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マット・デイモン/来日会見レポート
「ボーン・アルティメイタム」

 ハリウッドの頂点となる男性スターと聞いて、あなたが思い浮かべるのは、ブラッド・ピット? それともジョニー・デップ? いえいえ、それは、先月もロバート・デ・ニーロ監督作『グッド・シェパード』が公開されたばかりと、主演作目白押しのマット・デイモン! 今年、米経済誌フォーブスが発表した“ハリウッド俳優の映画出演料あたりの興収ランキング”で、2位のブラピや3位のジョニー・デップに大差をつけ、マット・デイモンが堂々の1位に輝いたのだ。ちなみにこれは、俳優本人の儲けのことではなく、映画会社そのものがどれだけ得をするか。つまりマットはギャラが高すぎないわりに、出演作を大ヒットへと導く、映画業界にとって実にありがたい存在なのである。

 ハーバード大学在学中から役者の仕事をスタート。97年には友人のベン・アフレックと脚本を執筆し、主演した『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』で、アカデミー賞最優秀オリジナル脚本賞を20代にして受賞――と順調にキャリアを重ねつつ、地味なルックスのせいか、いまいちスターとしてのオーラに欠けている感があったマット。そんな彼を正真正銘のスターダムに押し上げたのが、記憶を失った元CIAの暗殺者ジェイソン・ボーン役で単独主演した大ヒット“ボーン”シリーズだ。『ボーン・アイデンティティー』、『ボーン・スプレマシー』に続き、完結作『ボーン・アルティメイタム』がついに公開された。


「ボーン・アルティメイタム」
KEIKOの今月公開のオススメ3本

「ボーン・アルティメイタム」
「ボーン・アルティメイタム」

 CIAの極秘プロジェクト<トレッドストーン計画>によって、暗殺のスペシャリストに鍛え上げられたジェイソン・ボーン。記憶と愛する者を奪われ、その存在を抹消された彼は、すべての陰謀を仕組んだ黒幕に、最後通告(=アルティメイタム)をたたきつけるため、自分の過去との戦いを開始する。モスクワ、パリ、ロンドン、マドリッド、モロッコのタンジール……世界各国の都市をめまぐるしく移動しながら、ジェイソンはやがてニューヨークに到達する。そこはかつて別の本名で生きていたごくふつうの若者が、暗殺者ジェイソン・ボーンに生まれ変わった因縁の場所だった――。

監督 ポール・グリーングラス
『ボーン・スプレマシー』
原作 ロバート・ラドラム
『最後の暗殺者』
出演 マット・デイモン
『グッド・シェパード』
ジュリア・スタイルズ
『モナリザ・スマイル』
デヴィッド・ストラザーン
『グッドナイト&グッドラック』
ジョアン・アレン
『ザ・コンテンダー』
配給 東宝東和
●日劇1ほかにて全国順次公開中

 今年はさらにL.A.の観光名所である、ショービジネス界で活躍した人物の名前が刻まれた“ウォーク・オブ・ザ・フェーム”にも仲間入り。プライベートでは、03年に映画の撮影中にマイアミで出会ったアルゼンチン人のルチアナ・ボーザンさんと交際を続け、05年に結婚している。初婚のマットに対し、ルチアーナさんはバツイチで当時7歳の女の子がいた元バーテンダー。そして『ボーン・アルティメイタム』の撮影時期だった昨年6月に、2人の間には娘イザベラちゃんが誕生した。

「撮影中、3ヶ月になる娘の夜泣きがひどくて、眠れない状態が続いていました。あるとき、ボロボロになって現場に行くと、監督が『なんだよ、ひどい顔してるじゃないか』と言うので『娘が泣いているから一睡もできなかったんだ』と答えたんです。すると監督が『いや、ジェイソン・ボーンにはぴったりだから、そのままでいいよ』と言ってくれました(笑)。ボーンは常に組織に命を狙われていて、一瞬たりとも気をゆるませることができないというキャラクターなので、実は2作目のときの役作りでは、わざと深夜ずーっと起きていたんです。今回は娘の夜泣きのおかげで、ずっと自然に起きていられた……というか、起きているしかなかったのが、ある意味で演技に役立ったという感じです」

 記憶を失ったスパイ、ジェイソン・ボーンの“自分探しの旅”を描くこのシリーズでは、ボーンと共に、観客も世界中を旅できることも醍醐味のひとつ。今回は世界を股にかけた追跡劇のルートが拡大し、ロンドンからマドリッド、タンジール、そしてパリからモスクワ、ニューヨークへと、私たちを各国の都市へと誘ってくれる。

「ここ10年くらいは、本当に旅をしながら、いろんなところで撮影するというのが日常になっていますね。ある意味では、どこにも行かないほうが集中できなかったりするくらい。でも今回は、家族が一緒に現場に来てくれたので、彼らを楽しませることに気を配っていました。特に9歳の愛娘をいつも楽しませる方法を考えるのが難しかった(笑)。初めの数ヶ月間は、彼女の友達やいとこを招いたりしていましたが、最後のほうになって、撮り直しで街から街へと移動しているときが大変でした。ロンドンでは子供が観られる芝居はぜんぶ観ましたし、水族館や動物園には何度も行きました」

 肉体的にも精神的にも緊張感を強いられるハードな役を演じながら、貴重なオフタイムにはこんなに一生懸命、家族サービスにつとめていたなんて。そんな“最強の男”マットにとって、この世の中で怖いものとは?

「うーん……子供を持って、はじめて何もかもが怖くなりました。友達の母親が言うには、僕たちは常に自分のハートを守りながら生きているんだけど、子供ができた瞬間、そのハートは子供の中に入ってしまうんだとか。子供はただでさえか弱い存在だから、今まで以上にあらゆるものからハートを守らないといけない。本当に、親の持つ恐怖感というものを常に抱えていますね」

 ちょっとしたコメントにもにじむ、心優しくて誠実な人柄。こんな素敵な男性を夫にすることができた奥様がうらやましい!
KEIKOの今月公開のオススメ3本
『やわらかい手』
『やわらかい手』
愛ゆえの捨て身の行動が
やがてもたらす人生の贈り物

 ロンドン郊外で暮らす未亡人マギーが、難病に冒された最愛の孫の手術費用を工面するため、やむにやまれず風俗店の接客業を始める。壁越しに手で客を絶頂へと導く仕事で、図らずも評判の売れっ子になっていくが……。まじめで世間知らずのマギーが経験するさまざまな出来事に笑いつつ、愛する者のためならどんな自己犠牲も厭わない女の強さに深く感動。かつてミック・ジャガーの恋人として名をはせた伝説のミューズ、マリアンヌ・フェイスフルが、自身とは正反対のごく平凡な主婦を見事に演じきって素晴らしい。

出演/マリアンヌ・フェイスフル『マリー・アントワネット』 ●12月8日よりBunkamuraル・シネマほかにて全国順次公開
『ベティ・ペイジ』
『ベティ・ペイジ』
健康的なエロスを体現した
永遠のアイコンの数奇な運命

 今もファッションやカルチャーのポップ・アイコンとして影響を与え続けている永遠のピンナップ・ガール、ベティ・ペイジ。わずか7年で表舞台から完全に消えてしまった彼女の知られざる真実が、1950年代アメリカの空気を忠実に再現した美しいモノクロ映像で描かれる。ニューヨークでトップ・ピンナップ・モデルとなったのは、30歳を過ぎてからと遅咲きだった彼女は、同性から見ても驚くほどに純粋で善良な愛すべき人。信心深さと肉体を見せる喜び、その相反する想いに葛藤するベティの素朴な人間味が魅力的だ。

監督/メアリー・ハロン『アメリカン・サイコ』 出演/グレッチェン・モル ●12月15日よりシネマライズほかにて順次公開
『ここに幸あり』
『ここに幸あり』
自由気ままで幸福な生き方を教えてくれる大人のための寓話

 グルジアからパリに移住した名匠オタール・イオセリアーニの4年ぶりの新作。ある日突然失脚した大臣が、気の合う仲間たちと酒を飲み、音楽を奏でながら、思いがけない人生の休暇を過ごしていくという、シンプルこの上ないストーリー。職と金と住む家を失い、妻や愛人にも愛想をつかされたのに、別段あせる素振りも見せず、ひょうひょうと毎日を楽しく生きる彼の姿は見ているだけで心地いい。目標や成功に向かってカリカリがんばらなくても、人生の喜びを存分に味わうことはできるのだと、肩に入った力が軽くなる。

監督・脚本・出演/オタール・イオセリアーニ『月曜日に乾杯!』
●恵比寿ガーデンシネマほかにて全国順次公開中
Profile: 石塚圭子

フリーライター。Graziaをはじめ、女性誌各誌で活躍中。
映画コラムをはじめ、幅広くカルチャーコラムを手掛ける。わかりやすい解説と独自の鋭い視点には定評がある。