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エロティックということ Backnumber
エロティックゾーンは、女の耳の後ろにあった!!
 「女のどこに、エロティシズムを感じる?」
 男たちにそう聞くと、ほとんどの男がなぜか“髪まわり”をあげる。「うなじのあたり」とか、「髪を触る仕草」とか、「髪を後ろでまとめている姿に」といった具合……。
 しかもそこにはさらに、不思議な共通点がある。髪そのものではなく、いずれも耳の後ろ、首のつけ根あたりに答えが集中していたのである。ひょっとしてそこには、女のエロティックホールでも存在しているということか? でないとここまでの合致をどうにも説明できない。ともかくほぼ全員が、そのゾーンに心奪われエロスを感じて、性的に揺さぶられたと証言しているのである。
 じゃあ逆に、女は男のどこにエロティシズムを感じるのか。「肩の厚みに」という人あり、「少し猫背になった肩の丸みに」という人あり。やっぱり似たような場所である。また変化球ながら多くの女が口を揃えるのが、他でもない車の運転中、バックする時の男の仕草。上半身をねじって片手でハンドルを回すアレ……考えてみればそれもまた肩のあたりが舞台になっている。一体なぜ?
 たぶん女の耳の後ろには、明らかなスキが存在するからなのだろう。だから男は斜め後ろから女を抱きすくめたい衝動にかられるのだ。またその瞬間、男は女に最大級の愛を感じるというから、ここは女も知らない女の入り口。その角度もまた女がいちばん “女”に見えるアングルなのだろう。
 一方の男の肩先は何を意味するか? 女は本能的に男の斜め後ろからその男について行きたいと思う生きもの。だからその時必然的に女の目に入るのは男の肩。ちょっと生きていくのに疲れたら、その肩に頭をのせて少し休みたいとも思うのだ。だからそこは女にとっても“男”そのもの。
 たぶん女と男は、正面から体を寄せ合う時は扇情的になるばかりだが、お互い斜め後ろから体を近づける時は、愛情と情欲の両方を感じ入ることができるのだろう。それがセクシーより重厚なエロティックの定義なのだ。エロスとはギリシャ神話の“愛の神”。単なる性的引力ではなく、そこには愛が必ず介在する。だから35歳からはセクシーであるより、エロティックであるべきなのである。
“貞淑”こそエロティシズムの母である
 これぞ大人の女が目指すべき“エロティック”と確信した映画の中の女がいる。‘60年代のフランス映画『昼顔』の、カトリーヌ・ドヌーブ扮するヒロインだ。夫は外科医、何不自由ない暮らし、貞淑を絵に描いたような幸せな人妻……。しかし何不自由ないからこそ心に小さな不幸を感じて、夫のいない昼間だけ娼館に通い、体を売る。そして普通ならそれで身を持ちくずしていくところ、その人妻はわずかも貞淑さを失わない。夫とは正反対の、醜く粗暴な客に身も心もおぼれながら、尚も透き通ったまま、端正なままなのだ。心はひどく淫らなのに、見た目はどこまでも清楚で汚れがない。その激しいコントラストに、エロティックの正体を見たのである。
 そもそもなぜ人妻は人妻というだけでエロティックなのか。基本的に“他人のもの”で、いくら欲しくても触れられないもどかしさ、その心理こそが多分に文学的な意味を含むエロティシズムの定義だからで、その人妻が清潔であればあるほど、美しければ美しいほど、エロティシズムは増えていく仕組み。というより清潔美がないと、エロティシズムは成立しないのだ。
 日本のセクシーは、今かなり危ないところに来ている。肌の露出、とりわけ胸の谷間でセクシーの既成事実を作ってしまおうという、ちょっと乱暴なオシャレが止まらない。しかし『昼顔』の人妻は、対極にある清潔美をことさらに強調した。首のつまったマオカラーのクラシックなワンピースに、粋なトーク帽の犯しがたき貴婦人だからこそ、心の中にちょっとでも淫らな妄想があれば、たちまち最高級のエロティシズムができあがる。禁欲的な装いにも、艶と華やかさが増すのだ。
 たぶん官能美において何よりも大切なのは、女としてちゃんと男を求めていることなのだろう。今は“女の目のほうが厳しいから、女の人にこそ評価されたい”というのが、今キレイの揺るぎないテーマになっているけど、男不在のキレイを磨けば磨くほど、女はただの人形になっていく気がしてならない。セクシーであれ、エロティックであれ、セダクションであれ、表現は違ってもそこに不可欠なのはひとつ、“男が好き”っていう抜き差しならない意識なのだ。情欲を貞淑そうな服で覆い隠す、けれど耳の後ろにちゃんとスキを残している。少なくとも男から見て今いちばん高い女は、そんな女。あえて言っておくなら、この世は地球最後の日まで、男と女しかいないのだから。
後編へ続く
Profile: 齋藤 薫
女性誌編集者を経て美容ジャーナリストへ。美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍。光野 桃氏との共著『優雅で野蛮な女になる方法』(新潮社)ほか『女のひとを楽にする本』(主婦の友社)、『「美人」へのレッスン』(講談社+α文庫)、『美女の教科書ー超美容学×超美人学』I、II(文藝春秋)など多数。

撮影/みなもと 忠之 ヘア&メイク/渡邊昭一[W] スタイリング/池田奈加子
モデル/熊沢千絵[本誌専属] 構成/松本千登世
2006年 Grazia10月号に掲載されたものです。