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ケネス・ブラナー監督/来日会見レポート
 モーツァルトが生涯の最後に完成させた最高傑作として、2世紀以上にわたり、世界中のクラシック・ファンから愛され続けてきたオペラ『魔笛』。このマスターピースを、英国を代表する演出家兼俳優のケネス・ブラナー監督が、華やかで楽しいシネマオペラに生まれ変わらせた。これまでにも監督デビュー作の『ヘンリー五世』を皮切りに、『から騒ぎ』、『ハムレット』、『恋の骨折り損』、『お気に召すまま』といったシェイクスピアの古典劇を、現代感覚あふれる、とびきりのエンターテインメントに仕立て上げてきた彼。きっとクラシックにも造詣が深いのだろうと思いきや、意外にもオペラはそれほどなじみがなかったという。

『魔笛』

「オペラって、チケット代も高額ですから、私自身としては、やっぱりちょっと敷居が高いというイメージが強かったんですね。ストーリーが理解しにくかったり、演技も時には大げさだなぁと感じたりもしましたし。ところが今回、音楽をはじめとする芸術活動を支援しているピーター・ムーア財団から“誰か『魔笛』を映画化してくれないだろうか”と言う話があったんです。『魔笛』は世界で一番公演回数が多いオペラなのですが、ピーター・ムーア氏は、この作品のストーリーに込められたロマンスやアドベンチャー、情熱、軋轢といったものを描くことによって、現代の私たちにも力強く伝わるものがある映画が作れるだろうというビジョンを持っていたんですね。それで私も、私たちがふだんもっと親しんでいる映画というメディアを通して、自分のようにオペラはちょっと怖いな……と思っている人たちにも、オペラの楽しさを知ってもらいたいと思ったんです」

 ザラストロ役に、世界屈指のバス歌手として絶大な人気を誇るドイツ出身のルネ・パーペ。対する夜の女王役に、ロシア出身のソプラノ歌手リューボフ・ペトロヴァなど、すばらしいオペラ歌手たちの歌声を、至近距離で(!?)聴ける体験にもワクワクする。

「私はオペラの世界に足を踏み入れるのが初めて。キャストの方たちにとっては、映画の世界に足を踏み入れるのが初めて。お互いに“初めてのことに挑戦するのは怖い”という気持ちを持ち、謙虚な姿勢で臨んだからこそ、ひとつにまとまることができました」
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ケネス・ブラナー監督/来日会見レポート
©Junya Inagaki
『魔笛』
『魔笛』

 第一次世界大戦前夜のヨーロッパ。兵士のタミーノ(ジョセフ・カイザー)は、戦場で命を失いかけたところを、夜の女王(リューボフ・ペトロヴァ)に仕える3人の侍女に救われる。女王から魔法の笛を渡され、「暗黒卿ザラストロ(ルネ・パーペ)に誘拐された娘パミーナ(エイミー・カーソン)を救い出してほしい」と懇願された彼は、兵士のパパゲーノ(ベン・デイヴィス)をお供に、ザラストロの神殿へ忍び込む。そこで出会った美しいパミーナと、瞬く間に恋に落ちるタミーノ。やがて2人は驚愕の真実を知ることになるのだが……。

監督・脚本 ケネス・ブラナー
『お気に召すまま』
出演 ルネ・パーペ
リューボフ・ペトロヴァ
ジョセフ・カイザー
配給 ショウゲート
●7月14日(土)よりシャンテシネほかにて全国ロードショー

『魔笛』  オペラ版では神殿を舞台にしたメルヘンチックな設定だったのが、ケネス・ブラナーの演出では、舞台は第一次世界大戦前夜のヨーロッパへ。こうなると物語の中盤で、善悪の価値観が180度変わってしまうという驚きの展開が、さらに特別な意味を放ってくる。

「オペラの『魔笛』は、本当にさまざまな舞台設定で登場しています。最近では、月面を舞台に演じられていました(笑)。『魔笛』が作られてから、200年以上経ってなお、これだけ多くの人がさまざまな解釈をもって描こうとしているのは、この作品が、人間の持つ普遍的な関心に光を当て続けているからだと思います。物語の中心に人と人とが対立する軋轢、摩擦、抗争があることから、私は第一次世界大戦を背景にすることにしました。私たちが望むと望まざるに関わらず、戦争というものは世界のどこかで起こっている。でも『魔笛』では、愛が憎しみに打ち勝つ、光が暗闇に打ち勝つ、もっと直接的に言えば、平和が戦争に打ち勝つことが描かれているのです。もし、あなたがオペラを敬遠なさっているのであれば、ぜひリスクをとって、この映画を観ていただければと思います」

 オペラ・ファンが映画ならではの新鮮な表現を堪能できるのはもちろん、オペラ初心者にとっても、この作品はオペラの魅力への扉を開く、絶好のきっかけになってくれるはず!
 

映画『魔笛』オリジナル・サウンドトラック映画『魔笛』オリジナル・サウンドトラック
序曲からフィナーレまで、『魔笛』に登場する名曲の数々をあますところなく演奏した本作で、音楽監督と指揮をつとめるのは、一流歌手がこぞって共演を切望するジェイムズ・コンロン。演奏はヨーロッパ室内管弦楽団。世界中から結集した才能あふれる歌手たちが、生き生きと歌い継ぐモーツァルトの至高のナンバーをじっくり味わって。
6月27日発売 ¥2500/東芝EMI

KEIKOの今月公開のオススメ3本
『ボルベール<帰郷>』
『ボルベール<帰郷>』
どんな苦しみも乗り越える。そんな力を秘めた女たちへの人間賛歌

 スペインが誇る鬼才ペドロ・アルモドバル監督の今回のテーマは、普遍的な母性愛。自身の故郷であるラ・マンチャを舞台に、母、2人の娘、孫娘、伯母、隣人という6人の女のドラマが繰り広げられる。火事で死んだはずの母と、今や自分も母となった娘が、それぞれ長年隠し続けてきた秘密。終盤で明かされる2つの秘密の凄惨さにたじろぎつつも、それゆえに彼女たちの美しさや明るさが一段と輝いて見えてくる。ペネロペ・クルス演じるヒロインが、母への想いを胸にタンゴの名曲を歌い上げるシーンは圧巻。

監督・脚本/ペドロ・アルモドバル『トーク・トゥ・ハー』 ●TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国東宝洋画系にて公開中
『イタリア的、恋愛マニュアル』
『イタリア的、恋愛マニュアル』
愛と真剣に格闘する姿がかわいい 大人のロマンティック・コメディ

 “出会いと恋”を皮切りに、結婚後の夫婦の“危機”“浮気”そして“別離”……人生における恋愛の4つの局面を、4カップルのエピソードで綴ったラブストーリーだ。イタリア人は情熱的で恋愛上級者の印象が強いだけに、登場人物たち全員がクヨクヨ悩んだり、ジタバタあがいたりする格好悪い姿が意外だが、これが本国イタリアで大ヒット。描かれている出来事が、それだけ身近で共感を呼んだからだろう。伝統のイタリア式喜劇へのオマージュも込められ、円熟味のある俳優陣の軽やかな演技が楽しめる。

出演/ジャスミン・トリンカ『息子の部屋』、マルゲリータ・ブイ ●7月中旬よりシネスイッチ銀座ほかにて全国順次公開
『不完全なふたり』
『不完全なふたり』
他人同士である男女が
2人で生きることの難しさと愛おしさ

 友人の結婚式に出席するため、パリへやってきた結婚15年になる夫婦。理想のカップルと見られる彼らだが、実は離婚することを決めていて……。デビュー以来、男女の関係を描き続ける諏訪敦彦監督が、全編フランス語の映画に挑戦した。あらすじだけ用意し、あとは俳優やスタッフとの即興によって作り上げられた夫婦のやりとりは、胸が苦しくなるほどリアルでスリリング。愛が消えたわけではないが、修復不能に見える夫婦の結末は? 主演俳優2人が決めたラストシーンに、言葉にならない感動が押し寄せる。

監督・構成/諏訪敦彦 出演/ヴァレリア・ブルーニ=テデスキ『ふたりの5つの分かれ路』 ●新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開中
Profile: 石塚圭子

フリーライター。Graziaをはじめ、女性誌各誌で活躍中。
映画コラムをはじめ、幅広くカルチャーコラムを手掛ける。わかりやすい解説と独自の鋭い視点には定評がある。