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レクシー・アレキサンダー監督/来日会見レポート

レクシー・アレキサンダー監督/来日会見レポート
©Jan Buus(3rd)/WISEPOLICY 2006
 ついに6月9日に開幕したサッカー ワールドカップ2006 ドイツ大会。まさに世界中でサッカー熱が盛り上がっている今、サッカーのコアサポーターたちの姿を描いた映画が公開される。タイトルの“フーリガン”とは、単純にサッカーの試合を応援するだけでなく、徒党を組んで、ライバルチームのサポーターたちと殴り合うなど、暴力的な行為をおこなうファンのこと。意外にもメンバーにはリッチで社会的地位も高いエリート層が多いという、知られざるフーリガンの実態に思わず興味をそそられる。こんな骨太のテーマを取り上げたのが、ドイツ出身で現在31歳の女性監督レクシー・アレキサンダーだ。

「この映画では、私のほかに2人の脚本家に参加してもらいました。そのうちの1人はイギリスのフーリガンについての専門家で、これまでに12冊ほど本を出版している人です。彼からフーリガンの生態やしゃべり方などを聞いて、脚本をまとめました。そしてエキストラには、本物のフーリガンと元フーリガンだけを集めて、撮影に参加してもらったんです。とにかく映画としてハリウッドの影響を受けない、ハリウッドでは作れない映画を作ろうと心がけました」

 黒目がちの大きな瞳にロングヘア。胸もとが深くV字に開いた黒のトップス。フェミニンな雰囲気が漂うレクシー監督だが、映画の中で描かれる男たちの暴力シーンは、その優しいイメージからは想像がつかないほど激しく、リアルな迫力に満ちている。
KEIKOの今月公開のオススメ3本

『フーリガン』
『フーリガン』
©2004 YANK FILM FINANCE LTD./WISEPOLICY

 ルームメイトに濡れ衣を着せられ、ハーバード大学を退学処分になったジャーナリスト志望のアメリカ人青年マット(イライジャ・ウッド)。傷心のまま、姉の住むロンドンへと渡った彼は、そこで姉の義弟であるイギリス人ピート(チャーリー・ハナム)と出会う。ピートはサッカー・プレミアリーグ、ウェストハム・ユナイテッドの筋金入りのサポーターだった。サッカーにさほど興味がなかったマットだったが、ピートに導かれるままに、陶酔的な暴力の魅力にとりつかれた“フーリガン”の世界へとのめりこんでいく――。

監督 レクシー・アレキサンダー
出演 イライジャ・ウッド『ロード・オブ・ザ・リング』三部作
チャーリー・ハナム『コールドマウンテン』
クレア・フォーラニ『ジョー・ブラックをよろしく』
配給 ワイズポリシー
●6月17日よりシネマライズほかにて全国順次公開
『フーリガン』
©2004 YANK FILM FINANCE LTD./WISEPOLICY
 「私の家は母子家庭で、母が勤めに出ていたので、私は兄に育てられたようなものだったんです。兄の後ろにくっついて、いろいろなところへ出かけ、いつも男たちの中の紅一点の存在でした。ずっと男社会に接してきましたが、常に女性としての観点から物事を見ていました。そういう意味では、ちょっとユニークな存在かもしれませんね」

 幼い頃からハリウッドに住むことを夢見て、アメリカで開催される、あらゆる空手のトーナメントに参加。ロング・ビーチ国際空手大会で優勝した19歳のときに、カリフォルニアに移住する決意をして、ボクシング・グローブを手に単身渡米した。カリフォルニア大学ロサンゼルス校で演出や脚本について学びつつ、学費と生活費を稼ぐため、武術専門のスタントウーマンとして働いていた経験もある。

「映画のスタッフもそのことを知っているので、撮影中は言うことをよく聞いてくれました(笑)。今は映画制作のほうが忙しくて、空手やボクシングを練習する時間は取れないですね。でも武術をやっていたせいか、規律を重んじる精神が私の中で養われました。これから仕事をしていく上で、とても役立つと思います。これまでにいろいろな武術映画を観ましたが、特に好きなものはありません。今回、映画でリアルなファイト・シーンを撮っていますが、あえて武術映画を作ることはないと思います。私、北野武監督の作品や日本のやくざ映画が大好きなんです。かなり昔から観ていました。ただ真似するというのではなく、私の映画のどこかに、それらの影響が間接的に出ているのではないでしょうか。北野武さんは映画監督として、とても尊敬していますが、今回日本に来て、彼がコメディアンであることを初めて知って驚きました(笑)」

 現在、彼女の母国ドイツではワールドカップの真っ最中。彼女としても、ドイツに帰って、試合を観戦したいのは山々なのだけれど……。

「残念ながら、ちょうど新作の撮影に入っていて無理なんです。だから、ロサンゼルスのパブで朝6時から観戦するつもりです。フーリガンたちの動きにも興味を持っていて、WEBで調べてみたのですが、まだまだ活発に行動しているみたいですね。実はドイツではワールドカップへの影響を考慮して、この映画は劇場公開されず、DVDのみでの発売となりました。最初の1週間で驚異的な売り上げを記録したそうです」

 レクシーがボクシングに関する知識と情熱を注ぎ込んで監督した、2002年の短編『ジョニー・フリントン』は、同年の米アカデミー賞短編実写映画賞にノミネート。新星の登場にハリウッドからの期待も高まっている。

「オスカー候補になってから、ハリウッドの大手エージェントと契約しました。そこで『ワイルド・スピードIII』とか、いろいろなオファーがきたんですが、どれも気に入らなくて。私は自分の脚本で映画を監督したかったので、まず脚本を書き、何社かに送って、今回の映画を実現させることができました。この後、またいくつかの会社から監督のオファーが来ていますが、私としては悪魔に魂を売りたくない。大金を積まれても、自分の信じるもの、やりたいものだけを作っていきたいと思っています」
KEIKOの今月公開のオススメ3本
『美しい人』
『美しい人』
9人の女優たちが魅せる
陰影に富んだ人生の断片


 ノーベル文学賞作家ガルシア・マルケスの息子ロドリゴ・ガルシアが綴る、珠玉のオムニバス。さまざまな境遇に置かれた9人の女性を主人公にした9つのエピソードを、それぞれ10分ほどのスケッチで描く手腕にも、一段と磨きがかかった。スクリーンに映し出されるのは日常の生活をかすかに切り取った瞬間だけなのに、彼女たちのこれまでの人生そのものが、心の痛みや葛藤、喜びをも含めて浮かび上がってくる。ホリー・ハンターやグレン・クローズといったアメリカを代表する女優陣の成熟した演技が胸にしみる。

監督/ロドリゴ・ガルシア『彼女を見ればわかること』 出演/キャシー・ベイカー●Bunkamuraル・シネマほかにて全国順次公開中
『幸せのポートレート』
『幸せのポートレート』
異文化のぶつかり合いを
鮮やかに描く愛と家族の物語


 エグゼクティブとして成功を収めた優しい恋人を持つ、ニューヨークのキャリアウーマン。理想の結婚までもう目前と思われた彼女が、初めて招待された彼の両親の家で、自分にとっての本当の幸せに気づいていく。相手の家族を受け入れ、また自分が受け入れられるかどうかは、いつの時代も結婚における大事な要素。好感度大とは決して言えない神経質なヒロインを、人気TVシリーズ『SATC』のサラ・ジェシカ・パーカーが演じているのが新鮮だ。ダイアン・キートンはじめキャストのアンサンブルも絶妙。

出演/サラ・ジェシカ・パーカー『セックス・アンド・ザ・シティ』●7月15日よりシャンテシネほかにて全国順次公開
『ハイジ』
『ハイジ』
みずみずしい映像で蘇る
アルプスの少女の世界


 世界中で愛されてきたスイスの女流作家ヨハンナ・シュピリの原作、日本では74年にアニメ化もされた“アルプスの少女ハイジ”が実写映画になった。雄大な山々の四季、居心地よさそうな山小屋、フレッシュな山羊のチーズ……子供の頃に想像していた世界がそのまま目の前に広がり、アルプスの透き通った空気を吸い込んだような清々しい気分に。何不自由ない都会での豪華な生活よりも、家族の愛と大自然にかこまれたスローライフを恋しがるハイジの姿は、現代社会に生きる私たちにこそ強く訴えかけるはず。

出演/エマ・ボルジャー『イン・アメリカ/三つの小さな願いごと』● 7月中旬より恵比寿ガーデンシネマほかにて全国順次公開
Profile: 石塚圭子

フリーライター。Graziaをはじめ、女性誌各誌で活躍中。
映画コラムをはじめ、幅広くカルチャーコラムを手掛ける。わかりやすい解説と独自の鋭い視点には定評がある。