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クリント・イーストウッド監督/来日会見レポート
『硫黄島からの手紙』

「戦争映画のほとんどは、悪役と善玉に分かれていたが、人生も戦争も、そんなものではない」という信念のもと、太平洋戦争激戦の地“硫黄島”で起きた出来事を、“硫黄島2部作”として日米双方の視点から描く。この史上初の試みに挑戦したのが、これまでに『許されざる者』、『ミリオンダラー・ベイビー』で、2度のアカデミー賞に輝く名監督、クリント・イーストウッドだ。アメリカ側の視点から描いた『父親たちの星条旗』に続き、日本側の視点から描く第2弾『硫黄島からの手紙』も、先日ついに公開され、大ヒットスタートを切った。

クリント「私が撮る映画の中で、いちばん大切にしているものは、正直さ。私にとって、大切な歴史の1ページである硫黄島の戦いを正確に描くことは、とても重要なことでした。また、硫黄島戦では、日本とアメリカの両側で多くの命が失われましたので、この映画を亡くなった兵士たちへのトリビュートにしたいという想いがありました。映画の中で、日本軍を率いる栗林中将が『何年も経ったら、みんなが君たちのことを思い出し、君たちの魂を祈ってくれる』と、兵士たちに言うシーンがあるのですが、とても大事な台詞だと思います。祖国のために戦って、人生を犠牲にしていった人たちがいる。これは決して忘れてはいけない事実です。硫黄島戦では、日本側は2万千人もの兵士が亡くなっていますが、これは非常に大きな数字です。特に兵士の多くは本当に若い、まだ子供のような青年たちでした。単に敵に殺されただけではなく、飢えや水不足、病気から命を落とした人たちも大勢いました。この映画は勝ち負けではなく、戦争のむなしさを描いています」

 アメリカ映画でありながら、出演者も日本人なら、台詞も日本語。イーストウッド監督は、日本人俳優たちがそれまでに出演した映画やオーディションのテープを観て、才能豊かなメンバーを集めていった。日本軍を率いた帝国陸軍中将・栗林忠道役には、『ラスト サムライ』でアカデミー賞にノミネートされ、『バットマン ビギンズ』や『SAYURI』にも出演した渡辺謙。そのほか、二宮和也、伊原剛志、加瀬亮、中村獅童らが選ばれた。

KEIKOの今月公開のオススメ3本

『硫黄島からの手紙』
『硫黄島からの手紙』
©2006 Warner Bros. Entertainment Inc. and DreamWorks L.L.C.

 アメリカ側の圧倒的な戦力の前に、5日もあれば終わると言われながら、36日間にも及ぶ歴史的な激戦へと変貌した“硫黄島戦”の真実。戦況が悪化の一途をたどる1944年6月、本土防衛の最後の砦とも言うべき硫黄島に、陸軍中将・栗林忠道(渡辺謙)が指揮官として着任した。死こそ名誉とされる戦争の只中にあって、兵士たちに「死ぬな。最後の最後まで生き延びて、本土にいる家族のために、1日でも長くこの島を守り抜け」と命じる栗林。彼らは何を思い、どう戦い、最後のときをどう生きたのか? 61年の時を経て、島に残された無数の手紙が、彼らの素顔と尽きせぬ思いを照らし出していく――。

監督・
製作・
音楽
クリント・イーストウッド『ミリオンダラー・ベイビー』
製作 スティーブン・スピルバーグ『シンドラーのリスト』
出演 渡辺謙『ラスト サムライ』
二宮和也『青の炎』
伊原剛志『半落ち』
加瀬亮『ハチミツとクローバー』
中村獅童
『いま、会いにゆきます』
裕木奈江『光の雨』
配給 ワーナー・ブラザース映画
● 丸の内ピカデリー1ほか全国松竹・東急系にて公開中

「父親たちの星条旗」「硫黄島からの手紙」日本語オフィシャルサイト
http://www.iwojima-movies.jp
ワーナー・ブラザース映画オフィシャルサイト
http://www.warnerbros.jp
クリント「今回の日本人キャストは、本当にすばらしいグループでしたね。私にとって、英語圏ではない言語で、文化も違う人々の映画を撮ることは、とても新しい経験でした。映画を撮るにあたって、かなり勉強はしたもの、それでもやはり未知の部分はありました。でも、日本のすばらしい俳優さんたち_はじめてお会いする方がほとんどだったのですが、彼らがそれぞれのキャラクターに命を吹き込んでくださったことで、すごく自信を持つことができました。彼らとの共同作業があまりにも楽しかったので、ぜひ、明日からでも、また違う映画をスタートさせたいという気持ちでいっぱいです(笑)」


©2006 Warner Bros. Entertainment Inc. and DreamWorks L.L.C.
 イーストウッド監督といえば、演出をする際、細かい指示を出したりせず、むしろ俳優にそれぞれの役を自由に演じさせることで有名。俳優は監督に言われたとおりに演じるのではなく、自分自身の意思によって、キャラクター像をどんどんふくらませることができる。イーストウッド監督作に出演した者だけが味わえる、役者としての最高の醍醐味だ。
 会見当日、監督と共に登場した渡辺謙も、今回の仕事を懐かしく振り返る。

渡辺謙「クリントからは『脚本は青写真。日々、一緒に考えていこう』と言ってもらえました。なので僕のほうでも、ありとあらゆる資料に目を通して、こういうことはどうだろう? と、いろんな提案を書いたノートをクリントに渡していました。もう、またかよ……と言われるくらい、毎日毎日、朝『おはようございます』と挨拶をした後に、ノートを渡すという作業を続けていました。衣装や小道具に関しても、クリントがいろんなアイディアを受け止めてくれたので、撮影中は本当に創造的な、刺激的な日々でした」

クリント「私も長年俳優として多くの監督と仕事をしてきたので、俳優の立場から、監督にどのように演出されたいかが、とてもよく分かっています。私は俳優だった若い頃に、台本には書いていないアイディアを提案するのが好きでした。俳優側だって、いろんなアイディアを持っているのですから、それらのアイディアを生かして、あらゆる面で、クリエイティブな作業に貢献していただきたいと思います。新しいアイディアが出たら、はじめからそれを捨ててしまわないで、まずは試してみる。それはやはり俳優のことを、彼らの勘や本能を信じているからです。今回の日本人キャストのアイディアは、どれもすばらしいものだったので、私が考えたアイディアだと観客のみなさんに思わせるように、採用させていただきました(笑)」

 アメリカでは当初、来年2月に公開される予定だったのが、映画のあまりの評判の高さに、急きょ、年内の公開が決定。米アカデミー賞の前哨戦といわれる米映画批評会議賞やロサンゼルス映画批評家協会賞などで、すでに最優秀作品賞を受賞した。作品の完成度と同時に、日本人の俳優たちの演技も絶賛されていて、今後の数々の賞レースにもからんできそうな勢いだ。

渡辺謙「僕たちがぜったいに捨ててはいけない歴史が、この映画の中には刻まれていると思います。ひとりでも多くの方に観ていただいて、我々が必死な思いで体験した硫黄島の戦いを、スクリーンを通して一緒に体験していただければ嬉しいです」
KEIKOの今月公開のオススメ3本
『マリー・アントワネット』
『マリー・アントワネット』
ヴェルサイユ宮殿に暮らす
麗しき王妃の孤独な心の軌跡


 若手女流監督ソフィア・コッポラが描く、世界一有名な王妃マリー・アントワネットの素顔。14歳で異国の王室に嫁ぎ、18歳で大国フランスの王妃になったマリーの歴史を追いながら、あくまでもひとりの女性としての“自分探しの旅”がエレガントに映し出されていく。フランス政府の全面協力により実現したヴェルサイユ宮殿での撮影、砂糖菓子のように甘く軽やかな色合いの衣装や美術など、見どころも満載。これまで数々の神話が語られてきた中、最も身近に感じられ、深く共感できる新しいマリーがここにいる。

監督・脚本/ソフィア・コッポラ 出演/キルスティン・ダンスト『エリザベスタウン』●1月20日より日劇3ほかにて全国順次公開
『ディパーテッド』
『ディパーテッド』
過酷な運命を背負った男たちの濃密なサスペンス・ドラマ

 大ヒットした香港映画『インファナル・アフェア』をハリウッドの巨匠マーティン・スコセッシがリメイク。マフィアに潜入した警察官と、警察に潜入したマフィアの男の人生を軸に、緊迫感あふれる命懸けの駆け引きが展開する。主演のレオナルド・ディカプリオとマット・デイモンが迫真の演技を見せるほか、彼らを食うほどの強烈な存在感を放つのがオスカー俳優ジャック・ニコルソン。心から楽しんでいることがわかる彼の快演で、マフィアのボスのキャラクター像に凄みと、どこか憎めない人間味が加わった。

監督/マーティン・スコセッシ『アビエイター』●1月20日よりサロンパス ルーブル丸の内ほか全国松竹・東急系にて公開
『幸せのちから』
『幸せのちから』
努力と情熱で道を切り開く
父と息子の愛に満ちた真実の物語

 ホームレスから億万長者へ。全米メディアも注目する人物クリス・ガードナーの実話が映画になった。金も学歴もなく、妻にも去られた男が、幼い息子のために持てるすべての力を出し切って夢の第一歩を踏み出すまで――。これを波乱万丈のサクセス・ストーリーでなく、普遍的な親子愛のドラマとして心温まるタッチで描いているのがポイントだ。過酷な状況に陥っても、ユーモアで乗り越えようとする父親のひたむきさが感動的。初共演したウィル・スミス親子の自然体な雰囲気も、物語にリアリティを与えている。

出演/ウィル・スミス『ALIアリ』、サンディ・ニュートン『クラッシュ』●1月27日より日比谷スカラ座ほか全国東宝洋画系にて公開
Profile: 石塚圭子

フリーライター。Graziaをはじめ、女性誌各誌で活躍中。
映画コラムをはじめ、幅広くカルチャーコラムを手掛ける。わかりやすい解説と独自の鋭い視点には定評がある。