- TOP
- > NEWS&TOPICS一覧
- > 福田春美が旅する神戸「どこか懐かしい味のミルクコーヒー」 [FRaU]
福田春美が旅する神戸「どこか懐かしい味のミルクコーヒー」 [FRaU]
2018年07月12日(木) 10時30分配信
横尾忠則現代美術館
古い港町ではやはり多様な文化が溶け合って、豊かな生活が育まれている。ブランディングディレクター福田春美さんが神戸の人に触れて感じるのは、それぞれが自分らしい世界の中できちんと地に足つけて暮らしていること。
シャイで親切で、ロマンチック。神戸らしさを追い求めて。“街のカオスを体感する” ために、異文化が交錯する港町・神戸を旅しました。
シャイで親切で、ロマンチック。神戸らしさを追い求めて。“街のカオスを体感する” ために、異文化が交錯する港町・神戸を旅しました。
看板を出す紀久恵さん。
温もりは、人と人との間に優しさと望郷の喫茶店
その日は定休日ながら、連絡をすると「店にいるから、いいわよ、いらっしゃい」と迎え入れてくれた〈思いつき〉。創業63年の店内には、まるでマスコットガールのように82歳の谷岡朗子さんが座っていて、「よういらっしゃった。ありがと」と手を合わせて笑ってくれる。
かつて周囲には造船業を営む工場が多くあり、そこで働く工員たちが休憩するためのスペースとして重宝されていたという。内装は、やはり、船大工が手がけたそうだ。
「父が経営していた鉄工所を閉めた後、女手でできる仕事をとコーヒーを飲んだこともなかった母が、姉の朗子と始めたのが、この店なんです。店名はまさしく思いつきで始めたから、そのままつけちゃったのね（笑）」
かつて周囲には造船業を営む工場が多くあり、そこで働く工員たちが休憩するためのスペースとして重宝されていたという。内装は、やはり、船大工が手がけたそうだ。
「父が経営していた鉄工所を閉めた後、女手でできる仕事をとコーヒーを飲んだこともなかった母が、姉の朗子と始めたのが、この店なんです。店名はまさしく思いつきで始めたから、そのままつけちゃったのね（笑）」
いつもは４人の姉妹で店を切り盛りしている喫茶〈思いつき〉。
そう説明してくれたのは、妹の湯川紀久恵さん。とてもしっかりした受け答えなのだが、それでも76歳。いつもはさらに妹の72歳の晴江さんと84歳の満知子さんの４人で切り盛りしている。４人姉妹と書かなかったのは、実は全部で14人兄弟だったから。そのうちの４人で店を営んでいるのだという。
創業当時のモノクロ写真。周囲の風景は変わったが、〈思いつき〉は変わっていない。
どこか懐かしい味のするミルクコーヒーを淹れてもらいながら話を聞いていると、紀久恵さんが裏からアルバムを引っ張り出してきて、店を開いたばかりの60年以上前のモノクロ写真を見せてくれた。ハイカラな空気はその写真にも充満していて、春美さんの心が動いているのが伝わってくる。
家族の話をして、今年の正月にどこに旅行に行ったのかと尋ねられ、美味しいものは食べたの？ と心配される喫茶店。まるで実家のようなその空間で、静かに雨音を聞いた。春美さんは、旅をこう振り返った。
「今回の旅は、まさしく〈思いつき〉であちらこちらへたどり着いて、そのどこでもきちんと迎え入れていただいた。旅人に優しいのは港町だからというだけではない気がします。とにかくマダムたちがオシャレで親切で。きちんと向き合ってくれるというか。それは当たり前のように思えて、稀有なことだと思うんです」
家族の話をして、今年の正月にどこに旅行に行ったのかと尋ねられ、美味しいものは食べたの？ と心配される喫茶店。まるで実家のようなその空間で、静かに雨音を聞いた。春美さんは、旅をこう振り返った。
「今回の旅は、まさしく〈思いつき〉であちらこちらへたどり着いて、そのどこでもきちんと迎え入れていただいた。旅人に優しいのは港町だからというだけではない気がします。とにかくマダムたちがオシャレで親切で。きちんと向き合ってくれるというか。それは当たり前のように思えて、稀有なことだと思うんです」
昔のアルバムを見ながら、笑ってしまう朗子さんと春美さん。なんと幸せな時間だったろう。
店を出て車が走り出して見えなくなるまで、〈思いつき〉のマダムたちは手を振って見送ってくれた。
横尾自ら主演を務めた『新宿泥棒日記』のポスター草案。この下書きだけで、配色のセンスの非凡さがわかる。
神戸だけの特別な色 どこにもない国の色
旅の最後は、〈横尾忠則現代美術館〉へと向かった。事前に申請すれば誰でも閲覧できる膨大な資料の中から、若き日の自画像や自ら主演を務めた大島渚監督『新宿泥棒日記』のポスター原案など、目の覚めるような色使いの作品を見せていただく。
横尾忠則現代美術館にて。一柳慧作曲「オペラ横尾忠則を歌う。」のレコード。
そこには神戸の混沌がベースになっているのかもしれないと、旅を巡って目にしてきたものの多様さから、勝手に解釈してしまう。
ミュージアムショップにはオリジナルのアイテムも。
「異なるものが共存しているのが神戸なのだと、この旅を通じて強く実感しましたね。横尾さんの作品にも描かれているけれど、看板や街灯も画一的ではなくて個性があって。オレンジ色の街灯に照らされた神戸は、どこか異国のよう。本当はどこにもない、神戸だけの特別な色なのに」と、春美さんは言った。
思いつき
兵庫県神戸市兵庫区西出町1-2-18
横尾忠則現代美術館
兵庫県神戸市灘区原田通3-8-30
思いつき
兵庫県神戸市兵庫区西出町1-2-18
横尾忠則現代美術館
兵庫県神戸市灘区原田通3-8-30
PROFILE
福田春美 Harumi Fukuda
企業のプロジェクトをはじめ、インテリアスタイリングなど、ファッションからライフスタイル系まで、幅広くブランドディレクションを手がけている。
●情報は、2018年5月現在のものです。
Photo：Norio Kidera
企業のプロジェクトをはじめ、インテリアスタイリングなど、ファッションからライフスタイル系まで、幅広くブランドディレクションを手がけている。
●情報は、2018年5月現在のものです。
Photo：Norio Kidera
【関連記事】
