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エヴリン・グレニー/来日会見レポート
『タッチ・ザ・サウンド Touch the Sound』
 記者会見の前には、エヴリン・グレニーが日枝神社の社殿内でドラムを演奏。日本を代表するタップダンサーの熊谷和徳さんとのセッションがおこなわれた。
「神社という異空間の場所で演奏したことによって、ドラムの音色そのものを、まさに“身体で感じる”ことができたと思います。タップダンサーの熊谷和徳さんとのセッションは初めての体験でしたが、すばらしいものでした。床を靴の底で叩くタップダンスは、どこかパーカッションに似ていますね。言葉がときには人と人との間の壁になってしまうことがありますが、今回はその壁を越えられたと思います」

 欧米を中心に活躍し、グラミー賞を2度受賞。今年も第48回グラミー賞の最優秀独奏者パフォーマンス(管弦楽付き)部門でノミネートされている世界的なミュージシャン、エヴリン・グレニー。演奏で世界中を飛び回る日々を送る彼女の“音の旅”を追ったドキュメンタリー『Touch the Sound』では、これまで使っていなかった自分の第六音感がギュッと研ぎ澄まされるような、まったく新しい魅惑の音の世界を体感することができる。

 8歳のときに聴覚障害が発症して以来、耳がほとんど正常に機能しなくなったエヴリンにとって、音は身体そのもので触れ、感じるもの。感覚の深いところに訴えかけるようなオリジナリティあふれる音楽はもちろん、彼女が全身のエネルギーを使って演奏するパワフルでかっこいい姿に思わずほれぼれとしてしまう。
『タッチ・ザ・サウンド Touch the Sound』
 「私はスコットランドの田舎の農家で育ったので、子供の頃は畑を耕しては種をまき、収穫を待たなければならない毎日を送っていました。音楽も一日で作り上げられるわけではありません。がまん強さが必要です。そんな育ち方から今の自分があるのかもしれません」

 数々のオーケストラとの共演やソロパフォーマンス、レコーディングのほか、エヴリンが今、特に興味を持っているのが“音”を使った子供の教育。今回の来日でも、都内小学校の音楽の授業に参加し、ワークショップをおこなった。

「身体の一部でしか音を聴いていないという現代の傾向には不安になりますね。音を誰かとシェアすることは、日常生活の中でほとんどないでしょう。このように常に受け身でいる場合、使っていない身体の部分は衰えてきてしまうと思います。私はミュージシャンとして、さまざまな国を訪れていますが、サウンドとリズムの重要性を強く感じています。自閉症やいじめなどで、心と身体を閉ざしてしまった子供たちへの教育プログラムとしても力を入れているところです。一般的に音楽セラピーと言われていますが、私は“サウンド・セラピー”と呼びたい。“音楽”と言うと、ラテンやロックといったカテゴリーに分けられてしまいがちですから。もっと視野を広く、“音”そのものにこだわってみれば、“音楽”に対する捉え方も、もっと広がると思います」

CDで曲を聴いたり、楽譜どおりに楽器を演奏するだけが、音楽との付き合い方とはかぎらない。映画では、身のまわりにある音を探し、“音を耳だけでなく身体全体で感じる”ことのピュアな喜びが、ポートレイトのように美しい映像とともに描かれていく。

KEIKOの今月公開のオススメ

『タッチ・ザ・サウンド Touch the Sound』
『タッチ・ザ・サウンド Touch the Sound』
 パーカッショニストのエヴリン・グレニーは、ギタリストのフレッド・フリスと共に、レコーディングのため、ドイツのケルンにある廃墟となった大きな工場跡にやってくる。彼らにとっては、まわりにある様々な機械から手すりにいたるまで、すべてが楽器。それらと接した「音」から、新しい音楽を紡ぎ出す。聴覚障害のあるエヴリンはほとんど耳が聞こえないが、身体のあらゆる感覚を通して音を感じている。ニューヨーク、日本、カリフォルニア、イングランド、スコットランド……彼女がめぐる音の旅が始まった。

監督・撮影 トーマス・リーデルシェイマー
出演 エヴリン・グレニー
(パーカッション)
フレッド・フリス(ギター)
オラシオ・エルナンデス
(ドラム)
鬼太鼓座
(おんでござ・和太鼓)他
配給 ソニーコミュニケーション ネットワーク
●3月11日よりユーロスペースほかにて全国順次公開

『タッチ・ザ・サウンド Touch the Sound』

「音というものは、生まれたときから死ぬときまで毎日感じているものです。音は言葉では言い表せないこと、見えないものまでも表現してくれます。この映画に参加したことで、私の中でも音の世界が広がったように感じます。みなさんも、もっと“音”に集中してみると、世界が変わってくるのではないでしょうか」 
KEIKOの今月公開のオススメ3本
『ヒストリー・オブ・バイオレンス』
『ヒストリー・オブ・バイオレンス』
“完璧な夫”に浮かび上がる過去の疑惑。妻が迫られる究極の愛の選択とは?

 2人の子供と一緒に、愛に満ちた静かな暮らしを送っていた夫婦。しかしある日、夫が2人組の強盗を正当防衛で射殺したことから生活は一変する。夫が街のヒーローとしてメディアに取り上げられて以来、怪しい男たちが家族に執拗につきまとい始めたのだ。夫には自分の知らない過去があるのではないか? 妻の胸に20年連れ添った夫への疑惑が広がるが……。“一番近くて遠い他人”ともいえる夫婦の絆を軸に、罪と許しをスリリングに描いた家族ドラマ。状況は違えど、すべての夫婦に通じる普遍的なテーマが潜む。

監督/デイヴィッド・クローネンバーグ『クラッシュ』 出演/ヴ
ィゴ・モーテンセン ●3月11日より東劇ほかにて全国順次公開
『うつせみ』
『うつせみ』
韓国の鬼才が新たに生み出した孤独な男女の美しいロマンス

 作家性の強い作風で知られる韓国のキム・ギドク監督が、第61回ヴェネチア国際映画祭で監督賞ほか全4部門を受賞した話題作。独占欲の強い夫によって、広い家に半ば幽閉されたような形でひっそりと生きる人妻の前に、ミステリアスな美青年が現れる。家を飛び出し、一緒に空き部屋を転々として秘密の逃避行を続けるうちに、言葉を交わさぬまま恋に落ちる二人。うつろだった女の表情が、聖母のような優しさを取り戻していく様子が胸にしみる。甘く切なく、ファンタジックな愛の世界を心ゆくまで堪能したい。

監督・脚本/キム・ギドク『サマリア』 出演/イ・スンヨン、ジ
ェヒ ●3月4日より恵比寿ガーデンシネマほかにて全国順次公開
『ステップ! ステップ! ステップ!』
『ステップ! ステップ! ステップ!』
社交ダンスの世界を通してひと回り成長するチビッコたち

 情操教育の一環として、約10年前から社交ダンスのプログラムを導入したニューヨークの公立小学校。これはその3校にスポットを当て、子供たちの微笑ましい奮闘を追ったドキュメンタリーだ。社会的、経済的に複雑な背景を持つ、さまざまな人種の子供たちが、初めて出会う紳士淑女のダンスにドキドキしながら、次第に踊ることの喜びに目覚めていく。小学校教師やダンス指導員らの子供に対する愛情豊かで情熱的な接し方には、教育の本当の意味を考えさせられる。ラストのコンテストの盛り上がりも最高!

監督・製作/マリリン・アグレロ ●3月11日よりVIRGIN TOHO
CINEMAS 六本木ヒルズほかにて全国順次公開
Profile: 石塚圭子

フリーライター。Graziaをはじめ、女性誌各誌で活躍中。
映画コラムをはじめ、幅広くカルチャーコラムを手掛ける。わかりやすい解説と独自の鋭い視点には定評がある。