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井浦新「役のために、身体を太く大きくしました」 [FRaU]

2018年07月16日(月) 10時30分配信

Photo:Aya Kishimoto

平成がもうすぐ終わろうとする今、世界中でさまざまな “政治交渉” がなされている。平和のために、あるいは過去の過ちを清算するために、あるいは自国の利益を守るために――。

2010年、外務省の “密約問題” 調査によって、1972年の沖縄返還当時の外交資料がほぼすべて公開された。すると、対米交渉、対沖縄折衝の両面で、一人の外交官が大きな役割を担ってきたことが明らかになった。アメリカ人も舌を巻くようなクイーンズイングリッシュを操り、アメリカ政府の理不尽な要求に怒りを隠さず、対等に交渉した外交官の名は、千葉一夫。

昭和史のハイライトの一つである沖縄返還交渉の、その舞台裏を初めて描いた映画『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』で、井浦新さんは、実在した外交官・千葉一夫を演じている。
実在の人物が感じた怒りや哀しみ。その激しさに肉薄したい

Photo:Aya Kishimoto

実在の人物が感じた怒りや哀しみ。その激しさに肉薄したい

――昨年BSで放送されたドラマを、100分の長編映画として再編集した本作は、人間ドラマとしてももちろん面白かったのですが、沖縄の苦難の歴史を知る上でも、とても考えさせられる内容でした。この映画に出演するにあたって、新さんがもっとも興味を引かれたのはどんな点ですか?

井浦この作品に関しては、何といっても実在する人物を演じることです。実在の人物を演じるときは、脚本家の方や、作家の方が自由に作り上げたキャラクターを演じるのとは、また違うアプローチが必要になります。

ご本人を知っている方が作品をご覧になることもあるかもしれないし、史実とかけ離れたことは一切できないとか、さまざまな種類のプレッシャーがかかってきます。

でも、架空の人物を自由に作っていく楽しみと、実在する人物という確たる縛りがある中で、その人物に近づけるように、あれこれ考えながら作っていくことは、どちらも面白い作業なんですね。

とくに実在の人物は、その人物の内面の怒りや哀しみを、同じぐらいの激しさで感じたいと思ったりする。“激しさ” まで想像するのはとても難しいけれど、一人の人物の内面に深く思いを馳せることは、好奇心や想像力を刺激してくれるので、その過程は楽しいんですよ。

テレビドラマで言えば、大河ドラマも、実在する人物を演じるという部分では同じです。大河の舞台は中世のこともあれば、近代のこともある。歴史ものの場合、時代そのもののことも学ぶ必要があるし、身分によっても暮らしぶりや言葉遣いが違ってくるので、たくさんのことに気を配らなければならない。でも、そういう困難に挑戦することが、役者をやる上での一つの醍醐味なのではないかと思います。

映画『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』(C)NHK

――新さん演じる千葉一夫は、日本人離れした、高いコミュニケーション能力の持ち主です。その交渉術はコツコツと地道で、派手さはないのですが、井浦さんのたたずまいがとても凛々しくて、画面に引き込まれました。立ち方、座り方、歩き方、すべてに “できる男” の説得力が感じられて。

井浦よかった(笑)。そんなふうに言ってもらえて、とても嬉しいです。この作品に出演するにあたって、僕がやらなきゃいけなかったことがいくつかあったんです。

まずは英語。アメリカ人が舌を巻くようなクイーンズイングリッシュを習得していく必要がありました。あとは、お話をいただいたときにちょうど、「もっと身体を大きくしていきたいな」と思っていた時期だったので、クランクインまでに、徐々に大きくしていきました。

最初は周囲に気づかれないようなスピードで(笑)。それで、クランクインの直前に、ガンガン自分を追い込んで、体重を増やして、身体を太くしたんです。
――それはなぜですか?

井浦身体の大きさによって、声や、動きが変わってくるんです。それはたぶん、理屈ではなく、生理的な部分からくるものなんだと思います。

ダンサーの動きを見るとよくわかりますが、華奢だからできるスピーディな動きもあれば、その逆もある。だから身体を太く、大きくすれば、人は自然と動きが変わるものなんです。

案の定、演じながら、すこしどっしりと、ゆったりとしたような、動きの中での変化も感じました。立っているときの安定感みたいなものを感じたこともあります。
――なるほど。その太い身体が繰り出す自然な動きが、昭和の、堂々とした風格のある外交官の佇まいに、説得力を持たせていたんですね。ところで、新さんは、今回のようにメッセージ性の強い作品には、積極的に出演したいほうですか?

井浦僕自身、メッセージ性が強い作品というか、見る人によっては重く感じられるようなテーマの作品に参加することに、喜びを感じているほうだと思います(笑)。

娯楽性の高い作品ももちろん好きですが、まず誰かに訴えたい、伝えたいと思うテーマやメッセージと深く関われるのも、この仕事のもう一つの醍醐味であると思うので。

社会に対して問題提起をしていくような作品と出逢えるチャンスはそう多くはないですから、『返還交渉人』のお話をいただいたとき、素直に、「やり甲斐のある作品と出逢えたな」という喜びがありました。

でも、その辺は、僕の恩師である若松孝二監督の影響が強いかもしれないです。監督の作る映画が、そもそもすべてそういう映画でしたし、創り手の熱量が目一杯こもった作品の中で、最大のパフォーマンスをしていくことが役者の役割だと思っているので。

PROFILE

井浦新 Arata Iura
1974年生まれ。東京都出身。『ワンダフルライフ』(98年/是枝裕和監督)で映画初主演。以降、映画を中心にドラマ・ドキュメンタリー・ナレーションと幅広く活動。『かぞくのくに』(12年)で、第55回ブルーリボン賞助演男優賞を受賞、師と仰ぐ若松孝二監督とタッグを組んだ『11.25 自決の日 三島由紀夫と若者たち』(12年)では、日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞を受賞。今作の柳川強監督が演出したNHKドラマ「最後の戦犯」(09年)がテレビドラマ初主演作。公開待機作に、『赤い雪RED SNOW』『菊とギロチン』『嵐電」『こはく』などがある。

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