

 「その見つけ方は、すごくシンプルなこと。“好き”を表現すればいいの。これいいかも、これ好きかもと思うことを全部やればいい。やっぱり人は、自分の中に要素があるものを好きになる。まったく要素のないものは、好きにならないのね。もちろん、これは独断と偏見なんだけど、でも、自分の体験上、それがわかったんです。好きは、絶対に自分の中にあって、それをただ、形にすればいいだけのこと。ね、すごくシンプルでしょう?」

 実際、藤原さんは、好きを表現してきた結果が、現在につながっている。学生時代に入っていた部活は、美術部に写真部。今の仕事にも、そして大人になってからの習い事とも、密かに連動しているのだ。そこまで明確じゃなくてもいい。海外のセレブが好きならば、語学をちょっと学んでみればいい。視線をちょっとずらしてみれば、世界はグッと開けてくるはず。
「多くの可能性をもったスタイル世代は、いろんなことに挑戦するべき時期だと思う」と藤原さんも続ける。 「もしかしたら“やりたいことが見つからない”という、今の自分を否定しているのかもしれないけど、今の自分とまったく違うところに、やりたいことはないと思う。近くにないだけで、自分のすごく延長線上にあるのかもしれない。だから、その道をずーっとまっすぐ歩いていけば、その先にきっと見つかるんだと思うのね。たとえ、見つけたあとで違ったな、と思ったとしても、途中で無理だとやめてしまっても、進むべき方向さえ間違っていなければ、またきっと、次が見えてくるはず」仮に“好き”という気持ちすら見つからないなら「日記をつけて、自分の気持ちを確認してみることから始めてみては?」。

 「もう30歳だからなんて、そんなの絶対にナンセンス。日本人は、とくに年齢で区切ろうとするでしょう? 年齢だけじゃなく、社長だからとか、肩書でも区切ろうとする。そういう私も、35歳くらいの頃は、事務所の人たちに対して大人にならなくてはと思ってた。でも、やっぱり無理してたと思うし、自分と違う自分を装っていたから、精神的にも体にもそのひずみが出てしまったの」30歳前後、藤原さんに訪れた混沌期。その状況を察知し、友達がくれた本を読んでからナチュラルになれたという。

 「自分ではまったく手にしなかったジャンルだったけど、そのときは“あ、読んでみよう”と思ったの。そうしたら、たとえば“強欲と一枚になってしまうこと、怒りと一枚になってしまうこと、性欲と一枚になってしまうこと、それが根だ”とか、一瞬、なんだかよくわからないわけ(笑)。考えてみたら、強欲は悪い、怒りは悪いって言うのは簡単、だけど、そこに自分を照らし合わせてみれば、いろんなことが見えてくるっていうことかな?って。この人は、どうとでも取れることをいっぱい言ってるのね。ほとんど詩みたいな感じなんだけど、要は自分で考えなさいってことで、そのきっかけを与えてくれているだけ。本に意味をつけるのは“自分”なのよ。今はわからない意味も、経験を積んだ後ならわかるかもしれない。結局、年齢のような数字で区切らなくても、何かが熟してくるとポンと出てくるはず。ベット・ミドラーの『ザ・ローズ』に“今は辛くてもいつか絶対に春がくる”っていう歌詞があって、私は大好きなのね。いつ聞いても心に響く。それは絶対に真理だと思う。春はそのうちやってくる、と思ったら楽になるじゃない?」

『存在の詩』(めるくまーる社)には、心の琴線に触れたフレーズにマーキングが。CDは「落ちこんだときに聴くと元気が出る」ベット・ミドラーの『ローズオリジナルサウンドトラック』  

 藤原さんのスタイリッシュさは、業界内でも随一。たとえば、この日のファッションは、ダイアン フォン ファステンバーグのワンピースに、NYで購入したミュウミュウの靴。そこに合わせたのは、アフリカで見つけたビーズのネックレス。モダンとエスニック、テイストや素材感の異なるデザインを組み合わせているのに、全身が見事にバランスよくまとまっているのは、それぞれのデザインに含まれている色を、微妙に合わせているから。さすがは、お洒落上級者! そんな藤原さんは、センス磨きは「訓練次第」と言う。

 「センスを磨くには、いろんなことをボーッと、無意識に見ているだけではダメ。一生懸命、ひとつのものを見る。そして、“なんで?”って考えるクセをつけて、楽しみながら探求すること。私は、いろんな色の見分けを意識的にしているけれど、それは、日々、色に接するメイクアップアーティストという仕事で自然と訓練されたから。仕事でなくても、まず、日常のちょっとしたことから始めればいいんです。たとえば、サラダにしても、ただ美味しそうだなと食べるのではなく、なぜ、美味しそうに見えるのか、焦点をずらしてみるのね。そうすると、まず青(緑)、赤、黄色の三原色が入っているからだってことがわかる。さらに、赤が多すぎても美味しそうに見えないなとか、黄色が少し入っているからいいのね、とか、緑も全部同じ色じゃなくて微妙なグラデーションがあるな、とか、いろいろなことが見えてくるでしょう?」  センスを磨くタネは、どこにでもあるってこと!

 「とことん落ちる! ガーンと一気に落ち込んで、その状況に浸るのよ。そうしたらもう、あとは浮かぶしかないってわかる。ま、いっかなって思えるの。私も、しょっちゅう困難なことにぶち当たる。もう、しょっちゅうよ! だけど、イヤだイヤだと思いながらその状況に浸りきると、イヤって思うことがイヤになる(笑)。とことんまで落ちると、あとは自然に浮かぶのよ。実はね、最大限に落ち込んだとき、海の中に入っていく夢を見たの。水中なのに、なぜか階段があって、そこをどんどん降りていくんだけど、海底にたどり着いた途端『ってことは、あとはもう上がるしかないんだ!』って希望が湧いてきたの。その夢を見てから、人生観が変わったんです。海底に着けば希望が湧く。なら、早く海底に着くようにすれば、抜け出すのも早くなるってことじゃない? だったら即、とことんまで落ちたほうがいいでしょう(笑)」

 大人になると、落ち込んでいる自分から目を逸らしがち。遊びまくって発散したり、無理して元気に見せようとしたり。その反動で、深みにはまってしまったり……。まさにダイエットと同じ。無理をするとリバウンドを繰り返し、逆に落ち込みを増加させる可能性さえある。

 「ガーンと落ちてしまったほうが、ずっとラク。ごまかすより、ずっとラクチンなの。もちろん、人によってそう思えるまでの時間に違いはある。私も、昔は落ち込みから上がるまでに3年くらいかかったけど、だんだん3ヵ月になり、3週間、3分、3秒(笑)と、どんどんスピードアップしてきた。経験を積むと打撃に強くなる。学習するのよ。それが、年を重ねることの良さ。だから、今のうちに、いろんな経験を積んでほしいと思います」

 
このページは、スタイル本誌4月号に掲載されています。
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