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ウィル・スミス/来日会見レポート

『幸せのちから』

「この映画は本当に多くの国で、大ヒットしています。アメリカ、イギリス、オーストラリア、イタリア……。エイリアンやロボットも出てこなければ、派手な爆発シーンがあるわけでもないのに、なぜこんなにヒットするのか、僕にはぜんぜん分かりません(笑)」

 開口一番、そう言って報道陣を笑わせたのは、現在、日本でも大ヒット中の映画『幸せのちから』の主演俳優ウィル・スミス。これまでにも『メン・イン・ブラック』シリーズや『アイ,ロボット』などのアクション大作で、メガヒットを飛ばしてきた彼だけれど、今回の新作は今までとはちょっと違う。愛する息子と心を寄せ合い、夢に向かって全力疾走する男の姿を描いた、ストレートでハートウォーミングな物語なのだ。実の息子であるジェイデン・クリストファー・サイア・スミス君との共演も話題を呼んでいる。
『幸せのちから』
KEIKOの今月公開のオススメ3本

『幸せのちから』
『幸せのちから』

 サンフランシスコで暮らす医療機器のセールスマン、クリス(ウィル・スミス)。家庭では5歳の息子クリストファー(ジェイデン・クリストファー・サイア・スミス)のよき父親だ。しかし、経済的な苦労に耐えかねたパートナーのリンダ(サンディ・ニュートン)が、ついに家を出て行ってしまう。そんなある日、学歴に関係なく正社員採用の道が開けると聞いたクリスは、一流証券会社の養成コースに応募。家賃滞納でアパートを追い出された後も、クリスはホームレス生活をひた隠しにしながら、息子との幸せな生活をつかむため、厳しい研修に挑んでいく――。

監督 ガブリエレ・ムッチーノ
出演 ウィル・スミス『ALI アリ』
サンディ・ニュートン
『クラッシュ』
ジェイデン・クリストファー・サイア・スミス
配給 ソニー・ピクチャーズ
● スカラ座ほか全国東宝洋画系にて大ヒット上映中!
「息子と共演した経験は、僕たちのプライベートでの関係にも、よりよい変化を与えてくれました。そして、この映画にも特別な要素を加えることができたと思います。はじめて試写を観たときは、あまりにも息子がうまく演じていたので、本当に涙を流してしまいました。自分の演技を観て泣くなんて、おかしいかもしれませんが、この映画にかぎっては、そうだったんです。正直な話、今までにいろいろな映画に出演してきましたが、本作が最高の演技だと思っています」

 ウィル・スミスが演じた主人公クリス・ガードナーは、ホームレスから億万長者になったことで、全米メディアからも注目を集めている実在の人物。アメリカン・ドリームを体現したような人生だが、映画を観ると分かるとおり、夢が実現した理由は、とにかく彼の不器用ともいえるほどのひたむきな努力と忍耐によるものだということがよく分かる。

「僕も昔、すべてを失ったことがありました。でも、当時の僕は若くて、独身で、まだ子供がいなかった。子供を抱えていたクリス・ガードナーとは決定的に環境が違っていました。でも、俳優というのは、そのキャラクターと何かひとつ、自分自身とつながりを感じる部分を探して、そこから役作りをしていくものです。クリスと僕が似ていたのは、とても信心深い家庭で育ち、自分の人生は自分でコントロールするという考え方を教えられたこと。自分の考えや夢は、この広い宇宙の中で、手で触れることができるくらい大きな力を持つものだと信じるわけです。その点に、僕はとても近いものを感じました」

 とはいえ、どんなにすばらしいアイディアを持っていても、現代の競争社会のあまりの厳しさを前に、夢半ばでくじけてしまう人が多いのも事実。

「確かに人間の人生って、簡単なものではありません。最初、人間はこの世に生まれてきたときには、すべてがスウィートで楽しくて、すばらしくて、ママは永久に自分の面倒を見てくれると思っている。でも、実際はそうじゃないと、ある日、認識するわけです。世の中には悪い人間がいるし、善人にも悪いことが起こる。世の中は決して安全な場所じゃない、ということを少しずつ知っていきます。だから生きていく間に直面する、いろいろな不都合や現実に、どうやって立ち向かっていくか、その方法を発見するのが人生だと思います。そして、その困難な旅を生き抜くための、最もパワフルな手段は希望を持つこと。朝目覚めたとき『今日は昨日よりも、よい日になるだろう』と思わなきゃ、生きられません。夢や信念、それだけが自分が自由にコントロールできる。人生のセカンド・チャンスへの挑戦の可能性は、外部からもたらされるものではないんです。自分の内部の力だけが夢に近づけるんです」

『幸せのちから』 クリス・ガードナーにとって、いつも自分を信じてくれる健気な息子の笑顔が支えになったように、人が夢に挑戦するとき、やはり家族の存在は大きい。ウィル・スミスの奥様は、『マトリックス』シリーズでも知られる女優のジェイダ・ピンケット・スミスだが、2人の自然体なおしどり夫婦ぶりは、ハリウッドでも憧れの的となっている。

「妻ともよく話すのですが、僕たち夫婦が、家族関係において一番大切だと思っているのが“コミットメント”です。ちゃんと責任を持って、最後までかかわりあうこと。何があろうとも、お互いをサポートし合うこと。それに徹しています。僕たち夫婦にとって、“離婚”という選択肢はありません。クリス・ガードナーの場合は、息子にとって、よい父であろうとした。そして彼はそのことを決してあきらめなかった。毎朝起きて、息子のために生きていく。それは数ある選択肢の中のひとつではなく、その道しかなかったわけです。もうダメだ……と思って、前に進むのをやめてしまう人は大勢いますが、歩こうと思えば、最後まで歩くことができる。人生って、そういうものです。もちろん疲れます(笑)。これ以上、歩いたら死んじゃう! と思うかもしれない。それでも前に向かって歩き続けるんです。結婚生活においても、こんな人とは、これ以上1日だって一緒にいられない! と思うこともあるでしょう。でも、そこであきらめちゃいけない。それでも続けていれば、これで終わりっていうことは、ぜったいにないんです」

 映画の話から、自分の人生観や夫婦関係についても、深く、熱っぽく語ってくれたウィル。彼の成功の秘訣、堂々とした自信、そして幸せの力の源になっているのは、何より夫婦の強い絆であることを、しみじみ実感した会見なのであった。
KEIKOの今月公開のオススメ3本
『パリ、ジュテーム』
『パリ、ジュテーム』
パリの街を舞台に描いた
愛のショートストーリー


 今をときめく世界各国の映画監督18人が、それぞれの視点からパリで繰り広げられる愛の物語を綴ったオムニバス映画。監督の個性とパリ特有の空気感が溶け合ったエピソードは、どれも5分間ほどの短さながら、余韻を残す味わい深い作品ばかり。とくに、ジュリエット・ビノシュやファニー・アルダン、ジーナ・ローランズといった女優たちがにじませる、大人の女の愛情深さ、手ごわさ、艶っぽさが印象的。映画を観終えたあとは、世界で最も愛が似合うロマンティックな街、パリを久しぶりに訪れてみたくなる。

監督/ジョエル&イーサン・コーエン、ガス・ヴァン・サントほか
●3月3日よりシャンテシネほかにて全国順次公開
『約束の旅路』
『約束の旅路』

混迷と対立の現代世界で
懸命に生きる子と母親たち

 1984年、スーダンの難民キャンプで母親と生き別れになり、イスラエルにやってきた少年。彼は素性を隠しながら、新しい人生を始めるのだが……。エチオピアのユダヤ人だけを救出し、イスラエルに移送するという“モーセ作戦”の史実をベースにした一大叙事詩。肌の色も文化も異なる少年を引き取り、我が子として育てるリベラルで愛情豊かな一家をはじめ、少年が出会う人々の、国境や血縁関係を超えた人間愛が胸を打つ。人生で何人ものすばらしい“母”と巡り会った主人公像に、監督の希望が込められている。

監督/ラデュ・ミヘイレアニュ 出演/ロシュディ・ゼム『愛する者よ、列車に乗れ』●3月10日より岩波ホールほかにて全国順次公開
『サン・ジャックへの道』
『サン・ジャックへの道』

美しき世界遺産の巡礼路を歩く個性豊かな人々の再生のドラマ

 母親の遺産を相続する条件として、仲の悪い3兄弟に課せられたのが、キリスト教の聖地まで1500kmを歩くという、サンティアゴ巡礼だった。ツアーガイドを含め、2ヵ月はかかる旅の同行者は男女計9名。それぞれの事情を背負った彼らは、ひたすら歩き続ける旅を通して、再生のための力を取り戻していく。ちなみに最近、ヨーロッパでは、サンティアゴ巡礼が密かなブーム。自己中心的でシニカルな現代人たちが、美しい自然の中をバックパックひとつで旅をして変わっていく。その姿に共感を覚える人は多いはず。

監督・脚本/コリーヌ・セロー『女はみんな生きている』 ●3月10日よりシネスイッチ銀座ほかにて全国順次公開
Profile: 石塚圭子

フリーライター。Graziaをはじめ、女性誌各誌で活躍中。
映画コラムをはじめ、幅広くカルチャーコラムを手掛ける。わかりやすい解説と独自の鋭い視点には定評がある。