待ち合わせをしたホテルのロビー。その相手はもうすでにソファに腰をかけている。そこへ向かって「待たせちゃってごめんなさい」という表情を見せながら、少し足早に近づいていく……。そういう時の女は、“見られている自分”を十分に意識するから、急ぎつつも美しく歩こうと心がけるのだろう。でも、ソファに腰かける瞬間、キレイであろうという緊張がほどけて、ドサッと、まるで大きな荷物でも投げ置くように乱暴に座ってしまってはいないだろうか。
ひとつの“女の分かれ道”は、まさにそこにある。腰をかけるその瞬間やってくる。いい女か、取るに足らない女かの分かれ道が……。
もしそこで、まるで体重がないかのように、空から降り立つ天使の如くふんわりと、音もなく腰をかけられたら、“女の登場の仕方”としては、申し分のないものとなる。ともかく女は、さまざまな場面でいかに登場するか? それが何より重要なのだ。相手をその“美しい登場感”で瞬時に魅了すれば、すべての“会合”は“こちらペース”に持ち込めるはずだから。
以前、まさしくホテルのロビーラウンジで、近くのソファに文字通り空から舞い降りてきた女性がいて、ハッと目をやれば、それは誰もが知っている美貌の女優。ホテルでレセプションでもあるのか、ドレスアップしているせいもあり、いやでも注目を集めてしまう。でもそうやって人目を集めていると、女の体は体重をゼロに見せることだって可能なのだと知った。
ちなみにその人は、深めのソファにも、限りなく浅くヒップの一部をほんのわずかソファのへりにそっと置くだけという、腰かけ方をした。必然的に上半身はバランスを取るように少しねじられ、その分長い脚は、わずかにしどけなく斜め横に流された。計算か、習慣か、はたまた美人の運動神経か、一連の動きも含め、まったく見事な着席。そこにいた全員が、ふーっと見とれた。完璧な登場感だった。それからの20分間くらい、ラウンジの空気はその人ひとりのためにあった。 |