Grazi@
定期購読のお申し込みはこちらから女性誌ネットはこちら
Home
Life style
Culture
Beauty
Fashion
Grazia Models
今月のGrazia
Present&Info
Fashion Topへ
いい女解体新書 いい女解体新書
ジュエリーの力学 Backnumber
ジュエリーは全員に似合うようにできている
 まず、私はこう思う。ジュエリーが似合わない女は、たぶんこの世にひとりもいないって。それこそ、シワだらけの老婦人が大きなダイヤをつけていても、丸々太った中年女性が少ししつこいくらいにたくさんのジュエリーをつけていても、また、おくるみのレースでかろうじて女の子であることがわかるくらいの赤ちゃんが、小っちゃな指に米つぶみたいなベビーリングをつけていても、不思議にぴたりとおさまってしまう。洋服なんかよりよほど優しく大らかに女を受け入れてくれる。地球上のすべての女性に、ジュエリーはあまねく似合ってしまうのだ。たぶん地球が育み、人間が磨いた石だから、そして女を飾りつけることが、ジュエリーのたったひとつの使命だからである。
 でも、その代わり、いつどこでどんなジュエリーをつけるのか、どんな理由でジュエリーを欲しがるのかで、“女”としてのひと通りを問われてしまう。それはひとえにジュエリーがこの世でいちばん無駄なものだから。そしてこの世でもっとも女性濃度が高いものだからなのだろう。
 たとえば結婚が決まるやいなや、エンゲージリングの“立てづめ”をオフィスにも毎日つけて行く女と、頑なにつけていかない女がいる。そこに垣間見えるのは、自分の幸せを胸にしまっておけない女の“女性濃度”の濃さと、幸せをしまいこむ女の社会性。そして、ジュエリーの価値を、ひたすら金額で測る女と、あくまでデザインだと思う女がいる。どちらが正しいとも言わないが、金額だと思っている女はやがて“次はもっと大きなジュエリーを買うこと”だけが一種の趣味になっていく。そういう価値観を絶対持てない女たちは、だからジュエリーを買うことには、何の興味も持たないのだ。私って、女じゃないのかしらと時々不安に思うほど……。
 でもココ・シャネルもこう言った。「私はビジュウなんて好きじゃない。人生に何の意味ももたらさないから。でも好きじゃないのは、宝石のための宝石ね。一晩だけ人に見せるために取り出して、ディナーが終わるとまたしまうような」と。
「でも女は基本的にビジュウをたくさん持っているべき。ただもしそれがすべて本物だと、これ見よがしで悪趣味なものになる。私が作るのは、ひどい偽物だけど、とてもきれい。本物よりずっときれいなぐらいね」そうやって生まれたのが、ファッションのために必要なボリュームと華麗さと粋を持った、コスチュームジュエリーだったのだ。
 「街の中では、みんな模造をつければいい。本物のビジュウは、家にいるとき、自分の楽しみのためにつければいいのよ」
 これはあくまで、シャネル個人の価値観である。しかし、そこに共鳴する人は多いだろう。圧倒的にエレガントなのに、その精神は男性的でもあったその人は、宝石の美しさと“それが合計いくらなのか?”を、ハッキリ分けたかったのだと思う。シャネルスーツにジャラジャラ重ねるジュエリーがもし本物だったら、6億だか7億だかになってしまうでしょ、と笑ったというから。
 ちなみに、今はハリウッドでもカンヌでも、赤絨毯の上を練り歩く女優たちの首もとにジュエリーはない。“ノーネックレス”がトレンドなのだ。それでもゴージャスに見えることが、新しい美の基準となりつつあるのだろう。一度つけてみてから外す、そんなジュエリーづかいが新しいのである。
つけつづけるうちに 宝石の力がのりうつる
 ただし人生の節目や人の想い、とりわけいろんな誓いや覚悟を託すのは、本物のジュエリー以外ない。高価だからじゃなく、本物にしか魂が宿らないから。そして地球が育んだ石の力に、本当の力をもらうため。そしてまた、肌に直接なじませるようにつけるジュエリーも、本物でなきゃ。自分の肌の延長となるジュエリーは、所有することじゃなく、身につけることが大切なのだ。だから出会うことが重要なのだ。そのためには、惜しみなくお金を使ったらいい。それでもそういうジュエリーは、「それ高かったでしょ?」なんて聞かれない。「あなたがにきれい」と誉められはしても。人の肌にとけこむジュエリーは、しまいこまずつけつづけるうちに人に憑依するように自らの力を与えていくからだ。貴石も、ゴールドも、真珠さえもが地球の神秘からもらった不思議な力を持っている。その力が人にのりうつるのはむしろ自然なこと。
 繰り返すが、ジュエリーは全員に似合う。しかしジュエリーをしていることも気づかせないくらい見事なつけっぷりの女はまだ少ない。相手を驚かさない、惨めにしない、金額を想像させないのにゴージャスなジュエリーづかいができないと。そういう人はジュエリーを遍歴するほどに高い女になっていき、ジュエリーを脱いでも尚、高いままのはずである。結局いいジュエリーは女を育て、いい女はジュエリーを吸収していくのである。
後編へ続く
Profile: 齋藤 薫
女性誌編集者を経て美容ジャーナリストへ。美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍。光野 桃氏との共著『優雅で野蛮な女になる方法』(新潮社)ほか『女のひとを楽にする本』(主婦の友社)、『「美人」へのレッスン』(講談社+α文庫)、『美女の教科書ー超美容学×超美人学』I、II(文藝春秋)など多数。

撮影/みなもと 忠之 ヘア&メイク/渡邊昭一[W] スタイリング/池田奈加子
モデル/熊沢千絵[本誌専属] 構成/松本千登世
2006年 Grazia8月号に掲載されたものです。