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マルジャン・サトラピ/来日会見レポート
 『ペルセポリス』というタイトルのアニメーション映画が今、世界各国で話題を呼んでいる。現在、パリに暮らすイラン人女性マルジャン・サトラピが、自身の半生をもとに描いた同名グラフィック・ノベルを、彼女自身が脚本と共同監督を手がけて映画化。1970〜90年代の激動の祖国イランを舞台に、どんなときもユーモアとロックの精神を忘れず、自分らしく生きようとする主人公の少女マルジの成長物語が描かれていく。

ペルセポリス
©2007. 247 Films, France 3 Cinema. All rights researved.

 ひとつの特別な国の物語でありながら、国境を超えて、世界中の女性たちが共感できるユニバーサルな感動のドラマになっているところが『ペルセポリス』の大きな魅力。今年のカンヌ国際映画祭でコンペティション部門に正式出品され、見事、審査員賞を受賞した。ちなみに60年にわたるカンヌ映画祭史上、アニメーション作品への賞の受賞は本作で3本目。30余年ぶりの快挙となる。また、来年のアカデミー賞外国語映画部門の<フランス代表作>にも決定。そのほか、同長編アニメーション部門や、ゴールデングローブ賞外国語映画部門など、複数の映画賞に選出されている。

ペルセポリス
©2007. 247 Films, France 3 Cinema. All rights researved.

マルジャン・サトラピは、イラン・ラシュト生まれの38歳。テヘランで成長し、政府により閉鎖されるまで、現地のフランス語学校のリセに通った。14歳でウィーンに留学し、94年に渡仏。ストラスブールでイラストレーションを学んだ彼女は、現在、パリ在住のアーティストとして“リベラシオン”や“ニューヨーカー”など、世界中の新聞や雑誌で活躍し、子供向けの本も執筆している。今回の映画の原作となったグラフィック・ノベル『ペルセポリス』の初巻は、フランスで2000年に出版された後、24ヶ国語に翻訳され、世界的なベストセラーに。“ニューヨーク・タイムズが選ぶ注目すべき本”にも選出された。

「私はイラン人として、イランで生まれ育ちましたが、フランス語とペルシャ語の両方で教育を受けました。ですから、フランスで映画を作ることになったのは、私にとって当然の流れでした。文化には境界線がなく、鎖のようにつながっているものだと思います。たとえばキュビズムがアフリカ文化の影響を受けているように、すべての文化は全世界で影響し合っています。この映画にもさまざまな文化が入っていますが、これらは私が実際に10代のときに接していた音楽やポップカルチャーです。イランに限らず、若者は外国の音楽やカルチャーに触れることによって、世界の人々との接点を持とうとしますよね。自国の文化に興味がわくのは、もっと大人になってからではないでしょうか。このようなエピソードから普遍性を表現したのも、この映画の試みのひとつです」
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マルジャン・サトラピ/来日会見レポート
©MASAHIRO MIKI

ペルセポリス
ペルセポリス
©2007. 247 Films, France 3 Cinema. All rights researved.

 1978年、イラン。9歳の少女マルジャン(愛称マルジ)は、パパとママ、大好きなおばあちゃんにかこまれて、ごくふつうの女の子として幸せに暮らしていた。しかし革命が起きた後、学校は男女別々、女子にはヴェール着用を義務づけるなどの抑圧的な法律が制定され、イラン・イラク戦争が勃発。思春期を迎えたマルジの大胆な言動を心配した両親は、娘をウィーンに留学させることを決意する。異国での孤独、西欧文化とイスラム文化との葛藤、失恋、帰国、結婚、離婚、そして再出発……。70〜90年代の混迷する祖国イランを舞台に、主人公マルジの激動の半生と3代にわたる母娘の愛情を描く。

監督・脚本 マルジャン・サトラピ&ヴァンサン・パロノー
原作 マルジャン・サトラピ『ペルセポリス1・2』(バジリコ刊)
声の出演 キアラ・マストロヤンニ
『ゼロ時間の謎』
カトリーヌ・ドヌーヴ
『8人の女たち』
ダニエル・ダリュー
『8人の女たち』
配給 ロングライド
● 12月22日よりシネマライズほかにて全国順次公開
ペルセポリス
©2007. 247 Films, France 3 Cinema. All rights researved.
 革命や戦争に翻弄され、不幸な出来事に打ちのめされながらも、主人公のマルジには常に、どこか客観的でシニカルな視点と、すべてを笑い飛ばそうとする強さがある。

「悲しいときこそユーモアを盛り込むことは、人生における知恵です。アウシュヴィッツから生還したイタリアの作家プリーモ・レーヴィが『絶対的な幸福もなければ、絶対的な不幸もない』と言ったように、人生には苦しいときも楽しいときもあります。つらいことも視点を変えれば、それを笑い飛ばすことができるのです。私自身、戦争や革命を体験してきましたが、イラン人にはもともと、つらい状況をユーモアで乗り切る知恵が備わっています。私は“ユーモアは他者への理解の究極の形”だと思います。相手のことを本当に理解していなければ、一緒に心から笑うことはできません。笑うことによって、お互いの感情を共有し、共感し合える。人間のコミュニケーションの大切な手段なんです」

 ボイス・キャストとして、主人公マルジを演じるのは、自ら「ボイス・テストをしてほしい」とマルジャンに電話してきたというキアラ・マストロヤンニ。マルジの母親役は、キアラの実の母であるカトリーヌ・ドヌーヴ。そしてマルジの祖母役には、これまたドヌーブの母親役を何度も演じてきた往年の名女優ダニエル・ダリューが参加している。
 全米公開に向けた英語版のボイス・キャストも、フランス語版に負けず劣らず豪華。マルジとママ役は変わらず、祖母にはジーナ・ローランズ、マルジのパパにショーン・ペン、マルジの大好きなアヌーシュおじさんにイギー・ポップという個性豊かな顔ぶれが揃う。
 が、これほどの話題作となっても、残念なことにイランで公開される予定はない。

「この作品はイランで2つの極端なグループから強く批判されました。ひとつは王制派で、イラン革命が起きて、多くの血が流されたことすら否定する人々。もうひとつはイランに対するあらゆる批判に過激に反応し、それを受け入れない人々です。でも、このような批判は悪いことではないと思います。むしろこれらの極端な人々の反応が、この作品がイランの現実を現していることを証明してくれた気がします。イランという国には二面性があり、本当のイランの魅力というのも一筋縄ではいきません。女性は抑圧されていると言われますが、大学生の60%は女子学生ですし、家族の中では権力を握っているのは母親であることがほとんどです。イランは発展途上国のように思われていますが、出生率は1.82くらいで多産というわけではなく、先進国の平均とほとんど変わりません。イスラム教のイメージが強いのですが、それより前からゾロアスター教があって、文化的にも深く影響を受けています。イランには5000年の歴史がありますが、掘っても、掘っても遺跡が出てくるような懐の深い国なのです。私自身、イランで生まれ育ちましたし、イランには温かい気持ちを抱いていて、大好きな国です。その魅力がこの映画を通して、少しでも伝われば嬉しいです」
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『レンブラントの夜警』
『レンブラントの夜警』
名画に隠された謎を解き明かすレンブラントの情熱と愛の人生

 画家としての教育を受け、キュレーターの仕事でも知られる個性派映像監督ピーター・グリーナウェイ。この新作は、“世界三大名画の1枚”と言われるレンブラントの『夜警』を題材にした、極上のミステリーだ。時代の寵児だったレンブラントが、集団肖像画『夜警』を描いた1642年を境に、転落の人生を歩み始めたのはなぜか? 名画にまつわる数々の謎の解釈を、その製作過程とともにスリリングに映し出す。計算し尽くされた演劇的な演出もパワフルで、絵画を読み解く知的興奮をたっぷり味わえる。

監督/ピーター・グリーナウェイ『コックと泥棒、その妻と愛人』●1月12日よりテアトルタイムズスクエアほかにて全国順次公開
『アース』
『アース』
北極から南極まで生き物たちがナビゲートする壮大な地球旅行

 大ヒット作『ディープ・ブルー』や『プラネットアース』のスタッフが結集し、5年の歳月を費やして撮った究極のネイチャー・ドキュメンタリー。ホッキョクグマやアフリカ象、ザトウクジラをはじめとする地球上のあらゆる動物たちが、命をつなぐための水と食料を求めて壮絶なドラマを繰り広げる。まるで彼らの至近距離にいるような臨場感を覚える鮮やかな映像は迫力満点。警鐘を鳴らすやり方ではなく、あくまでも生命力溢れる美しい地球の姿を通して、自然のために私たちが今できることについて考えさせてくれる。

監督/アラステア・フォザーギル&マーク・リンフィールド ●1月中旬より日比谷スカラ座ほか全国東宝洋画系にて公開

『陰日向に咲く』
『陰日向に咲く』
どこか日の当たらない人たちの純真さがきらめく珠玉の群像劇

 劇団ひとりの作家デビュー作にしてベストセラー小説の映画化。夏の東京を舞台に、年齢も職業も性別も異なる9人の人生模様が、ユーモラスかつ温かい視点で綴られていく。ギャンブルで借金まみれになった青年、芸人にひとめぼれして上京した母とその娘、ホームレスに憧れて段ボール生活に挑戦してみたエリートサラリーマン……。いつもそれなりに一生懸命、でもなぜかうまくいかない不器用な登場人物たちの奮闘ぶりが愛おしい。各エピソードがすべてつながっていくラストには、思いがけない感動がこみ上げる。


監督/平川雄一朗『そのときは彼によろしく』 出演/岡田准一、宮崎あおい ●1月26日より有楽座ほか全国東宝系にて
公開

Profile: 石塚圭子

フリーライター。Graziaをはじめ、女性誌各誌で活躍中。
映画コラムをはじめ、幅広くカルチャーコラムを手掛ける。わかりやすい解説と独自の鋭い視点には定評がある。