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ポール・バーホーベン監督/来日会見レポート

ポール・バーホーベン監督/来日会見レポート

 '85年にハリウッドに進出して以来、『ロボコップ』('87)、『トータル・リコール』('90)、『氷の微笑』('92)など、ヒット作を連発してきたオランダ出身のポール・バーホーベン監督。SFXを駆使した驚きの映像で“透明人間もの”に挑んだ『インビジブル』('00)の後、23年ぶりに故国オランダに戻った彼が撮り上げた新作は、意外にも(!?)、第二次大戦下のオランダを舞台にした、史実に基づく壮大な戦争ドラマだった。
『ブラックブック』
©2006 Film & Entertainment VIP Medienfonds 4 Gmbh & Co. KG
 「前作の『インビジブル』は、原題が『Hollow Man(空ろな男)』というのですが、撮影中は、スタジオで本当に自分が消えてしまったような感じでした。スタジオの奴隷になって、自分自身から遠ざかってしまったような気持ちになったので、自分の魂を救うために何かしなければ! という想いで作ったのが、この『ブラックブック』なんです。題材となる戦争も子供の頃に体験していますし、この映画を今作ることで、本来の自分を取り戻したいという願いを込めた部分もありますね」
KEIKOの今月公開のオススメ3本

『ブラックブック』
『ブラックブック』
©2006 Film & Entertainment VIP Medienfonds 4 Gmbh & Co. KG

 1944年、ナチス・ドイツ占領下のオランダ。元歌手の美しいユダヤ人女性ラヘル(カリス・ファン・ハウテン)は、家族とともにドイツ軍から解放されたオランダ南部へ脱出を試みるが、途中で待ち伏せしていたドイツ兵たちに両親や弟を殺されてしまう。何者かが、彼女たちの命を売ったのだ。かろうじて生き残ったラヘルは、名前をエリスと変え、ブルネットの髪をブロンドに染めて、レジスタンスのスパイの仕事を引き受ける。彼女の使命はその美貌と歌声を武器に、諜報部のトップであるドイツ軍将校ムンツェに近づくこと。しかし、ムンツェの優しさに触れるうちに、エリスは彼を愛するようになっていく−。

監督 ポール・バーホーベン『氷の微笑』
出演 カリス・ファン・ハウテン
『ネコのミヌース』
セバスチャン・コッホ
『善き人のためのソナタ』
トム・ホフマン
『ミッションブルー』
配給 ハピネット・東芝エンタテインメント
● 3月24日より新宿テアトルタイムズスクエア/渋谷アミューズCQN他全国公開

 『氷の微笑』では、シャロン・ストーンをスターダムに押し上げた監督だが、今回の映画でも観客に忘れられないインパクトを残す女優が登場。監督の新ミューズに選ばれたオランダのクール・ビューティー、カリス・ファン・ハウテンが、過酷な運命に翻弄される主人公エリスを熱演し、圧倒的な美しさをスクリーンに焼き付けている。

「これまで、たくさんの女優と仕事をしてきました。ときには力のある女優と出会い、脚本の出来もよく、自分もよい仕事ができた場合もあるのですが、カリスはもう、そういうレベルではありません。こんなに才能あふれる女優に会ったのは初めてです。彼女の存在なしには『ブラックブック』を作ることは不可能でした」

『ブラックブック』
©2006 Film & Entertainment VIP Medienfonds 4 Gmbh & Co. KG
 戦争を忠実に描いた社会性の高い作品でありながら、誰が敵で、誰が味方かが分からないスリリングな展開は、エンターテインメントとしての醍醐味もたっぷり。同じテーマを扱った『シンドラーのリスト』や『戦場のピアニスト』とはまた違った娯楽性、観客へのサービス精神は、彼がアメリカでの監督時代に作家として身につけたものでもある。

「ひとつのシーンから次のシーンへ移行するときに、物語を引っ張っていく推進力。ヨーロッパではあまり意識されないのですが、アメリカではこれが非常に重要視されているんです。ときに重要視されすぎているくらい(笑)。次はどうなるのか、物語はどこにいくのかという思いを観客に抱かせ、彼らの心を離さない。このストーリーテリングの方法は、アメリカで20年間過ごしたからこそ、学べたことですね。アメリカに渡る前の自分と比べると、ドラマ性により重きを置いた作り方になったと思います」

 ちなみに、この記者会見があった日に、『アンネの日記』の著者アンネ・フランクの父親であるオットー・フランクが、1941年に家族をナチス支配下のヨーロッパからアメリカへ避難させようとして書いた65通もの手紙がアメリカで初公開された。このニュースを受けて、監督は最後にこんなコメントを。

「『アンネの日記』は、第二次世界大戦中のオランダ人のユダヤ人に対する姿勢が描かれたすばらしい記録です。アンネのおかげで、オランダ人はよく思われることも多いのですが、その一方で、実はアウシュビッツに送られたユダヤ人の割合は、オランダから送られたというケースが多かったのです。当時、オランダ人がユダヤ人を密告すると、米ドルで10ドルがもらえたそうです。このことでは、ベアトリクス女王がイスラエルを訪れて、謝罪しています。アンネたち一家を助けた支援者と同様、裏切った人もまた、オランダ人だということを私たちは忘れてはいけないと思います」

 人間は単純に善人と悪人、白と黒で分けられるものではなく、立場や状況によって、その行動も変わってしまうグレーの存在。そんな監督の人間観は、『ブラックブック』の中にもしっかりと映し出されている。
KEIKOの今月公開のオススメ3本
『クィーン』

『こわれゆく世界の中で』

『ツォツィ』

『クィーン』
ダイアナ妃が急逝した直後のエリザベス女王の苦悩

 離婚が成立し、幸せな人生を歩み出したかに見えたダイアナ元皇太子妃の急逝。10年経った今なお記憶に残る出来事をテーマに、事故直後のロイヤル・ファミリーの混乱と、若きトニー・ブレア首相の行動を描いた話題作。イギリス王室にとってタブーとも思える物語が映画になったことに驚かされるが、スキャンダラスというより、心温まるヒューマン・ドラマに仕上げたところが憎い。エリザベス女王に扮したヘレン・ミレンは、威厳の中に優しさをにじませた演技で、本年度のアカデミー賞で主演女優賞を獲得した。

監督/スティーヴン・フリアーズ『ヘンダーソン夫人の贈り物』 ●4月14日よりシャンテシネほかにて全国順次公開
『こわれゆく世界の中で』
真実の愛を模索する現代人に贈るリアルで胸を打つラブストーリー

 『イングリッシュ・ペイシェント』のアンソニー・ミンゲラ監督が、15年ぶりにオリジナル脚本で映画を撮った。舞台は現代のロンドン。建築家のウィルは、パートナーのリヴと彼女の連れ子である娘と一緒に長年暮らしてきたが、リヴは結婚を承諾しない。リヴとの心の距離を感じ始めたウィルは、ボスニアから戦火を逃れてきた未亡人アミラに惹かれていくが……。愛する人との関係に危機が訪れたら、勇気を出して、相手と自分の心に正直に向き合うこと。あきらめずに絆を再生するためのヒントを教えてくれる1本。

出演/ジュード・ロウ、ジュリエット・ビノシュ、ロビン・ライト・ペン ●4月下旬よりBunkamuraル・シネマほかにて全国順次公開
『ツォツィ』
苛酷な環境においてこそ輝くセカンド・チャンスへの希望

 2006年にアフリカ映画初のアカデミー賞外国語映画賞を受賞した、シンプルで力強い感動ドラマ。ツォツィ(不良)と呼ばれる少年が、ある日、強奪した車の中に生後数ヵ月の赤ん坊を見つける。愛情を受けずに生きてきたストリート・チルドレンの彼は、その小さな命を必死で守る中で、思いがけず自らの運命を変えていく。アパルトヘイトは終わりを告げたが、黒人内の格差が広がってきた南アフリカ。ツォツィを手助けする若いシングルマザーが、苛酷な状況でも人生に向かう情熱を失わないアフリカ人の芯の強さを体現する。

監督/ギャヴィン・フッド 出演/プレスリー・チュエニヤハエ ●4月14日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほかにて全国順次公開
Profile: 石塚圭子

フリーライター。Graziaをはじめ、女性誌各誌で活躍中。
映画コラムをはじめ、幅広くカルチャーコラムを手掛ける。わかりやすい解説と独自の鋭い視点には定評がある。