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ピンクのトウシューズを履きながら、「うれしいけれど、やはり緊張します。新人アナが初めてマイクを持つときみたいに、トウシューズを履くたびに“アガってるな私”という感じです」城ヶ崎さんがはにかんで言う。
子どものときに囓っていたわけではなく、城ヶ崎さんのクラシックバレエは、正真正銘50歳から始まった。
「30歳からスキー、エアロビクス、ゴルフ、ランニングと、だいたい5年周期でスポーツをやってきたんです。それで50歳になったときに、どうせ新しいことに挑戦するなら、小さい頃に憧れていたバレエをやってみよう、と」

現在も通う『くるみバレエスタジオ』（世田谷区）は、自宅から通いやすいことと、先にここに通いはじめた“スポーツクラブ友だち”の口コミで選んだ。
「どこのスタジオもきっとそうだと思いますが、平日の昼間のクラスは40代以降の方が多いんです。みなさん、日常の忙しい時間をやりくりして、自分が楽しむために通っている。だから必死です。先生がおっしゃることを真剣に聞いて、理解しようと努めて、からだを夢中で動かす。とてもまわりを見ている余裕なんてないから、人と比べて劣等感や優越感を持つこともなく、レッスンが終われば『お疲れさま』で、サーッと自転車で散っていく。おとなのクラスはすごく居心地がいいです」レッスンを見学させてもらうと、想像以上の熱気だった。先生が生徒ひとりひとりのタイツを後ろから両手で引き上げるようにして、「ねっ、これよ。この感じ。からだが上へスーッと引き上がる感じ。このきれいなお尻を見せてほしいの！」と明るい声で叱咤激励する。とにかく熱いのだ。

1時間半のレッスンを終えて、頬を上気させた若々しい笑顔の城ヶ崎さんが言った。
「もう、汗だくです。お恥ずかしい姿だったでしょ？　でも楽しいんです。できなくても楽しい！　だって60過ぎた女性に誰も『もっときれいなお尻、見せて』なんて言ってくれないですよ」

今まで5年続けると、だいたい満足して何でもやめてしまった人が、バレエだけは「気が付いたら10年以上続けていた」。
「バレエに助けられていたところも、あるのかもしれないです。と言うのも、私、50代が結構しんどかったんですね。
52歳で母を亡くし、自分は更年期になって体調が悪くて。フラフラして焦点の定まらない更年期特有のめまいとか、頭は重いし、肩ははるし、毎日が曇り空みたいで。でも更年期は疾患ではないので、バレエはできる。むしろバレエをしている間は、目の前のことに一所懸命になれるから、体調の悪さもごまかせるんです。それに考えてみると、バレエは私が仕事でやっていることの真逆なんですね。ナレーションの仕事は、テレビモニターを見ながら、手元の原稿を読む作業を延々と続けるので、動かなくてからだが固まるし、目も疲れるし、喉も嗄れる。一方バレエは、声だけは使わない。真逆でしょう？　だから自然に、からだがやりたがるのかもしれない。それで続いたんですね」

60代の今は更年期の症状も落ち着いてきて、心身ともに50代よりもラクになった。そこへ、“トウシューズ・デビュー”という輝かしい出来事が！
「去年4月から、スタジオにおとな向けのトウシューズのクラスができたんです。“挑戦したい方は、自己管理のもとでどうぞ”ということで、私も思いきってチャレンジしてみようと。60代で、まさかの夢のトウシューズですよ！　人生捨てたもんじゃないです」
トウシューズのクラスと、一般のクラス、週2回なるべくレッスンに通っている城ヶ崎さん、現在62歳。
「私は私の中で、1ミリでも進歩できたらうれしい。ヒトハナ咲かせる花は、別にバラや菊でなくてもいいんですよね。名もない花でも、自分の心の中にパッと輝く瞬間があればいい。バレエが私にそれを教えてくれたんです」

■Profile
城ヶ崎祐子
じょうがさきゆうこ
フリーアナウンサー。1955年生まれ。東京外国語大学卒業後、’77年フジテレビ入社。ニュースキャスター、アナウンサーとして数々の番組に出演。冷静な語り口とキャラクターで幅広い層からの人気を得る。’97年に退社し、以後はフリーランスで活躍。現在、『人生が変わる1分間の深イイ話』（日本テレビ）など、ナレーションをメインに活動している。