福田春美が旅する神戸「船に紐づく街」 [FRaU]

2018年06月30日(土) 10時30分配信

古い港町ではやはり多様な文化が溶け合って、豊かな生活が育まれている。ブランディングディレクター福田春美さんが神戸の人に触れて感じるのは、それぞれが自分らしい世界の中できちんと地に足つけて暮らしていること。

シャイで親切で、ロマンチック。神戸らしさを追い求めて。“街のカオスを体感する” ために、異文化が交錯する港町・神戸を旅しました。
家具のような入り口に導かれ旅が転がり出していった

元町5丁目の看板上には鈴蘭のような丸い照明があるが、4丁目では四角いものに変わる。ディテールに面白さが。

家具のような入り口に導かれ旅が転がり出していった

本降りになりだした雨を避けるようにしてアーケードの中へと逃げ込み、元町5丁目を6丁目の方向へと歩く。左手に、周囲とは異なるまるで「家具のような」ファサードを見つけて、福田春美さんが足を止めた。ブランディングディレクターとして多様な分野で発信をしている “目利き” には「ここ、面白そうじゃない? 」と映って、ふらりと立ち寄ることに。

〈田村家具〉の店内には、ファサードと同じ、ヨーロッパ調の装飾が施された家具が陳列されている。奥から店番をしていた女性が出てきて、解説してくれる。

「神戸の港に就航する船のほとんどはヨーロッパ航路だったから、ヨーロッパで見たものを船大工さんたちが真似て作り始めたの。それが神戸家具の元になって、昔は婚礼家具としてお嫁に行く時に持って行ったんですけどね。今はなかなか(笑)」

そうやって〈田村家具〉の上広響子さんと神戸家具の歴史について話し込んでいるところへ、ご近所の女性が、なにやらお弁当のようなものを差し入れして帰って行った。「あら、恥ずかしい(笑)」と上広さんが笑う。
ひとしきり話した後に、店先に並んだ世界的な写真家のハーブ・リッツやパンクの女王と言われるパティ・スミスの書籍を春美さんが見つけて、「このラインナップは上広さんのご趣味ですか? 」と尋ねると、嬉しそうに頷いた。

店先の書物は、街の人たちが自由に借りることができるそう。商店街の “なんでもない” 家具屋さんにふらりと立ち寄ったつもりが、春美さんが惹かれた理由が明確になって、一気に神戸に迎え入れられたようだった。

舞台装置のようでもある〈田村家具〉のファサード。上広さんが出てきて見送ってくれた。親切で優しい神戸の人々。

「ちょっと手前に〈スターシップ〉っていうオムレツの店があるから、ぜひ行ってらっしゃい。さっきお弁当を差し入れしてくれたの、そこの方だから。〈スターシップ〉の店内もうちの先代が内装を手がけたのよ」

導かれるように、4軒手前に戻って、その名の通りまるで船のような店の入り口を開けた。
船の形をしたオムレツの美味しい店

洋食屋〈スターシップ〉にて「神戸らしさ」について話をする酒井さん(左)と春美さん(右)。赤いチェックのテーブルクロスがとても似合う、船室のような空間。元町のハイカラさを象徴している。

船の形をしたオムレツの美味しい店

「あら、さっき田村家具さんのところにいたでしょう」と迎えてくれたのは、酒井智恵子さん。かつて1階をカフェ、2階を写真スタジオとして先代が営んでいた店を、ご主人と一緒に洋食店としてリニューアルオープン。今では常連さんが孫を連れてやってくるほどの老舗へと育てた方だった。

2階へと通されると、そこは船の舵が照明としてあしらわれ、船窓が取り付けられた、なんとも言えないクラシックな空間。神戸はやはり、船に紐付いている。名物であるオムレツを食べると「懐かしい味!」と思わず口にしてしまう春美さん。シチューもデミグラスソースも丁寧に作られていることがわかるという。

スターシップ〉の人気メニューのオムレツ。ふんわりオムレツに特製デミグラスソース。王道の洋食。

酒井さんに神戸らしさについて尋ねた。

「そうね、表にブワッと出すわけじゃないんです。パッと見たら、もしかしたら地味かもしれないわね。でも、さりげなくお洒落っていうのかな。田舎の中にエレガンスがあるっていうのかしらね(笑)。私は、子どもの頃からこの辺ですからね、もう街を歩く人たちがみんな素敵で。喫茶店に入って窓際で歩いている人を見ているだけでワクワクする街だった。その中の一人に、早く自分もなるんだって幼い頃は思ってたわ(笑)」

神戸は「マダムたちがとても素敵」と、春美さん。上広さんと酒井さん、知り合ったばかりの二人の女性のハイカラさに神戸という街の表情のようなものを見た気がしていた。シャイで親切で、ロマンチスト。

〈スターシップ〉の他にも往年の神戸の空気を残している店をと、酒井さんに教えてもらったのがほとんどはす向かいと言っていい場所にある〈はた珈琲店〉。元町の中でも、5丁目は特に歴史ある店が残っている。

自家焙煎の〈はた珈琲店〉では、ハイカラブレンドと港町ブレンド、濃いめのオリジナルブレンドをいただいた。

〈はた珈琲店〉では、かつて1階で洋服店を営み、2階でコーヒーを出していたそう。同じ店舗で少し形を変えて営業している店が多いのだろうか。時代とともに変化して形を変えつつも、本質は変わらない。そんな印象。

マスター畑芳弘さんの隣には、看板娘として畑さんのお母さんが座っていた。「私もね、神戸っ子。コーヒーは好きやねん。コーヒーとビールが好きやから」と語る85歳の頼もしさ。「この町内は、とても仲がいいんですね」と春美さんが話を向けると、「そうなんですよ。一つの船に乗っている仲間のようなものですから」とマスターが言った。

 

 

田村家具
兵庫県神戸市中央区元町通5-3-12

スターシップ
兵庫県神戸市中央区元町通5-3-14

はた珈琲店
兵庫県神戸市中央区元町通5-7-12

PROFILE

福田春美 Harumi Fukuda
企業のプロジェクトをはじめ、インテリアスタイリングなど、ファッションからライフスタイル系まで、幅広くブランドディレクションを手がけている。

 
●情報は、2018年5月現在のものです。
Photo:Norio Kidera

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