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アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督/来日会見レポート

アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督/来日会見レポート

 4つの物語が鮮やかにシンクロする巧妙なプロット、登場人物たちの魂の叫びが聞こえてくるような卓越した心理描写。今年、世界中の映画賞を席巻した話題作『バベル』は、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督が、舞台のひとつに東京を選んだことで、私たち日本人にとって、さらに忘れられない特別な1本になった。
『バベル』
©2006 by Babel Productions, Inc. All Rights Reserved.
監督「日本を初めて訪れたのは2000年、長編監督デビュー作の『アモーレス・ペロス』を東京国際映画祭に出品したときです。グランプリを受賞して、10万ドルの賞金をいただいたので、非常にうれしい思い出がありますね(笑)。そのとき東京の景色を見て、次はカメラを持ってきて、ぜひ撮影したいと思いました。そして2003年、いろんな国を舞台に、いろんな言語で映画を撮りたいと思っていた頃に、また日本を訪れました。箱根に行ったのですが、そこで、ある老人が障害を持った少女の手を取って歩いている姿や、若い聾唖(ろうあ)の少年少女が手話で一生懸命に自分を表現しようとしている姿を見かけたのです。たくさんの人がいる中の“孤独”というものが印象的で、さまざまなことを考えさせられるきっかけになりました。手話も使いたいと思いましたし、compassion(思いやり、同情心、哀れみ)というテーマのアイディアが生まれました。compassionは、現代人が忘れ去ってしまったものです。今の私たちは、何にでも白黒はっきりさせようとして、グレーゾーンがなくなってしまっています。でも生きていくためには、compassionが必要なのです」

 東京を舞台にした物語には、国際的にも高い評価を得ている役所広司、本作の聾唖の女子高生チエコ役で、米国ゴールデングローブ賞とアカデミー賞の助演女優賞に見事ダブルノミネートされた菊地凛子、脚本家・倉本聰氏主催の富良野塾の卒業生で、ドラマや映画、舞台と幅広い分野で活躍する二階堂智らが出演。イニャリトゥ監督の来日に合わせて、記者会見には彼ら3人も再び集結した。
KEIKOの今月公開のオススメ3本

『バベル』
『バベル』
©2006 by Babel Productions, Inc. All Rights Reserved.

 モロッコの山間の村、ヤギを襲うジャッカル退治のため、父親から一挺のライフルを預かった幼い兄弟。3人目の子供を失ったばかりで、何とか夫婦の絆を取り戻そうとモロッコを旅行中だったアメリカ人夫婦リチャード(ブラッド・ピット)とスーザン(ケイト・ブランシェット)。アメリカに残っていたリチャードとスーザンの子供たちを、急きょ、自分の故郷に連れて行くはめになったメキシコ人の乳母。妻を自殺で亡くした日本人サラリーマン(役所広司)と彼の聾唖の娘チエコ(菊地凛子)、そしてモロッコで起きた銃撃事件を調査している若い刑事(二階堂智)。モロッコ、アメリカ、メキシコ、日本……4カ国で暮らす登場人物たちの運命が、偶然放たれた一発の銃弾をきっかけに交錯していく。

監督・
製作・原案
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ『21グラム』
出演 ブラッド・ピット
『Mr.&Mrs.スミス』
ケイト・ブランシェット
『アビエイター』
役所広司『それでもボクはやってない』
菊地凛子『空の穴』
二階堂智『ラスト サムライ』
配給 ギャガ・コミュニケーションズ
●4月28日 スカラ座他全国東宝洋画系にて拡大ロードショー
『バベル』
©2006 by Babel Productions, Inc. All Rights Reserved.

役所
「監督が『東京では、なかなか撮影の許可が下りない』と嘆いていました。ゲリラ的に撮影することも多かったので、朝の高速道路で渋滞を作ってしまったり、人があふれる渋谷の街で撮ったり。確かに危ないことだったけれど『どうしても撮りたい!』という監督の情熱が伝わってきて、僕も映画のためにがんばりたいという気持ちになりました」

菊地「以前から監督の作品のファンで、彼を尊敬していたので、この役はどうしてもやりたいと思っていました。監督はとても愛情深く、私をまるで家族のように扱ってくれますし、言葉も美しい。監督が私を信用してくださっているという気持ちが伝わってきました。本当にすばらしい監督だと思います」

二階堂「オーディションのときから『この刑事役をやりたい』と伝えていました。監督は、僕を包み込むように接してくれる方です。僕がチエコと関わるセンシティブなシーンでは、とてもアーティスティックな空気作りをしてくださったので、よい緊張感をもって撮影に臨めました」

監督「日本人キャストとの仕事は、本当にすばらしい体験でした。『バベル』の物語と同じように、私は日本語も手話もできません。撮影時には通訳がいてくれましたが、言葉ではなく、手を握ったり、微笑んだりといったコミュニケーションがとても重要でした。問題は言語ではなく、自分たちが自らの中に障壁を作ってしまっているのだ、と体感できました。『バベル』は“感情”の言語を語っている映画です。非常に深い、人間的な感情を呼び起こされる、と世界各国の方々に言っていただけました。宗教、国籍、個々の信念と、異なるものはいろいろありますが、この映画には、それらを超えた魔法の瞬間があるのだと思います。深いところでは、人間はみんな同じ。痛みや傷つきやすさといったものが、“私たち人間はつながっているのだ”という希望を与えてくれるのです」
KEIKOの今月公開のオススメ3本
『バベル』
『バベル』
言語や文化、国境を超えて胸に突き刺さる孤独な魂の叫び

 本年度の各映画祭で話題を独占した傑作ドラマ。乳幼児突然死症候群(SIDS)で子供を失ったアメリカ人夫婦、一挺のライフルを手に入れたモロッコの兄弟、預かっている子供たちを故郷へ連れて行くメキシコ人乳母、妻を自殺で失った日本人サラリーマンと聾唖の娘。一見、関係のないように見える彼らの運命が、放たれた一発の銃弾をきっかけに交錯する。緊迫感に満ちた展開と心理描写の濃密さは、2時間半近い長さをまったく感じさせない。アカデミー賞にノミネートされた菊地凛子の真摯な演技に圧倒される。

監督/アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ『21グラム』 出演/ブラッド・ピット ●日比谷スカラ座ほかにて全国順次公開中
『毛皮のエロス ダイアン・アーバス 幻想のポートレイト』
『毛皮のエロス ダイアン・アーバス 幻想のポートレイト』
ポートレイト写真の概念を変えた伝説の女性写真家へのオマージュ

 20世紀を代表する写真家ダイアン・アーバスの人生の転換期を、イマジネーションを駆使して魅惑的に映像化。ファッション写真家の夫や幼い娘たちと暮らすダイアンは、全身を野獣のような毛に覆われた異形の男ライオネルと出会ったことから、自分の中に潜む芸術への欲望に目覚めていく。ニューヨークの裕福な家庭に生まれ、若くして結婚、よき妻であり母であった彼女が、いかにしてフリークスを被写体にする衝撃的な写真家へと変貌していったのか。彼女の心の旅路は、ひとりの女性の物語としても興味深い。

監督/スティーヴン・シャインバーグ 出演/ニコール・キッドマン ●5月中旬よりシネマGAGA!ほかにて全国順次公開
『歌謡曲だよ、人生は』
『歌謡曲だよ、人生は』
昭和のポップソングをモチーフに描き出される12の映像アンサンブル

 世代の異なる個性豊かな12人の監督が、昔懐かしい昭和の歌謡曲にインスパイアされて手がけた異色オムニバス。時代設定もジャンルも自由だが、昭和の曲がテーマになっているだけに、全体を通して、どこかアナログでノスタルジックな味わい。特に『ウォーターボーイズ』の矢口史靖監督による、年配の独身男性の幸せを応援する若夫婦の純粋さを描いたエピソードや、同窓会での出来事を綴った高橋惠子主演のファンタジックな1編が印象的。エンディングの『東京ラプソディ』の後も、しみじみとした余韻が漂う。

出演/大杉漣、板谷由夏、余貴美子、妻夫木聡、伊藤歩、高橋惠子、瀬戸朝香 ●5月12日よりシネスイッチ銀座ほかにて全国順次公開
Profile: 石塚圭子

フリーライター。Graziaをはじめ、女性誌各誌で活躍中。
映画コラムをはじめ、幅広くカルチャーコラムを手掛ける。わかりやすい解説と独自の鋭い視点には定評がある。